第222話 ケロン、ころん、けちょん

リュー「行くぞ」


無視して行こうとしたリューだったが、ケロンは今度はヴェラの進路を塞いで通さない。


ケロン「坊やはビビって一人で行くってよ、お姉さんは俺とデートだ」


ケロンがヴェラの腰に手を回してきた。


リュー「くだらんなぁ……本当にBランクか?」


リューがケロンの肩に手をかけ、そのままズイと横にずらす。体重増加・竜人レベル上昇のハイパワーモードである。筋骨たくましい巨漢であるケロンであったが、予想外に簡単に押しのけられ、勢い余って軽く壁にぶつかったところで止まったのだった。


ケロン「おっ、てめぇ……少しは力があるようだな。それで粋がってるってわけか。だがな、しょせんはFランクだ。先輩が優しく言ってる間に聞き分けたほうがいいぞ?」


無視して行こうとするリューだったが、リューの前にケロンが再び回り込む。


ケロン「待てよ、気が変わった、ゆっくりお話しようぜぇ? 田舎から出てきて粋がってる駆け出しを躾けるのも先輩の仕事だからな」


そう言いながら、ケロンはリューの胸ぐらを掴んだ。だが、その手首をリューがガッシリと握る。予想外のリューの握力にちょっと焦るケロン。


リュー「なぁ、ふたつ、教えてくれ。ここのギルドでは、冒険者同士の争いは禁止か? 放置か? それとギルドの建物内で暴力沙汰はOKか?」


この世界では、冒険者同士のトラブルについては、冒険者ギルドの統一ルールというのはないようで、街ごと(ギルドごと)に違っているので、リューは一応確認をしたのだ。


ギルドが冒険者同士での争いを禁じ、仲裁、さらには罰則を課しているケースもある。これは、新人に絡む質の悪い先輩冒険者をギルドが監視し、教育、指導を行う意味もある。


だが、冒険者同士のトラブルは当事者同士で解決する事とし、一切関知しないという方針のギルドも結構あるようだ。


ギルドがうるさく口を出すケースだと、下手に暴力沙汰を起こすと罰則等がある事が多く面倒なのだが、放置の方針のギルドならば話は早い。絡んで来た奴は実力行使で〆てしまえばいいだけである。


ケロン「冒険者同士のイザコザは冒険者同士で片付けるのがルールだ! 基本、ギルドは関知しねぇ。だが、ギルドの中での暴力行為は禁止だ、罰せられる事になる」


リュー「そうか、なら…」


外でやろうかと言おうとしたリューであったが、先にケロンが言った。


ケロン「だが、裏の訓練場で冒険者同士が模擬戦やるのは問題ねぇぜ?」


リュー「そうか、じゃぁそこに案内しろ」


強気に行けばリューがビビって戦いを避けようとするだろうと踏んでいたケロンだったが、意外な返答に驚いた。そして……


ケロン「うっ……」


同時に、手首に激しい痛みを感じ小さく呻いた。リューが握っている手首にさらに力を入れたのである。


骨を砕く程ではなかったが、痛みで思わずケロンは握っていた襟を離してしまう。その手首を放り投げるように離すリュー。


リュー「少しだけ遊んでやろう、行儀の悪い先輩を躾けてやるのも後輩の義務だ」


ケロン「てめぇ……本気でブチのめしてやる!」


    ・

    ・

    ・


受付嬢カレリアはリュージーンという名の冒険者が来たら知らせろと言われていた。そして、目の前に居るのがそのリュージーンであると知り、慌ててギルドマスターに知らせに行ったのだった。


だが、カレリアがギルドマスターを連れて戻ってきた時にはロビーには既に誰もいなかった。みな、リューとケロンの模擬戦を観戦しに訓練場に移動してしまったのである。職員も大部分が野次馬で訓練場に行ってしまっており、受付嬢が一人残されているだけであった。


残っていた受付嬢に事情を聞き、カレリアとマッコイが慌てて訓練場に行った時には、模擬戦はすでに決着がついていた。悠然と立つリューの前で、ケロンはタコ殴りにされ這いつくばっている状態だったのである。


観戦していた冒険者達が呟いている。


『すげぇ、あのケロンが手も足も出ねぇなんて・・・』





リュー「王都のBランクってのは質が悪いんだな」


勝負はついたとばかり、リューはケロンに背をむけて立ち去ろうとしていたが、ケロンがリューに向かって手を翳し、呪文を詠唱し始めた。


リューが立ち止まり言う。


リュー「やめておけ、お前の攻撃はそのままお前に返るだけだぞ」


ケロン「ほざけ! 死ねや!」


巨大な火球がリューに向かって飛ぶ。なかなかの威力だ。


だが、その火球はリューの前に浮かび上がった魔法陣に吸い込まれ消えてしまう。


ケロン「…っ! バカな!」


リュー「返すぞ」


次の瞬間、ケロンの前に魔法陣が浮かび、火球が飛び出す。ケロンは自ら放った火球を自分で浴び、全身火傷の痛みで転げ回る事となるのであった。





マッコイ「おい、やりすぎだ! 誰か、ポーションを持ってこい! C、いやBランクのポーションだ!」


Bランクのポーションはかなりの高級品である、効果は抜群であるが、冒険者の年収1年分くらいの金額はするはずである。(ちなみにAランクになると、切断された手足を接合できる。値段はBランクの数倍。さらにSランクポーションになると部位欠損を復元できるレベルだが、時価となり、国家予算レベルの価値となる場合もある。)


リュー「それには及ばんさ」


マッコイ「?」


リューが手を翳すと、全身火傷状態だったケロンの身体が元にもどっていく。


マッコイ「こ、これは……お前は上級の回復魔法を使えるのか!」


リュー「回復魔法とは違うが……詳しくは秘密だ」


マッコイ「お前がリュージーンだな? なるほど、王宮から推薦があるわけだ、並の実力ではないと言う事か」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


リューの次の行き先が決まる


乞うご期待!



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