第633話 汚らわしい闇属性の魔法使いめ

リュー 「ああそうだ」


衛兵A 「どうして…こうなったんだ?」


リュー 「コイツラが俺を逮捕しに来た。


俺が抵抗した。


こうなった。


…お前達も?」


衛兵A 「?」


リュー 「逮捕に挑戦してみるか?」


倒れているのはこの街の領主の雇っている騎士達。


衛兵もまた、領主に雇われている身なのだから、騎士達の仲間という事になるわけで。


騎士達に暴行を働いた悪人が入れば、治安維持のために逮捕しなければならないはずなのだが……


衛兵A 「え? ああ、いや……やめておこう。騎士達が歯が立たない相手を、俺達が逮捕するなんて荷が重すぎる。そもそも逮捕しろなんて命令は俺達は受けてないしな」


リュー 「騎士をブチノメシタ現行犯って事だけで、逮捕する理由は十分じゃないのか?」


衛兵A 「いやぁ、俺達は街の治安を守るのが仕事であって、騎士達を守るのは仕事に入ってないからな。そもそも、衛兵よりはるかに強いはずの騎士が衛兵に守られるってのは変な話だろ?


だいたい、俺達に指令が来ず、騎士が直接逮捕に来たという事は、ロクでもない容疑なんだろう。自分たちの雇い主の悪口を言いたくはないが、ここの領主様はちょっと、ワガママな人物でな」


衛兵B 「ちょっとじゃないだろ…」


なるほど、どうやらこの街の領主は人望がないようだ。まぁあの息子やら騎士やらの行状を見れば、そりゃそうかとリューも納得した。


リュー 「そうか、じゃぁ、邪魔だからこの連中は片付けておいてくれるか。ああ、治癒士は呼ばなくていいぞ、治癒魔法は向こう一年効かない呪いを掛けておいたから、無駄になるからな」


衛兵A 「マジかよ、そんな呪いあるのか?」


リュー 「試してみたら分かるさ」


衛兵B 「俺は治癒魔法が使える。と言っても小さな切り傷を治す程度で精一杯だがな。ちょっと試してみてもいいか?」


どうぞ、と目線で応えるリュー。衛兵はさっそく近くの騎士に治癒魔法を掛けてみたが……


黒いモヤに邪魔されて、治癒魔法が体に届かない。


衛兵B 「おぉ、本当に効果がないようだな」


衛兵A 「治癒魔法が効かないとは、酷いな」


リュー 「なに、期間限定だ。一定期間過ぎたら治癒魔法も効くようになる」


衛兵A 「どれくらいの期間だ?」


リュー 「おおよそ、一年くらいかな…」


衛兵B 「長いな」


衛兵A 「その間ずっとこのままか? 酷いな…」


リュー 「エライザに手を出す奴は全員こうなる。領主にも伝えておくがいい」


衛兵 「お前、名前は?」


リュー 「リュージーン。旅の冒険者だ。ちなみにランクはSだ。こんな小さな街のギルドではSランクをどうこうする権限はないそうだから、冒険者ギルドに苦情を言っても無駄だぞ?」


衛兵 「Sランク…どうりで。この街の騎士達は、素行は悪いがそれなりに腕は立つ連中なんだ。それが全員この惨状……Sランクというのはすごいものだな…」



―――――――――――

―――――――

――――

――






――

――――

―――――――

―――――――――――


領主邸


サルタ子爵 「エッグよ、なんたるザマだ! 貴様ともあろうものが…」


エッグと呼ばれたのは、リューを襲った騎士団の団長であった。


衛兵から知らせを受けて、倒れていた騎士達は領主の屋敷の一角に運び込まれたのであった。リューの逮捕に招集されなかった、屋敷に残っていた騎士達が運んだのだが、全員手足を砕かれていたため、荷車に載せて運ぶ必要があった。


エッグ 「し、仕方ないでしょう、全員で掛かってもまったく歯が立たなかったんです。あんなの、捕らえろって命令のほうが無茶ってもんですよ…」


サルタ 「ふん、お前がそうまで言うって事は、Sランクは伊達じゃないということか…」


エッグ 「バケモノですよ…」


その時、執事のマヅンが子爵に声を掛けた。


マヅン 「治癒師の方がお見えになりました」


サルタ 「やっと来たか。早く治療させろ」


エッグ 「おお、あ、ありがとうございます……」


サルタ 「本当は余計な金を使いたくはないのだがな。しかし騎士団の精鋭がこの状態では、戦力低下が著しいからな。今回は仕方ない。そうでなかったら全員放置しているところだ」


だが、呼ばれた治癒師達が治癒魔法を掛けても、まったく効果が現れないのであった。


やっぱりと騎士達は全員鎮痛な表情でそれを聞いていた。


騎士A 「やっぱり……奴が言っていたのは本当だったのか……」


騎士B 「一年、俺達はずっとこのままなのかよ?!」


サルタ 「どういう事だ?」


マヅン 「…おそらくこれも、ルイ様と同様、呪いだと思われます」


サルタ 「ぐぬぬ、またしても呪いだと? その冒険者は、汚らわしい闇属性の魔法が得意なようだな。その力でSランクとなったのか? 


だが、厄介ではあるが、貴族に逆らい危害を加えた者を放置したとあっては、領主として、貴族として舐められる事になる。おい、すべての騎士を集めろ。衛兵達もだ。武装も魔道具もフル装備でな」


エッグ 「いや、奴には勝てない、と思います……お館様、やめたほうが……」


サルタ 「何を言っている、奴を倒さねば、お前たちはずっとこのままなのだぞ?」


実はずっとこのままではない。治癒魔法は届かないが、人間には自然治癒力というものがある。リューの呪いはそこまで阻害するものではないので、放っておけば、時間は掛かるだろうが、ある程度は治るはずなのだ。もちろん、キチンと処理しなければ折れた骨がおかしな角度でくっついたりする事はあるだろうが、ずっと折れたままという事はない。


だが、治癒魔法に慣れきってしまった貴族は、自然治癒という感覚は薄く、ほぼ忘れているのであった。


サルタ 「何より、ルイがあのままではかわいそうだろうが!」


サルタ子爵は騎士達より息子の事を思ってリューを倒すと言っているのであった。


サルタ 「マヅン! お前が指揮を取れ! これは戦争だ!」


マヅンは今はサルタ子爵家で執事をしているが、実は若い頃は暗殺者として暗躍した、子爵家の裏の武力を束ねるトップなのだ。


サルタ 「マヅン、お前ならやれるだろう? 手段を選ぶな! ああだが殺すなよ? 五体満足である必要はないが、生かして連れてこい。


如何にSランクと言えど、数で攻められればどうにもなるまい。本気の子爵家の力、見せてやるわ」


マヅン 「御意」


やがて、領主邸の庭に集まった騎士達、総勢百人ほど。田舎の子爵としてはこの程度で精一杯であろう。それに、集められた者達は腐っても騎士である。末端の騎士でさえ、冒険者で言えばB級以上の実力は備えているのだ。騎士が百人居れば、かなりの戦力であると言える。


さらに、街の警備をしている衛兵達が挙って呼ばれた。街の治安を守る仕事もそっちのけで、全員である。それが総勢二百人ほど。


マヅン 「さて、どうするか……。命令されたはいいが、本当に街中で戦争を始めるわけにもいかんし……」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


荒野で領主軍と決闘


乞うご期待!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る