第328話 包囲網

ランスロット 「派手にやったようですね」


宿に戻り、ヴェラ達と合流したリューであったが、ランスロットにはスケルトン兵の報告で何があったかは筒抜けのようであった。


ランスロット 「私もそっちに行きたかったですねぇ」


ヴェラ 「何かあったの?」


ランスロット 「この街の代官の屋敷を破壊してきたらしいですよ」


ヴェラ 「街の中心の広場で何か騒ぎがあったみたいだけど、それの関係?」


リュー 「いや、そっちは違う、代官のキロン子爵が自分に逆らう者を公開処刑にしようとしてただけだ」


ランスロット 「それもリュー様がすべてぶち壊したようですね」


リュー 「まぁ、昔モリーが世話になった人間が殺されそうになっていたので助けただけだよ。


それに、キロンはモリーを拷問した挙げ句奴隷に落とした張本人だぞ? きっちり落とし前をつけさせないとな」


ヴェラ 「でも、代官を殺しちゃって大丈夫なの? 色々と……」


リュー 「ダヤンの街と違ってここはまともな警備隊が丸々残っているようだから、特に問題はないだろう。代官の上司のナントカ伯爵が変わりの代官を寄越すだろ」


モリー 「ジョルダン伯爵です」


リュー 「ああ、そう、そのナンチャラ伯爵」


モリー 「わざとやってます?」


リュー 「まぁ俺はその伯爵から追われる事になるかも知れんがな。追手が来るにしても、早くても数日は掛かるだろう。我々はその前に街を出るぞ」


ヴェラ 「貴族を殺して指名手配になったりしない? まぁ仮にそうなってもリューなら問題ないだろうけど」


リュー 「王様から悪い貴族は絞めていいって許可を貰ってるからな。国から手配されることはない、はず。


まぁナンチャラ伯爵は納得しないかもしれないがな。仮にちょっかい出してくるなら、全部返り討ちにしてやるだけだ」


ヴェラ 「それって、結局、最終的には伯爵も潰す事になる流れの奴よね……」


リュー 「手出ししてこない限りは、こちらから潰しに行ったりはしないつもりだが……どう出てくるかな?」



   ** * **



ジョルダン伯爵邸。伯爵の三男、ヤニク・ジョルダンの元に、執事がやってきて言った。


執事 「ヤニク様、ジャールの街から妙な報告書が入っています」


ヤニク 「キロン子爵からか? 今忙しい、くだらない報告なら後にしろ」


執事 「いえ、それが、報告者はキロン子爵の屋敷の門番だと書いてあります」


ヤニク 「門番ごときがなぜ直接伯爵邸に報告を上げてくるのだ?」


執事 「それが、キロン子爵が死んだと書いてありまして……」


ヤニク 「……何? 事故か何かか?」


執事 「いえ、何者かに襲われたとの事です」


ヤニク 「キロン子爵にはそれなりに腕の立つ騎士団を与えていたはずだが? 不意打ちか、暗殺か?」


執事 「……キロン子爵の騎士団は全滅、代官の屋敷も破壊され瓦礫の山になっているとの事」


ヤニク 「屋敷まで? 一体ナニに襲われたというのだ? 街の連中にそんな実力はないはずだ。他国の兵か? しかし、こんな国の真ん中にある街に他国の兵が気づかれずに進軍できるはずもないか。魔王でも来たのか?」


執事 「報告書によりますと、旅の冒険者一人にやられたと」


ヤニク 「冒険者一人だと? ありえんだろう。その門番がおかしくなっているのじゃないだろうな?」


執事 「はい、私もそのように思ったのですが、キロン邸に通信を繋げようとしても、一切繋がらないのです」


ヤニク 「妙だな、すぐに誰か確認に行かせろ」


執事 「はい、すでに騎士を数名向かわせております。数日中には報告が届くかと。


…伯爵様には?」


ヤニク 「父上にははっきりしてからいいでいい。くだらん情報ならわざわざ父上を煩わせる必要もない」


執事 「御意に」



   ** * **



王都にある奴隷ギルド。奴隷ギルドのガレリア王国における本部である。


そこで、ガレリア国王から発令された新しい法律の報告を受けて、ランドマスターが渋い顔をしていた。


(※奴隷ギルドでは、各街にある奴隷ギルドに「マスター」がおり、それを統括する「ランドマスター」が国ごとに配置されており、その上に、全ての国の奴隷ギルドを統括する「ワールドマスター」が居る。)


新しい法律とは、これまで免除されていた売買時の違法奴隷のチェックを義務化するというものであった。


法律はあくまでガレリア国内のみに適用されるもので、他の国では既にそのような法律がある国もあるのだが、今までなかった法律が作られて奴隷ギルドの活動に制限が加わるのは頂けない。


また、それより少し前、ジャールの街の奴隷ギルドから、隣のダヤンの街で奴隷ギルドに所属していない者が勝手に隷属の首輪を解除したという報告があった。


過去に奴隷ギルドの技師だった者が離反したのかと思ったがそうではないようで、解除呪文キーを知らずにどうやって解除したのか分からないが、奴隷ギルドには一切所属した事がない者だという。


もし解除呪文キーを外部の者が解析できたのなら大問題だが、それよりももっと問題となる情報が上がってきた。


どうやら、王が急に法律を改正した事に、その人物が関係しているというのだ。今回、王国はその者に奴隷解放の権限も与えたと言う。これまで、隷属の首輪を扱う許可は奴隷ギルド以外の者に与えられて来なかった独占状態であったのに、それが崩れてしまったと言うことである。


これは看過できない。


まず、奴隷ギルドの技師以外が隷属の首輪を解除してしまう事ができる、これが大問題であるし、奴隷ギルド所属で無いものに奴隷を扱う権限が与えられたのも大問題である。


その者がどこまでの能力があるのか分からないし、その目的も分からない。


情報が必要である。


奴隷ギルドのランドマスターは、その人物についての情報を探る事、奴隷ギルドに引き入れる事、もしそれが叶わないならば抹殺もやむを得ないとの命令を下した。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


貴族 「そのリュージーンとかいう冒険者を探れ」


暗部 「なんなら殺っちゃいますか?」


乞うご期待!



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