第224話 不死王が新しい仮面を作ってくれたよ

ところで、リューは最近、魔法の練習に不死王のダンジョンに通うようになった。


リューがダンジョン内で魔法をぶっ放していると、不死王が現れて、有り難いことに色々と助言してくれる。


不死王とは取り留めもない雑談などもしていたが、その中で、『仮面を着けるようになったら、“アレは着けると能力が上がる仮面だ” という噂が流れていた』というエピソードをリューが話したのだが、それを聞いた不死王が面白がり、ならば本当に、いろいろな魔法効果を付与した仮面を作ってやろうと言い出した。


不死王が作った仮面は、装着つけると各種属性魔法が使えるようになる仮面群であった。火・風・水・土属性が使えるようになる仮面、さらには光・闇属性が使える仮面。各属性はその派生属性も全て使えるようになっている。(光属性の派生属性の雷属性や土属性の派生の植物属性など。)


それらは全て、デザインとしては、貴族が仮面舞踏会で使うような目の部分だけを隠すマスクである。その裏面に不死王が組んだ魔法術式が魔法陣として刻まれていく。


ただ、全属性使える仮面だけは、不死王の技術であっても顔がすっぽりと隠れる大きさになってしまった。鬼を模した恐ろしげなデザインとなっていたため、リューはあまり着ける気が起きないのであったが、戦闘時に装着つける分にはむしろ効果的かもしれない。


リューも魔法が使えるようになったとはいえ、その制御はかなり稚拙で、それでいて膨大な魔力供給が行えるため、一歩間違うととんでもない災害を引き起こしかねない。キチンと制御できるようになるまでは仮面を使ったほうが良いだろう。


仮面を着けて魔法を使っていれば、そのうち制御も身体が覚えるだろうと不死王が言った。ただ、使わなければ覚えないし、そうそう毎日使う機会もない。早く覚えたいなら仮面なしでちゃんと練習したほうがよいとも言われた。


ただ、リューはそこまで必死に練習しなくても良いかと思う。不死王が作ってくれた仮面は、言わば自転車の補助輪のようなものだろう。


リューは日本で幼い頃、補助輪を着けた自転車に乗っていた。補助輪を着けているといつまでも乗り方を覚えない、そんなモノは無しで練習したほうが良いと言う大人が多かったし、事実、隣の家に住んでいた幼馴染は父親に支えてもらいながら大人用の自転車で練習し、一日で乗れるようになってしまった。


だが、リューの父親は仕事が忙しく、リューの自転車の練習になかなか付き合う事ができなかった。そして支えもなしに一人で練習するのは危ないと母親も練習をさせてくれなかったのだ。だが、それを不憫に思った父親が、補助輪の支柱を力づくで曲げてくれたのだ。


最初は自転車の車輪と同時に接地していた補助輪が、曲げられた事で地面から1センチほど浮き上がった状態になる。その状態で乗っていて、慣れたら徐々に父親が補助輪の位置をさらに地面から遠ざけてくれて、地面から10センチも離れた頃には、ほとんど補助輪を地面に接することなく乗れるようになっていたのだ。なので、リューはいつ自転車に乗れるようになったのかはっきりしないのだが、なかなか良い練習システムだと子供心に思ったものであった。


自転車の乗り方というのは身体で覚えてしまえば忘れる事はない。同様に、魔法も補助具を使いながらでも覚えてしまえば、そのうち補助具なしでもコントロールできるようになるだろう。


ただ、練習に来る頻度が下がると、リューが不死王のところに来る頻度が下がるので、不死王は寂しがるかとリューは心配したが、数十万年生きている怪物は気の長さも怪物級なので気にしていないようであった。


それよりも、不死王はさらなる仮面の開発に気を取られているようであった。次に作ったのは、時空属性の魔法が使えるようになる仮面……だが、これはボツとなった。


確かに、この仮面をつけると時空魔法を使えるようになる。だが、時空魔法を駆動するために必要な膨大な魔力は、どれほど魔力量に自信がある者でも、人間の身では賄い切れないのだ。


