第631話 なんかズルっ!

騎士A 「……っ! いやいや団長、ヤバいですって!」


騎士団長 「コケ脅しだ、ビビるな!」


騎士A 「Sランクの冒険者は国内には片手で数えるほどしかいないって聞いてますよ! その実力は一騎当千、戦争の局面すらも一人でひっくり返すとか…」


団長 「それは単なる噂、デマだ。冒険者なんてのはワガママ気ままな連中だ。Sランクなどと言っても、いざ戦争となったら雲隠れして参加しない者がほとんどというのが実態だそうだ。だから戦争で活躍した例など実際にはないんだよ」


リュー 「まぁ、そうかもしれんな。Aランク程度ならともかく、Sランク級の冒険者ともなれば、貴族同士のくだらん権力争いには加担しないって者は多いだろうからな」


団長 「冒険者などというのは魔物を狩るのが少し上手いに過ぎん。対人戦闘は我々騎士には遠く及ばんのだよ」


リュー 「まぁ言ってる事はごもっともだがな」


団長 「ふん、弱気になったか? これだけの騎士を相手に虚勢を張ったこと、後悔するがいい!」


剣を抜く騎士団長。それを見て周囲の騎士達も剣を抜いた。


リュー 「騎士だけに、やはり剣が得意か? ならば、俺も合わせて剣で相手をしてやろう。しかもハンデ付きだ、俺は木刀で相手をしてやる」


団長 「負けた時の言い訳にするなよ? …ってちょ待てよ! それはなんだ???」


亜空間収納から取り出した “棍棒” 

を構えたリューを見て団長が思わず叫んだ。


リュー 「素振り用の木剣だが?」


それは、木剣というよりも、地球でいう野球のバットに似た形状だった。持ち手部分は細いが、先端向かうにつれどんどん太さが増して行く、円錐状の棍棒である。しかも、その先端は地球のバットより二~三十倍も太い。


さらに、外見からは分からないが、芯に重金属の鉄芯が入っており、非常に重くなっている。


とある街でふと見かけて購入したものであるが、これは、遠方の国の民族が使う鍛錬器具で、リューは素振り用の木剣と勘違いしていたが、実は筋力の鍛錬用の重りウェイトであった。


本来の使い方は、音楽や太鼓に合わせて、先端を下に向けたままぐるぐると身体の周りを回しながら全身を鍛えるというものである。剣のように振り回すなど、普通の人間にはできない代物である。


しかし、リューの筋力ではその程度の重さ問題ない。というか、素振り用としては物足りないのであった。なにせ、リューは自分用に、はるかに重い特殊金属製の木剣を持っているのだから。


そのため、形状がなんとなく気に入って衝動買いしたはいいが、使う機会もなく死蔵されていたのだ。それを思い出したリューは、使い道もないので、ここで使い捨ててしまっても良いだろうと出したのである。所詮は木製であるため、真剣を相手にしたら傷ついてしまうだろうが、別に惜しくはない。


それを両手に一本ずつ、二刀流で構えるリュー。


団長 「おい、どこから出した? マジックバッグ? というか、そんな重そうなモノ、振り回せるのか?」


リュー 「余裕だが?」


ブンブンと棍棒を軽々と振り回して見せるリュー。恐ろしい風切り音がしている。


騎士A 「あの重そうな棍棒を、あんなスピードで…」


騎士B 「おい、あんなので打たれたら…」


騎士C 「だ、団長……やっぱやめといたほうがいんじゃないスかね?」


団長 「…ば、ばかやろう。戦いもしないで、強そうだったので逃げ帰ってきましたなんて報告して、子爵が許してくれると思うのか? 

なぁに、当たらなければ怖くはない! 剣を早く振り回すだけなら腕力がある者なら誰でもできる。本物の剣技というものを見せてやれ!」


騎士A 「ではまず、団長殿からお手本を…」


騎士B 「そうそう、お手本を」


団長 「……


……それは駄目だな。まずはお前達からだ」


騎士C 「なんかズルっ!」


団長 「だってお前ら、俺が真っ先に行ってやられたら、戦わずに逃げるだろ?」


騎士C 「それは……まぁ」


団長 「少しは否定しろよ」


騎士B 「お、俺達に戦わせておいて、団長だけ逃げる可能性だって」


団長 「なにぃ!?」


騎士B 「いえ、なんでもありません」


団長 「安心しろ、お前達だけ死なせはせん」


騎士A 「やっぱり団長も負ける前提なんスね……」


団長 「ば! やる前から気持ちで負けていてどうする?! 負けなければいいんだ! 相手は一人、全員で掛かればいいだろう! 死にものぐるいでやるんだ! なせばなる! さぁ…!

 

……掛かれ!!」


その掛け声とともに、破れかぶれで斬りかかってくる騎士達であったが……


鋼鉄製の剣も防具もリューの腕力で振られる重い棍棒の破壊力の前には為す術もなく。


ブン!


という音がするたび、


ブギャ!


という悲鳴だか打撃音だか分からない音がして、一人、また一人と地面を転がっていくだけであった。


あれよあれよと倒れていく騎士達。気がつけば、残るは騎士団長とその取り巻きの騎士数人だけとなっていた。


リューが団長に向かってクイクイと手招きする。


リュー 「どうした? やっぱり逃げるのか?」


団長 「何…を…? 生意気な…」


そう言いながらも、このまま正面からやりあって勝てる自信は騎士団長にもあまりないのが正直なところであった。


だがその時、宿の中からエライザとエディ、ドラ子が出てきた。それを見た団長の目が光る。


一人の騎士が素速くエライザの背後に回り、首に剣を突きつけた。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


常勝の秘策


乞うご期待!



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