第223話 ユサーク逃亡に手を貸したのは……

マッコイ「回復魔法があるにしても、あんな強力な魔法を使うのはやり過ぎだ」


リュー「俺は魔法など使っていないぞ? あの火球を放ったのは奴自身だ。奴は自分が出した火球を自分で浴びただけさ」


マッコイ「お前は…相手の魔法を反射する事ができるのか? そういう魔法が魔法王国ガレリアにはあると聞いた事があるが…お前は魔法王国の出身なのか?」


リュー「魔法王国の事は知らんが、似たようなものだ。詳しくは説明する義理はないと思うが?」


マッコイ「それにしたってあの威力はやり過ぎだろう、一歩間違ったら死んでいたぞ?」


リュー「だからそれは奴に言えよ。奴は一歩間違ったら黒焦げで死ぬような威力の攻撃魔法を俺に向かって放ったって事だ。俺が死んでいたかもしれないんだが?」


マッコイ「それは……そもそもなんでいきなり模擬戦なんて話になったんだ?」


リュー「俺はさっさと立ち去るつもりだったんだがな、奴が俺の “連れ” にちょっかいを出し始めたのでな」


マッコイ「また奴の悪い癖か……分かった、この件はケロンのほうに非があるようだ。奴も痛い目を見て少しは反省するだろう。そんな事よりリュージーン、お前には話があるんだ、ちょっと来てくれるか?」


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マッコイにギルドマスターの執務室へ呼ばれたリューとヴェラ。


そこで聞いたのは、元勇者ユサークが城から逃亡したという話であった。


マッコイ「やはりお前が捕らえたのか?! 王宮から推薦があるわけだな……」


リュー「しかし、城の警備体制も随分お粗末なんだな」


だが、それも致し方ない状況であったようだ。どうやら、勇者パーティのメンバーだった聖盾騎士のジョディが手引きし、城の地下牢からユサークを逃してしまったらしい。


ヴェラ「勇者の権能で操られていたの? 勇者の能力が復活した?」


リュー「いや、確かに勇者の隷属の権能はなくなっているはずだ」


マッコイ「どうやらジョディは操られていたわけではなく、自ら進んで逃亡に力を貸したって事らしいな。他の勇者の従者だった者達も逮捕拘束されているが、どうやらユサーク逃亡には無関係のようだ」


ユサークの横暴な行動には若干引いているところもあったのだが……ジョディは一番最後に勇者のパーティに参加したという事もあり、また、ユサークは自分に従順に慕ってくるジョディに自身の蛮行をあまり見せないようにしていた部分があったようで、やや他のメンバーとは温度差もあった。


ジョディは、魔法王国出身であったが魔法が使えず、親族の中で非常に冷たくあしらわれて育ってきた。そんな自分を拾ってパーティに取り立ててくれたユサークに恩を感じていたが、いつしかそれは恋心に変わっていたのだった。


恋は盲目。確かに横暴な部分もある勇者であったが、それすらも逞しさの表れのようにジョディは感じていた。多少やんちゃなところが治れば、頼りになる勇者になれるはず、いずれ立派な勇者として目覚めてくれるはずだと思っていたのだ。


だが、このままではユサークは処刑されてしまうかも知れない。その前に、もう一度ユサークにやり直すチャンスを与えたい……何より愛するユサークを殺されたくない。そんな思いで脱走に手を貸してしまったのだった。


もともとユサークはAランク冒険者を超えるような魔力による身体強化能力を持っていた。牢の中では手枷によって押さえられていたが、既に魔力は回復している。そこに聖盾騎士が加われば鬼に金棒、追跡の騎士達を蹴散らして姿を消してしまったらしい。


マッコイは王宮から連絡を受けた後すぐに、3人のAランク冒険者に依頼してユサークの捕縛に乗り出した。そして、居場所を発見した。


騎士隊・警備隊はユサークを見失い、潜伏場所を掴めないでいたが、王都で長く活躍するAランク冒険者達は王都の “裏” にも詳しく、ユサークの潜伏先を突き止めたのだそうだ。


だが、なんとその3人のAランク冒険者はユサークとの直接対決に破れ、一人は死亡、残る二人も重症を負わされてしまい、ユサークは再び姿を消したという。


ただ、生き残ったAランク冒険者もただでは転ばなかったようで、ジョディがユサークを連れ母国である魔法王国へと脱出するべく工作員と接触している事をを掴んでいた。


ただ、その情報からはもう大分時間が経ってしまっていた。おそらくユサークはもう国境付近に移動しているはず。もしかしたら既に国境を越えてしまっているかもしれないと言う。


もちろんユサークの指名手配は国境にも指示されており、普通に通過する事はできないはずだが、隣国の工作員の手引きがあれば分からない……。


冒険者達の失敗でユサークを逃してしまった形になり、冒険者ギルドとしても、王宮に顔向けできない事態であるとマッコイは考えていた。


最初は、いくら王宮の使者の推薦とは言え、Fランク冒険者だと言うリュージーンを胡乱げに思っていたマッコイであったが、Bランクのケロンを一蹴したのを見てその実力を理解し、リュージーンにユサーク捕縛の依頼をしたのであった。


ただ、もし隣国に既に入られてしまったとすると少々厄介である。その隣国、魔法王国ガレリアは、フェルマー王国と敵対している国なのである。


近年、ガレリアはフェルマー王国に頻繁にちょっかいを出してきており、隙あらば侵略せんとする姿勢がありありと見えている。今のところ戦争には至っていないが、両国は緊張状態にあるのだ。既にフェルマー王国内にもかなりの工作員が入り込んでいるらしい。


(実はバイマークに教官として潜り込んでいたアッシュもガレリアの工作員であった。アッシュ自身はガレリアではない別の小国の出身であったが、ガレリアから金を貰っていた事が分かっている。以前、シンドラル伯爵を暗殺しようとした者も、ガレリアとの関係が見え隠れしているという事であった。)


そんな関係であるため、両国間に犯罪者の引き渡し条約なども締結できていない。ガレリアに逃げ込まれてしまえば正攻法では手出しができないのである。


当然、フェルマー側から犯罪者捕縛のために騎士がガレリアに乗り込むなど許されるわけがない。どうしても必要があれば、身分を隠した工作員にガレリアに潜入させ、秘密裏に捕えて連れ帰るか、あるいは冒険者に依頼を出して捕らえさせるか、である。


リュー「次の旅の行き先が決まったな」


こうしてリューとヴェラは魔法王国ガレリアへと向かう事になったのであった。


本当はリューであれば、神眼と転移を使ってユサークをすぐにでも連れ戻す事も可能なのであったが、そこまで本気を出す必要がある緊急の案件でもないので、旅の目的の一つ程度で、気長にやるつもりなのであった。もちろん、ユサークの罪状を考えれば、罪は必ず償わせる必要があるとリューも考えてはいるので、逃がすつもりはないが。


捕縛依頼も、できるだけ早くと言う事であったが、逆に言えば期限があるわけではない。依頼というより賞金首扱いとなったようだ。なので捕らえられなかったとしても失敗扱いにはならないという。


マッコイは(フェルマー王宮としても)できれば早急に捕らえて欲しいという希望はあったのだが、リューは旅行の行き先としてユサークの進んだ方に向かい、見かけたら捕まえようという程度の軽い気持ちで魔法王国に向かう事にしたのだった。



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次回予告


リューの新しい仮面


乞うご期待!



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