もちろん不死王自身がそうであるように、転移魔法を使える者がリュー以外に存在しないわけではない。不死王は自身が膨大な魔力を持っていて、かつ、それ以外にも色々と補助的な動力源や補給源を持っているなど、色々裏技も駆使しているのである。


もしなんの対策もしていない普通の人間がこの仮面を着けて時空魔法を使おうとしたら、一瞬で全ての魔力を吸い取られ倒れてしまうだろう。


通常、人間は魔力がゼロになったとしても死にはしないはずなのだが、一瞬で魔力がゼロになるほどの消耗だと、ショック死してしまう可能性がある。


さらに恐ろしいのは、この仮面は膨大な魔力を一瞬で要求するため、魔力が極端に少ないと、勢い余って生命力から不足分を吸い上げようとするらしい。


つまり、魔力が足りていない者がこの仮面を使おうとすると、MP・HPを全て吸い取られて死んでしまう……ある意味 “処刑用” のような仮面になってしまったのだ。


もちろん、不死王は外部から魔力を供給する機能を付ける事も検討したが、空気中を漂っている魔力を集めるだけではとても量が足りない。


あらかじめ集めて蓄えておく方法もあるが、一度使ってしまったら、再使用できるほど魔力が蓄積されるまでにかなりの時間がかかるだろう。リューのようにオリジン変換で膨大な魔力を瞬時に無制限に生成できる能力は別格なのである。(それについては不死王はまだリューの能力を研究中である。世界をひっくり返しかねない神の能力なので、いかに不死王と言えども簡単に手に入るものではないらしい。)


事実上、この仮面が使えるのは、リューと不死王だけであろう。そして、この二人は仮面などなくとも時空魔法が自在に使えるのだから、まったく意味がない仮面となってしまった。


ただ、これに派生して、魔力を吸い取る能力だけに特化した処刑用マスクなどというものは作ることができた。時空魔法の仮面から魔力を大量に吸い出してしまう機能だけを取り出したものである。不死王はさらに生命力を吸い出す機能も強化し、完全処刑用の仮面が完成してしまった。このマスクをつけてしまった人間は、一瞬で魔力・生命力を吸われて干からびて死んでしまうのである。


そう言われても、リューは正直、何に使うのか意味が分からないと困ってしまったのだが……。(いや、処刑に使うのだろうが、リューがそれをする機会はなさそうである。)


せっかく作ったのだからと押し付けられた仮面であるが、リューはそれは収納の奥に死蔵させておく事にした。後に問題を起こしそうなフラグが立っている気もしたが、自分が死蔵させて置く限りは問題ないだろう。


だが、さらに不死王はどんどん危ない方向に暴走していく。


不死王「この技術を応用すれば、仮面ではなくカプセルや大きな部屋も作れるぞ。大人数を処刑する時に便利じゃろう。そうじゃな、せっかくだから吸い取った魔力・生命力をを蓄積貯蔵しておくシステムも可能じゃな。それを動力源にした住宅設備とか……」


それを聞いてリューは慌てて不死王を止めた。そんなシステムが必要なのか尋ねてみたが、ただ思いついただけで、特に必要なわけではないという。


どうやら不死王は、思いついたアイデアはとりあえず全部形にしてしまうタイプらしい。人間とはモラルも全く違う存在なので、人々の役に立つアイデアも、破滅に導くアイデアも、制約なく出てきてしまうので、ある意味非常に危ない存在である。


とりあえず、ヤバイ方向に発想が連鎖していくと大変なので、そうではない方向に誘導してやるようにしたほうがいいと思い、リューが色々と要望を出す事にした。


リュー「例えば、装着者からではなく、対戦した相手から魔力を吸い取ってしまうような仮面はできないか?」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


魔法王国の国境検問所へ


乞うご期待!



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