第221話 ガキは放っておいて俺と遊びに行かないか?

王宮から紹介された高級宿を一泊で出てしまったリューとヴェラはどこに居たかと言うと……


当てもなく気まぐれに王都を歩きまわりながら、王都の観光をしていたのだった。


夜は行った先々で近場にある宿を探し泊まる。王都は宿も多いので特に困る事はなかった。仮に泊まる場所が見つからなくとも、リューの転移でどこか別の街に移動するか、街の外か、どこか森の中にでも行き小屋を出して泊まればよいだけなので問題ない。


そのため、時間に追われる事もなく、働く必要もなく、行き当たりばったりのブラブラ散歩を楽しむという、ある意味贅沢な旅? を続けていたのだった。(勇者の件で王からは、贅沢しなければ一生働かなくても暮らせる額の報酬を貰ったし、それ以前からリューの亜空間には稼いだ大金が収納されているので金銭的な心配もない。)


フェルマリアは王都だけあって、立派な建物が多く、観光をしていても飽きなかったのだが、二人が中心部からあまり離れていなかった理由は「王立図書館」であった。


本自体が貴重なこの世界で図書館がある街は非常に珍しい。貸し出しはしてくれないので、中で読むしかないが。そこで本を読むため、リューとヴェラは図書館の近くに宿を取り、しばらく滞在する事にしたのだ。


リューはこの世界の歴史と過去の戦争についての資料や、魔法について書かれた書物を読み漁っていた。


リューには魔力がなかったので魔法の勉強をした事がないので、どのような魔法があるかという基本的な知識も不足していたためである。リューは魔力を意識的に生成・供給する事によって魔法が使えるようになったため、少し魔法について知りたかったのである。


ただ、本から知識が増える事は非常に有意義であったが、やはり、あらゆるジャンルに共通して、ほとんどの技術というものは本を読んだだけで身につくというものでもない。仕入れた知識を実際に使ってみて、応用が効くレベルまで使いこなしてようやく身についたと言える。


そのためには練習が必要である。だが、都会である王都で魔法を練習する場所はほぼない。街の外に出てもいいが、人気のない、周囲に被害が出ないような場所となると、かなり遠くまで行く必要がある。リューは転移で移動できるのでそれでも問題はないが……そこでリューは不死王の事を思い出した。


不死王には、たまに話し相手をしろと言われていたし、リューとしても、数十万年生きた賢者に聞きたいことは色々とある。絶対に敵わないであろう相手に最初抱いていた恐怖心はもうなくなっていた。魔力分解能力を身につけて対抗できる目処が立ったからではない。仮にその恐ろしい相手に殺されたとしたら、それはそれで良いではないかと思うようになったのだ。もともと、この世界は仮の宿のつもりであったのだ。死んだら元の世界に戻るか、また別の世界に行くのか(あるいはこの世界に生まれ変わるのか? )、いずれにしても、永遠に死ぬことができない苦しみよりはマシなのかも知れないと思うようになったのだ。


魔法についても、不死王より詳しい者は居ないはずである。王都の図書館にある中途半端な書物よりも、不死王に教えを乞うほうが余程確実・高度な知識が得られるだろう。それに、不死王城はダンジョンでもある、中で魔法の練習をする事もできるのだ。


そこでリューは図書館通いを中止し、ヴェラが図書館に行っている間、不死王に会って魔法について教わる事にしたのであった。おかげで、以前より使える魔法の種類が増え、制御もかなり上達したのであった。


そうこうしている内に、ヴェラも図書館も飽きてきたようなので、そろそろ王都を出ようかという話になった。


そんな話をしている時、たまたま王都の冒険者ギルドの前を通り、旅立つ前にちょっとだけ覗いてみようかという事になったのであった。



   *  *  *  *



依頼が貼ってある掲示板を見ていたリューは、気になる依頼を発見してしまった。逃亡犯ユサークの捕縛依頼である。依頼には、Aランク以上の冒険者複数以上という条件がつけられていた。


