第327話 この後どうなるんだ?

タスー 「すげぇ……」


ルガル 「魔法か? しかし一瞬でこんな大きな屋敷を崩壊させるなど、どんだけ破壊力のある魔法なんだ?」


リュー 「柱を全部同時に破壊するとああなるみたいだぞ」


地球で言うところの “爆破解体” をリューは再現してみたのだ。


と言っても爆薬を使ったわけではなく、スケルトン兵達にやらせたのだが。彼らなら、柱を瞬時に破壊する力もあるし、その後すぐに亜空間に避難してしまう事ができる。


爆破解体では爆破する柱の選択やタイミングにコツがあるようだが、リューにはそんな知識はないので、屋敷の全ての柱を破壊してしまう事にした。


スケルトン達を全ての柱に配置し、合図とともに、一気に砕く。全ての柱が瞬時になくなった屋敷は、見事に崩壊しペシャンコになったのであった。


破壊前―――屋敷の中の騎士達は全員リューに斃され、残っているのは使用人だけであった。


リューは使用人達に主が死んだ事を伝え、屋敷を破壊するから、すぐに外に避難するように伝えたのだ。


『残っている者の命の保証はしない』


などと脅そうかとも思っていたのだが、その必要はなく、騎士達の死体を見た使用人達は我先にと逃げ出したのであった。それは、キロンの横暴を使用人達も薄々知っており、いつか、天罰が下るのではないかと思っていたのだ。


雇い主が居なくなってしまい、彼らはこれから就職先を探さねばならないが、自業自得であろう。キロンが良い代官ではなかった事は知っていながら働いていたのだから。雇われていただけの使用人達をキロンと同罪と言うのは酷だろうが、とはいえ完全無罪とも言い切れない。


屋敷から生物が全ていなくなったのを神眼で確認したリューは、スケルトン達に爆破解体を実行させたのであった。





門番A 「お前、こんな事して……許されると思うのか?」


リュー 「誰が許さないんだ? 街の人間は皆、悪代官も横暴な騎士達も居なくなって喜んでいるだろ?」


門番B 「国から、いや、伯爵家から、お前の逮捕命令が出るだろう。伯爵の騎士団がお前を捕らえにくるぞ」


リュー 「国からは来ないさ、許可をもらってあるからな。クズの貴族は処分していいって、この国の王が言ってたぞ?」


門番B 「王だと? 嘘ならもっと上手く吐け」


リュー 「嘘だと思うなら国に問い合わせて見ればいい。ま別に信じなくても構わんさ。王命に背くなら伯爵家が討伐対象になるだけだ」


タスー 「すげぇな、リューさんは王様とも知り合いなんだな」


リュー 「この間一度会っただけだがな」


ベリン 「一度でも凄いって」

ヨリン 「僕達は会ったことすら無いからね」


門番A 「信じられんが、ならば確かめさせてもらおう、報告して構わんのだな?」


リュー 「キロンの手下の騎士達は全員死んだ。お前達だけ仲間はずれはかわいそうか…」


門番A 「ちょ待てよ! 俺たちは先週雇われたばかりなんだ、代官の騎士団としては門番としての経験しかないんだ、連中と一緒にしないでくれ!」


リュー 「ふん、本当か?」


面倒だったので、リューは神眼を使って門番ズの心を覗いて確認まではしなかった。人の心を覗くのは、精神的に非常に疲れるのだ。


門番B 「本当だ! キロン様が居なくなったのなら、俺達はまた失業だ。せっかくみつけた就職先だったのにな、まぁ仕方ない。おい、行こう」


門番A 「ああ、だがその前に、治療院に寄って行こう、折れた骨が痛くてかなわん」


門番B 「ああそうしよう…」


門番の二人はヨロヨロと去って行った。


ルガル 「代官の騎士団は、一人でも俺たち警備兵が束になっても敵わないほど強かった。それを、一人で壊滅させたと言うのか……」


タスー 「言ったろう、リューさんは凄ぇって」


ルガル 「あぁ……どうやら本当らしいな、この屋敷の状態を見せられては否定もできん。しかし、悪代官が居なくなったのは喜ばしい事だが……


…代官が居なくなって、街はこの後どうなるんだ?」


タスー 「さぁ? どうなるんだい?」


リュー 「ここはナンチャラ伯爵の領地なんだろ? その伯爵が変わりの代官を送ってくるんじゃないか?」


ルガル 「ジョルダン伯爵だ。だが、次に派遣されてくる代官がキロンと変わらず悪い奴だったらどうするんだ?」


リュー 「ああ、悪いがそれは知らん。俺は私怨でキロンを絞めに来ただけで、街のために来たわけじゃないんでな」


ルガル 「王命で代官を糺しに来たんじゃないのか?」


リュー 「悪いが、俺は正義の味方じゃないんだ。用が済んだので俺は街を出るよ。まぁ、お前達は代官襲撃には関係ないってとぼけておけばいいんじゃないか? もし次の代官がまた酷い奴だったら? …その時は王に直訴してみたらどうだ? この国の王様は割と話が分かる人物だったぞ?」


ルガル 「犯行はアンタの……いや、通りすがりの謎の冒険者がやった、と言う事にして惚けておけば良いということか。


だが、そうなると、アンタに追手が掛かる事になるぞ? メンツを潰されて、伯爵が黙っているはずがない。今の王は就任したばかりで、貴族達のほうが権力チカラを持ってるって話だしな。今の王に訴えてもあまり期待はできないかも知れん…」


リュー 「まぁ俺を狙ってくるなら返り討ちにするだけさ。あまりしつこいなら、伯爵も潰すだけだ」


ルガル 「伯爵も潰すだと? そうか、アンタは王の命を受けて反対派閥の貴族を粛清する暗部、または王の剣というわけだな?」


リュー 「別にそんなつもりはない。俺は自分に降りかかる火の粉を払うだけだよ。まぁそれが結果的にエド王を利する事になるかもしれんが……


…なかなか賢い王だよな。俺が好き勝手にやるだけで、それでも狙い通りに事態が転がっていくみたいだ」


王はリュージーンの自由を保証する事で、最も強い武器を手にしたわけである。


王の【選択】が事態を好転させていく……さすがは目的を実現するために【正しい選択を直感的に選ぶ】スキルを持つ王である。


個別の戦闘においてはリューは誰にも負けないだろうが、長い目で見た “戦略的” な判断となると、エド王には敵わないかも知れないなと思うリューであった。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


リュージーン抹殺指令?


乞うご期待!



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