第571話 パガル、トナリ村へ

3日後、ヒムクラートを出発したパガルはトナリ村に到着した。十数人の冒険者達と一緒である。


冒険者達は、オイレンという男をリーダーとするグループで、冒険者というよりは破落戸ならずものに近い集団であった。そんな者達を使うのをアケルは反対していたが、金を払えば犯罪まがいの事でも平気で引き受けてくれるので、裏で汚い仕事を命じる事もあるパガルとしては扱いやすい連中であった。


パガルは村の宿に入ると、早速アケルに命じ、ジョーズとは別に送り込んだという冒険者と連絡を取った。粗忽なジョーズを使おうとしたパガルを心配したアケルが、ジョーズの監視とフォローのために付けるべきだと進言し、ジョーズには内緒で送り込む事をパガルに認めさせたのだ。


アケルが送り込んだ冒険者は通称ビリー。荒事は苦手で、目立つ事を嫌い、主に調査系の仕事を好んでするので『調査屋』とも呼ばれている。真面目な仕事ぶりなのでアケルはビリーを信頼してよく使っていたのだ。


ただ、アケルは宿に来てパガルに直接報告するようビリーに言ったが、ビリーは評判の悪いオイレン達が来ている事を聞くと宿でパガルに会う事を拒否。しかたなく、アケルが話を聞き、パガルに報告する事にしたのであった。


アケル 「ビリーの情報によると、マンドラゴラを納品しているのはリュージーンという冒険者だそうです。ただ、手を出さないほうがよい、とビリーは言っていましたが」


パガル 「ん? どういう事だ?」


アケル 「このリュージーンというのはSランクの冒険者だとの事です。絡んだ冒険者はことごとく返り討ちにあっているとか」


パガル 「Sランク? そんな奴がどうしてこんな辺境の村に居るんだ? そういう奴は大抵、どこかの貴族に囲い込まれているんじゃないのか?」


アケル 「さぁ? 魔境と呼ばれる森が近いので、高ランクの冒険者が居てもおかしくは無いと思いますが?


ただ、だとすると、ビリーの言う通り、手を出すのは危険かと思われますが…」


パガル 「むむむ……だが、こっちにも引くに引けない事情もある。…間違いないのか? その冒険者がSランクだというのは?」


アケル 「……それが、どうやら、ビリーもこのリュージーンという冒険者の姿を直接は見たことがないのだそうで。このリュージーンという冒険者は、最近はほとんど冒険者活動をしておらず、冒険者ギルドに姿を全く見せないらしいのです。


まぁ、高ランクの冒険者が引退して田舎の街でスローライフを志すなんて話も珍しくはないですから、その類なのかも? 魔境の森でも、Sランクにとっては何の危険もないのかもしれませんしな」


パガル 「かもしれんじゃねぇんだよ」


アケル 「坊ちゃま、言葉遣いが荒れていますよ?」


パガル 「別にいいだろ、ここは屋敷じゃねぇんだ」


アケル 「まったく、あんな破落戸共と付き合うようになってから、坊ちゃまの言葉遣いがどんどん荒くなってしまって」


パガル 「坊ちゃまはやめろ! それより! 冒険者の情報など、ギルドで聞けばすぐに確認とれるだろう?」


アケル 「それが、ジョーズが迂闊な尋ね方をしてしまったらしく、警戒されて、冒険者ギルドは情報を漏らさないのだとか」


パガル 「それなら、この村にいる他の冒険者に訊けばいいだろうが。冒険者なんて酒でも飲ませれば簡単に口を割るだろう。その程度の機転もきかないのか、アケルの手配した冒険者は?」


ムッとした顔のアケル。


アケル 「…もちろん、ビリーもそちらから調査したそうですが?」


パガル 「フンそうか。で?」


アケル 「ジョーズのせいでギルドが警戒しているため、あまり大っぴらに聞いて回る事ができないと言っていました。ギルド職員に怪しまれますからね。時間が掛かったのはそのせいもあったとか。それと、冒険者の入れ替わりは激しいので、村に以前から居る冒険者がなかなかみつからなかったようです」


パガル 「言い訳はいいんだよ。それで?」


アケル 「なんとか古参の引退した冒険者を見つけて話を聞く事ができたそうですが、リュージーンという冒険者はSランクで間違いないと言っていたそうです。リュージーンは恐ろしい奴だ、絡まないほうがいいぞ、とも言われたとか。ただ、酒の席で笑いながらだったので、冗談だったのか本気だったのか分からなかったそうですが」


パガル 「結局、らしいとか、聞いたとかそんな話ばっかりで、はっきりしないな。本人には接触してないのか?」


アケル 「直接接触せず、情報を探れという指示でしたから。住んでいる場所までは突き止めたようですが」


パガル 「なに、どこだ?」


アケル 「村の北側にある孤児院だそうです」


パガル 「孤児院? 子供ガキなのか?」


アケル 「いえ、逆です、経営者というか、オーナーらしいですな」


パガル 「ソイツは貴族なのか?」


アケル 「いえ、平民だそうですが。一切国からも貴族からも援助を受けず、自費で孤児院を開設、経営しているのだとか」


パガル 「自費で? 金持ちの商人の道楽か…? いや、冒険者だったな。マンドラゴラの収入で孤児院を支えているという事か」


アケル 「おそらく。腕の良い冒険者が、その稼ぎで孤児達を受け入れて養っているという事なのでしょう。もしかしたら当人もどこかの孤児院出身なのかもしれませんな。

孤児院では、孤児達だけでなく、村の子供や村人にも勉強を教えたりしており、村での評判はすこぶる良いようです」


パガル 「ふん、善人ぶりやがって、気に入らないな…」


アケル 「……」


パガル 「それで、ジョーズの野郎はどうした?」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


「孤児院を襲うのか?」


乞うご期待!



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