リュー「ユサーク? ユサークってあの、勇者ユサークか? まさか、王城の牢から逃げだしたのか?」


ヴェラ「同名の別人って可能性もなくはないけど……でも珍しい名前だから本人の可能性は高いかしら?」


リュー「ちょっと聞いてみるか」


リューはカウンターの受付嬢に声を掛けた。


受付嬢「いらっしゃいませ、冒険者ギルドへようこそ! 本日はどのようなご用件ですか?」


リュー「ちょっと、教えてもらいたいんだが、掲示板に貼ってあった逃亡犯の捕縛の依頼についてなんだが……」


受付嬢「申し訳有りませんが、依頼については守秘義務がありまして、依頼を受けた方にしか内容については詳しく開示できません。


ただし、依頼を受けるか迷っているという場合には、問題ない範囲である程度助言は可能です。ただ……


…あの依頼はAランク以上、しかも複数以上限定の依頼になります。失礼ですが、冒険者ランクは足りていらっしゃいますか?」


リュー「俺はFランクだが、ちょっと確認したい事があるだけだ。あの、逃亡犯のユサークというのは、元勇者のユサークであっているか?」


受付嬢「なるほど、そうですね。ユサークが王から勇者の認定を取り消されたと発表されたのは衝撃でしたからね。他にも何人か、同じような事を訊ねた方がいらっしゃいましたよ。


ただ、依頼を受けられない方には、それについても情報開示は致しかねるのです、誠に申し訳有りません」

 

リュー「そうか……」


Fランクには教えられない、そう言われては仕方ない、リューは大人しく引き下がる。


リュー「仕方ないな」


ヴェラ「王宮に直接問い合わせてみる?」


受付嬢「?!」


リュー「いや、まぁ俺自身は勇者とそれほど深い関わりがあったわけじゃないからな。そうまでして関わりたいわけじゃ~」


受付嬢「ちょっと、あなた達!」


二人のやり取りを聞いた受付嬢が慌てて口を挟んできた。


受付嬢「王宮に問い合わせとかダメですよ! 冒険者に教えてくれるわけないでしょ! ましてやFランクごときじゃぁ……あ、いえ、ごめんね、でも、冒険者からいちいち王宮に問い合わせなんてされたら、冒険者ギルドは何をやってるんだって苦情が来てしまうわ」


リュー「いや、俺たちもそこまで積極的に関わりたい理由もないからな、何かあったら連絡があるだろ」


受付嬢「王宮から連絡って、Fランク冒険者に連絡なんてくるわけ無いと思いますけど……」


リュー「宰相はいつでも気軽に遊びに来いと言っていたぞ?」


受付嬢「はぁ? ちょっと、見栄張ってるのかもしれませんけど、貴族絡みでそういう嘘は危険よ? 不敬罪で逮捕されてしまいますよ」


リュー「別に見栄も張ってないし嘘もついていなんだが……」


ヴェラ「でも大丈夫? ユサークは完全に力を失くしたわけじゃないんでしょ?」


リュー「ああ、ダメージは一時的なものだろう。勇者の称号が失くなって権能は失くなったはずだが、魔力は休めば回復するだろうな。奴は元々強かったようだから、魔力が戻ったら危険かもしれない」


受付嬢「え……あなた、どうしてそんなに詳しく知っているの?! まさか、本当に……」


冒険者「どうしたカレリア? 何か揉めているのか? ん? 見ない顔だな、新人か?」


リュー「揉めてないよ、旅行者だ。もう行く」


カレリア(受付嬢)「あ、あの…あなた、お名前を教えて頂けます?」


リュー「リュージーンだ」


カレリア「! ちょっと待ってて、どこにも行かないで下さいね! ケロン、彼がどこにも行かないように相手してて!」


カレリアは慌ててギルドの奥に走っていった。


ケロン「なんだ、カレリアをあんなに慌てさせるなんて、お前ら一体何をやったんだ?」


リュー「別に何もしてないさ、ただの旅行者だ。もう行くよ」


だが、ケロンがリューの進路を塞ぐように移動した。


ケロン「まぁ待てよ、俺はケロン。お前らも冒険者なんだろ? 見た所まだ若いようだが、ランクは?」


リュー「Fランクだが」


ケロン「なんだ、駆け出しのガキか!」


ヴェラ「私はDランクよ」


ケロン「ほう! ってよく見たらお姉さん美人だね」


ヴェラ「よく見たらは余計ね」


ケロン「俺はBランクだぜ! どうだ、こんなガキのお守りはやめて、このケロン様と遊びに行かないか?」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


行儀の悪い冒険者にお仕置きテンプレイ


乞うご期待!



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