第343話 俺達にも食料を寄越せっ!



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※この話では、実験的に表記方法を少し変えております

ご感想(コメント)などお待ちしております。


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タビル

「なに、儂が話を聞いたときにはもう遅かったのかもしれん、アンタ達のせいじゃないよ」


オルアナ

「ウチに何か食べるものがあればよいのですが、あいにく何も残っておりませんで……」


ミィ

「あの、リューさん…?」


リュー

「ああ。食べ物ならあるぞ」


再びオルアナの家に入り、タビル爺さんにも食事を出してやったリューは、明日以降の分として、日持ちしそうな食材を渡してやった。


そろそろ帰ろうとしたリュー達であったが、オルアナの家を覗き込むようにスラムの住人が何人か集まっているのに気づいた。


リュー・ミィ

「?」


表に出たリュー達に集まっていた者達が話しかけてきた。


スラムの男

「なぁ、あんた! 食い物持ってるのか? あるなら俺達にもくれないか?」


リュー

「売ってほしいのか?」


スラムの男達

「う…金なんかねぇよ」


「あんた、オルアナとタビル爺に食事を食べさせていたよな? 隠したって匂いで分かるぞ! オルアナ達にはタダで食べさせたんだろう? あいつらだって金なんか持ってねぇはずだからな」


「そうだ、だったら俺達にだって恵んでくれてもいいだろう?」


スラムの女

「そうだよ、オルアナ達だけってのは不公平じゃないか!」


スラムの男1

「そうだ、不公平だぞ!」


リュー

「悪いが、それは仕方がないな。不公平でダメな理由もない」


スラムの男2

「なんでだよ! ズルいじゃねぇか」


リュー

「では、ここに居るお前達に食料を渡したとして、それを知ったら、ここに居ない者達は不公平だって言い出すんじゃないか?」


スラムの男1

「そりゃぁ、この場に居なかった奴が悪い」


リュー

「じゃぁ、お前達も人の事は言えんだろう? さっき居なかったお前達が悪い」


スラムの男1

「だが、今は居る!」


リュー

「ここでお前達に食料を渡しても、居なかった連中が不公平だと言い出す。そいつらにも食料を渡すと、また手に入らなかった連中が文句を言う。そうなったら、いくら食料があっても足りないだろうが? 仮にだ。俺が食料をまだ持っていたとして、お前達全員に行き渡る分がなかったらどうするんだ?」


スラムの女

「なぁ、アタシ達にだけ、いや、アタシにだけ、何か食べるものをくれないか? もう二日、何も食べてないんだよ」


スラムの男2

「なんでお前だけなんだよ」


スラムの女

「アタシは女だからだよ! 女をいたわれよ!」


スラムの男1

「そんなの関係ねぇ、男女平等だ!」


言い合いを始めた者達を見て、肩を竦めるリュー。


リュー

「そんだけ元気があるなら大丈夫だろ。悪いが俺はお前達に何の義理もないんでな。もう行くぞ」


スラムの男2

「おい、待て! じゃぁなんでオルアナ達は助けたんだ? お前達みたいな知り合いが居るとは聞いてないぞ?」


リュー

「古くからの知り合いという訳ではないが、ちょっと前にアイシャと街で知り合ったのでな」


スラムの女

「じゃぁ、アタシとも知り合いになっておくれよ! アタシはロナだ!」


リュー

「知り合いの押し売りはいらんよ…」


スラムの男2

「もういい!」


男が短剣を抜いて立ち塞がった。


スラムの男2

「いいから食い物持ってるなら全部おいていけ!」


だが、その時には既にミィが剣を抜いて立ち塞がった男の喉に向けていた。


ミィ

「アタシ達は冒険者よ、それも凄腕・・のね。馬鹿な真似はおよしなさい!」


ミィの動きにまったく反応できなかったスラムの男はヨロヨロと後退って尻もちをついた。


ミィもCランクの冒険者である。Cランクと言えば冒険者としてはベテラン職人と評価されるランクである。一般人では相手にはならない。


リュー

「貧しい人が居るのを気の毒とは思うが、俺がそれら全員を救ってやる事はできないんだ。その義務もない。そういう事は領主が考える事だろう。領主の息子が炊き出しをやっていたようだぞ?」


スラムの男1

「ああ、知ってるよ。一杯スープをもらった」


ミィ

「ちょ、そっちでも食ったんか―い」


リュー

「そんな事だろうと思ったよ。本当に病気で動けない者は、炊き出しにすらもありつけないんじゃないのか? それだけ元気なら、動ける者は自力でなんとか考えるんだな」


スラムの男2

「待ってくれ! じゃぁせめて、水だけでもくれないか? 井戸を閉鎖されちまって、俺達は雨水を啜ってなんとか生き延びてるんだ」


リュー

「そういえば、井戸が封鎖されているとか言ってたな。まったく使えないのか?」


スラムの男1

「ああ、領主がろくに調査もせず、井戸が原因の可能性があるとか言って、一つを残して埋められちまったんだよ。残った一つも調査用とかで、俺達には使わせねぇように魔法で防御してやがって、近づけねぇのさ」


ミィ

「酷い……、水がなかったらどうやって生きて行けと…」


スラムの男2

「領主は俺達に死ねって言ってんだよ。息子のジャスティンはまだ多少はまともなようだが、領主は俺達を全員殺してスラムを焼き払えって言ってるらしい」


スラムの男1

「元気なやつらが井戸を掘ろうとしてるが、そう簡単に掘れたら苦労はしねぇやな」


リュー

「残った井戸は奪還できないのか?」


スラムの男2

「やつら、凶悪な魔道具を置いててな、井戸に近づこうとすると雷が飛んで来るんで、近づけねぇんだよ」


リュー

「そこに案内してくれるか?」


スラムの男達

「あんたら、なんとかできるのか?」

「無理さどうせ。雷は避けられねぇ」


リュー

「まぁ見せてくれ」



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次回予告


井戸の守護像


乞うご期待!



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