第629話 もう一回? 無理ッス!

ラジル 「ま、いいでしょ、やりましょう。どうせそうなるだろうと思ってたから、こうして呼び出しに応じて来たんですから。


まったく、貴族というのは……公爵様も、保護していると言えば聞こえはいいですが、実態は毎日毎日魔力が尽きるまで働かされて。自由もないブラックな環境で。高額な治療費も上前ハネられて公爵の懐が潤うばっかりですし……」


後半は小声でブツブツ愚痴を言っていたラジルであったが、思い出したようにサルタに向かって言った。


ラジル 「あ、仕事はしてもよいですが、ちゃんと金は貰いますからね? いやいや、タダで働いたなんて事がバレたら、公爵様がそれこそ黙ってないですよ?」


公爵の名前を出されると、子爵ごときでは踏み倒す事もできなくなってしまう。


サルタ 「いくらだ?」


治癒師 「一万Gゴールドです※」


(※1G=小金貨一枚=日本円にして約一万円)


サルタ 「…高いな」


治癒師 「あ、指一本の値段ですので。両手の指全部だと十万G、さらに手首までと肘までの分はそれぞれ三万G頂きます。出張費も二万G加算して、ええっと、合計…二十四万Gですね」


サルタ 「そっ、高すぎじゃないか? 足元を見てボッタクろうとしているんじゃなかろうな?」


治癒師 「ああ嫌なら断って頂いて結構です、私も休暇中に仕事したくないですし。そもそも、欠損の復元治療なんて、できる治癒魔法師のほうが稀なんですよ? 莫大な魔力を消費するから六日に一人しか治療できないし。王都の治療院では三年先まで予約で一杯なんですよ?」


サルタ 「むむむむ…」


一瞬諦めようかと思ったサルタ子爵であったが、両手を失くした息子の痛々しい姿を見て、かわいそうに思い、言い値で治療をしてもらう事にしたのであった。


そして、その場ですぐに治療は始められた。


    ・

    ・

    ・


治癒師が、魔力をほぼ全部絞り尽くし、なんとか治療は上手く行った。失われたルイの両手は完全に復元されていた。


だが……


元に戻った両手にルイが歓喜したのも束の間であった。治療が終わった数分後には、ルイは再び絶叫を上げのたうち回り始める。


何事かとサルタ子爵が見れば、なんと、ルイの指先に黒い炎がともっていた。


その禍々しい炎は前回と同様、叩こうが擦ろうが消えない。それどころか水の入ったツボの中に手を突っ込んですら消える事なくことなく燃え続け、ルイの指を焼き、掌を焼いていく。そして前回同様、前腕を焼いて肘まで登った後、やっと鎮火した。


ルイは激痛に耐えきれず今回も気絶していた。


ラジル 「…これは……!」


実は、リューはあの時、闇属性の仮面を着けていた。そして、普段あまり使う機会のない【呪い】を試しに使ってみたのだ。対象者の両手を黒い炎が焼き続けるという呪いである。手がなくなれば燃やす対象がないので消えるが、呪いが有効な間は手が復元されると再び燃え上がるというわけである。


呪いであるため、魔力が継続的に流され続けるのだがリューならば何も問題はない。


サルタ子爵 「一体どういう事だ?! 治療は失敗したのか?!」


ラジル 「何を言ってるんですか、ちゃんと成功しましたよ! 両手が元通りに生えたの、あなただって見たでしょう?」


サルタ 「だが、現にルイの手はまた燃えてしまったではないか。一体何だったのだ、恐ろしい光景だった。痛かったろう、可哀想に…。


本当は、治療が失敗したからああなったんじゃないのか? 嘘ではないというのなら、もう一度、今度はちゃんと治療しろ!」


ラジル 「いや、もう一度とか、魔力がありませんから無理です。というか…魔力があっても無駄でしょう。これは、おそらく呪いですね。手を治しても、呪いの炎が再び手を焼く。無駄に何度も痛い思いをするだけだと思いますよ…」


サルタ 「なんだと…? では、どうにもならんのか? 何か治す方法はないのか?」


ラジル 「先に呪いを解除しないと治療の意味はないです。王都でも稀にですがあるんですよね、呪いを解除してくれという依頼…」


サルタ 「じゃぁすぐに解除してくれ」


ラジル 「私は治癒士ですから、呪いの解除なんてできませんて」


サルタ 「なんだと? じゃぁ誰ならできるんだ?」


治癒士 「さぁ? 呪いの解除を専業にしてる人間なんて聞いた事ないですので。呪いに詳しいって人を探して相談するか…、そうですね、教会にでも相談してみては……?」


ラジルはそう言うと、フラフラと頼りない足取りで帰っていった。魔力を絞りきってしまったためである。回復には一週間は掛かるから、それまでに呪いを解除しておいてくれという事であった。


サルタ子爵はすぐに街の教会に使いをやり、神父を呼び出して相談した。


しかし、残念ながらこの街の教会には呪いの解除ができるような優秀な神官は居なかった。(そもそもガレリアでは教会の力はあまり強くはなく、あまり優秀な神官職の人間はいないのであった。)


神父 「解決するのに一番早いみちは…」


サルタ 「路は?」


神父 「呪いを掛けた人間に呪いを解いてもらう事かと。相手は分かっているのでしょう?」


サルタ 「そうか! よし、すぐにそいつを殺してやる!」


神父 「いや、それはおすすめしません。術者を殺しても、呪いだけ残る可能性がありますから。むしろ、呪いがより強くなる可能性すらもあります。…そもそも、なんで呪いを掛けられたのですか?」


サルタ 「それは……ごにょごにょ…」


神父 「え? なんですって? すいません、よく聞こえなかったのですが?」


サルタ 「息子が…その、呪いを掛けた男の娘に悪さをしたらしい。そう冒険者ギルドからは説明を受けた…」


神父 「ああ……。ご子息様の、お噂・・は、有名ですからね。そのうち痛い目にあうのではないかと言われていましたが。ついに…なるほどねぇ」


それは自業自得だなと口には出さないが思う神父であった。


サルタ 「確かに、息子の素行が悪いのは聞いてはいたが…ちょっと女癖が悪い程度の話だ。大した問題ではない。たかが平民の胸や尻を触った程度だろう、それでここまでする事はないだろう」


神父 「閣下は確か、お子様は息子さんだけでしたよね。そんなドラ…いやバk……息子、さんでも、酷い目にあったら殺しやると思うわけですよね? であれば、娘を持つ父親であればなおさらでしょう。父親にとって娘とは、息子以上に可愛いものですからな…。殺されなかっただけ良かったのでは? まぁ、誠心誠意、謝って許してもらうのが良いのではないですか?」


サルタ 「……」


神官 「?」


サルタ 「たかが冒険者風情に、この私が頭を下げるなど、できるわけがなかろうが! そんな奴は捕らえて拷問に掛けて言う事を聞かせれば良いのだ! おい、騎士団長を呼べ! その冒険者を捕らえて連れてこさせろ!」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


リューを逮捕しに騎士団がやってきた


乞うご期待!



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