第630話 だが断る

リュー 「……来たな?」


【空間把握】これは時空属性に属する【鑑定】魔法の一種である。それによってそれらしい集団がこちらに向かってくるのをキャッチしたのだ。



― ― ― ― ― ― ―

※実はリューは今、時空属性の仮面は着けていないのだが、不完全ではあるが仮面を着けなくとも、リューは少しであれば時空魔法を使う事ができた。時空魔法については才能が僅かにせよ身についていたのだ。


リューには魔法の才能というかセンスがまったくなかった。その原因は定かではない。おそらく前世の地球(あるいはそれ以前の過去世においても)そのような事に関心がなかった事に起因しているのではないかとリューは思っている。好きこそものの上手なれ。逆に、興味が無い事は、いくら練習してもなかなか上達しない(上達しようというモチベーションも上がらない)ものである。魔法やファンタジーにあまり興味がなかったリューには魔法のセンスが備わらなかった、という感じではないかとリュー自身は思っている。


この世界に転生してからは、転生時ボーナスによる【スキル】として【時空魔法】が自在に使えたリューであった。今ではその【時空魔法】の能力スキルは失われてしまった。ただ、【魔力分解(生成)能力】(と【竜人】関係の能力)は残っている。


そのおかげで、事実上、無限の魔力を生成行使する事ができるので、時空魔法を含むすべての魔法をリューは使う事ができる。……はずなのだが、リューには魔法を使うセンスがないので、不死王の魔法制御の仮面に頼っているわけだが。


不死王は、いずれ使っているうち、慣れてくれば、仮面なしでも魔法が使えるようになるはずだと言っていたが、センスがないリューには、慣れるのにも時間が人の十倍掛かるのであった。


僅かずつしか上達しない魔法ではあったが、ただしひとつだけ、【時空魔法】だけは他の魔法よりも成長が早かったのである。転生時から使えたせいか、他の魔法よりは適性があったのだ。

― ― ― ― ― ― ―



その【空間把握】能力でリュー達が泊まっている宿に十数人の集団が近づいてくるのを探知したリュー。(そのうち来るだろうと、なんとなく薄くだが、空間把握を常時展開していたのだ。)


リューは試しに闇属性の仮面を装着し【敵性判定】の魔法を使ってみた。すると、近づいてきているのは全員【赤】=敵対反応である。


リューは宿の窓を開け、通りを見てみる。すると、十数名の騎士達がこちらに向かってくるのが見えた。


ちょうどその時、通りの露店を手伝っていた幼い子供が売り物の果物をうっかり落としてしまったのが見えた。そして、それを追いかけてその子供は、騎士達の行軍の前に出てしまったのであった…。


騎士1 「おらぁどけぇ! 邪魔だ!」


騎士に蹴り飛ばされる幼児。


店主 「マルコ! 酷い、何をするんですか!」


騎士1 「ああ? うるせぇぞ、俺達の前に立ちふさがったガキが悪いんだろうが」


騎士2 「だいたいお前ら、誰に許可をもらってここで商売してんだぁ?!」


商人 「私たちはちゃんと、商業ギルドから許可をもらって…」


騎士1 「商業ギルドぉ? そんなのは関係ねぇんだよ、俺達が許可したかどうかが問題なんだよ」


※もちろんそんな決まりはない。


騎士2 「今日からお前は商売禁止な」


商人 「そんな……」


騎士達はそう言うと、その店主の屋台をひっくり返して壊してしまった。後ろの方に居た騎士が転がった果物を拾って齧っている。


商人 「酷い…」


騎士1 「文句あるなら死ぬか?」


騎士が剣を半分抜いて脅すので、商人は黙るしかなかった。


リュー 「なんだありゃぁ? 騎士というよりは地回りのチンピラか」


一応騎士らしい制服をしているし、貴族家の紋章らしきものも入っているので、この街の騎士ではあるようだが…


蹴られた子供は泣いていたが、幸いにも怪我などはしていないようだ。


リュー 「どうやら、手加減は無用な連中のようだな…」


    ・

    ・

    ・


そして、とうとう輩騎士達がリューの泊まっている宿に乗り込んできた。


『おい、この宿にリュージーンという冒険者が居るだろう!? どの部屋だ?! 隠し立てすると痛い目を見る事になるぞ?!』


入り口近くのテーブルを蹴り倒しながら騎士が怒鳴る。


時空魔法の仮面に付け替えながらエライザ達に部屋で待っているように言うと、リューは宿の外に転移した。こんな連中では穏やかには済まない、というか済ませる気がなくなったので、宿に迷惑が掛からないよう外に移動したのだ。


リュー 「遅かったじゃないか。待ちくたびれたぞ?」


宿に入りきらず外で待っていた騎士達が振り返りリューに気づいて道を開けた。宿から出てきた騎士団長と対峙するリュー。


騎士団長 「お前がリュージーンか? 領主の命令だ、お前を逮捕する」


リュー 「断る!」


騎士団長 「っ、断れる話ではないわ!」


リュー 「だが、無理だぞ?」


騎士団長 「抵抗するなら痛い目に遭う事になるぞ?」


剣を抜く団長と騎士達。


リュー 「止めておけ、一応忠告してやる。俺はSランクの冒険者だ、お前達が束になっても敵いはしない。痛い目を見るのはお前達のほうだぞ?」


騎士団長 「Sランク? ふん、冒険者など、しょせんは魔物相手のハンターに過ぎんだろうが。命のやり取りをしている騎士と比べれば所詮は遊びよ」


リュー 「そう思うならやってみるがいいさ。先程の路地での振る舞いを見てしまったからな。俺もこのままお前達をただで帰す気はない…」


リューが【威圧】を発動する。この世界の【威圧】は単に凄んで見せるとか気合を入れるとかいう気持ち的なものではない。そこに魔力を乗せ相手にデバフ効果を発揮する、一種の攻撃魔法なのだ。込める魔力量によっては物理的な作用さえも発生する。そして、リューには込められる魔力に制限がないのである。さらに言えば、今リューが着けているのは時空魔法の仮面であるため、空間を専有・圧倒するように威圧が圧迫感を持って広がっていくのだ。


その【圧】の強さに思わず周囲の騎士達は数歩後退って行った。倒れなかったのはさすがは騎士というところである。(とは言え、まだリューも全力を込めたわけではなかったのだが…)



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


団長 「お前ら、力を見せてやれ!」

騎士A 「いやまず、団長殿からお手本を…」

騎士B 「そうそう、お手本を」

団長 「……」


乞うご期待!



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