第632話 やってみろ

エライザに剣を突きつけた騎士は、団長の目配せだけで即座に動いていた。普段からこういう事に慣れているのだろう。


リュー 「…エライザ、二階で待ってろと言っただろう?」


エライザ 「窓からじゃよく見えないんだもん。それに、見てるだけじゃつまんないし」


リュー 「参加するか?」


団長 「動くな! 動けばこの娘の首が飛ぶ事になるぞ?」


リュー 「首が飛ぶ?」


団長 「形勢逆転だな! お前には娘が居るという情報は聞いていたからな。そもそも、娘に手を出されてキレてルイ様をやったそうだな? だがつまり! 逆に言えば、その娘が弱点になるというわけだ」


リュー 「やれやれ……最初からそれを狙ってたという事か?」


団長 「そうだ! 相手の家族を人質に取るは、人間相手には常勝の秘策よ! 魔物の相手しかしてない冒険者には思いつかんだろう? 大人しく投降しろ!」


リュー 「常勝の秘策って…


まぁいいや。いいよ、やってみたらどうだ?」


団長 「? 何をだ?」


リュー 「人質を。傷つけられると思うなら。やってみればいいと言ってるんだ」


団長 「何?!」


騎士1 「だ、団長……」


団長 「どうした???」


騎士1 「動きません……」


見れば、エライザが剣をつきつけている騎士の手首を掴んでいた。その膂力は強く、騎士は剣を持つ腕をまったく動かす事ができないのであった。


リュー 「自分達より圧倒的に強い者を人質に取るのは、無理だと思うぞ?」


そのうち、騎士が悲鳴を上げ始めた。掴んでいる手首を、エライザが渾身の力を込めて握り始めたのだ。騎士は鋼鉄製の篭手ガントレットを装備していたが、エライザの指の形に篭手は潰れていく。エライザも純血の竜人である。その握力は、リューほどではないにせよ、人間の比ではないのだ。


手首に食い込む鋼の痛みで騎士がついに剣を落とすが、それでもエライザは手首を離さず、半身を返して片方の手で騎士の胸ぐらを掴むと、キレイな背負投げを披露した。否、背負い投げというよりは、力尽くで引っこ抜いて叩きつけただけであった。


竜人の膂力で思い切り地面に叩きつけられた騎士は『ひぎゅっ』という悲鳴?とともに悶絶する。


団長 「なっ…! 情報では娘はFランクの新人冒険者だったはずだぞ?」


エライザ 「そうよ? 私は先日冒険者に登録したばかりのFランクよ」


リュー 「ランクなど当てにならないと、さっき自分で言ってなかったか?」


団長 「くそっ、一旦引くぞ!」


リュー 「逃げるんか~い! って逃がす訳ないだろ」


『ぶげらっ!』


次の瞬間には、【加速アクセル】を発動したリューによって団長と残りの騎士達は全員棍棒で打っ飛ばされ、地面の上を派手に転がっていった。


団長 「バ……化け物め……」


リュー 「ほう、意識を失っていないのはさすが、騎士団長を任されるだけの事はあるか…


…まぁ好都合だ、まだ終わりじゃないからな?」


団長 「?」


リュー 「お前達は一つ、決定的な過ちを犯した」


団長 「過ち…?」


リュー 「俺の娘に手を出した事だよ。それさえなければ、軽めに済ませてやるつもりだったんだがなぁ?」


言うなり、リューは近くで倒れていた騎士の足を棍棒で叩き潰した。


騎士 「うぎゃぁぁぁ!」


気を失ったふりをしていたのか、あるいは叩かれた衝撃で目を覚ましたのだ分からないが、その騎士は大きな悲鳴を上げたが、再び動かなくなった。


リュー 「娘に手を出した時点で厳罰確定だ。次! もう一本…! さらに次だ…」


ドスンドスンと周囲に倒れている騎士達の手足を無情に叩き潰していくリュー。


エライザ 「うわ、痛そう……ちょっとやりすぎなんじゃ?」


リュー 「いんや、許さん! エライザにちょっかい出した奴らには報いを!」


エライザ 「私は無傷だけど…。リューったら、相変わらず過保護ね、昔と変わらない。でも、もう私も大人になったわ、昔の小さいエライザじゃないのよ?」


リュー 「俺にとってはいつまでも変わらない、小さくて可愛いエライザだよ」


そう言ったリューは、少しだけ和やかな表情かおをしたが、手は騎士達の手足を潰す作業を続行している。


団長 「お…い…やめろ! …動けない者を甚振るなんて、卑劣すぎるだろうが……!」


リュー 「幼児に暴力ふるったり、女を人質に取ったりする連中に卑劣とか言われてもなぁ…」


引き続きお仕置きが続行される。


リュー 「さて…、残るはお前だけだ」


団長に近づき棍棒を振りかぶるリュー。


団長 「ひぃっ! やめてくれ! 悪かった! 謝るから! やめろー!!」


だが、無情にも棍棒は振り下ろされる。


リュー 「まぁ、この程度なら、治癒魔法で治せる範囲だ。随分と優しいだろう?


だが、それじゃぁ罰として軽すぎるか。よしじゃぁ、期限付きの呪いを掛けてやろう」


そう言いながら、リューは魔法制御の仮面を闇属性の黒の仮面に変えた。リューは最近は闇属性の魔法を練習している。これまであまり闇属性の魔法を使ってこなかったリューだが、使ってみると他の魔法とは随分特性の違う魔法が多く、ちょっと面白いと思ったのだ。


リュー 「そうだな、期限は1年くらいで…」


団長 「…き…げん…?」


黒い禍々しい魔力が騎士達の身体を包んでいく。


エライザ 「どうなるの?」


リュー 「設定した期限が過ぎるまで、闇の魔力が治癒魔法を阻害する」


エライザ 「うわ、じゃぁあと一年このまま……?」


リュー 「それだけあれば、コイツラも少しは反省するだろ」


『おい、何をしている!? うわなんだこれは?!』


そこに駆けつけてきたのは街の衛兵達である。手足を潰されて地面に転がっている十数人の騎士達を見て、青くなっている。


衛兵A 「…お前が…やったのか?」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


領主 「これは戦争だ!」


乞うご期待!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る