第470話 ライオネルを捕捉

その後、帰宅したワルグ男爵の心も覗いてみたのだが、残念ながら大した収穫はなかった。


ワルグ男爵は、妻の縁戚筋からライオネル子爵を紹介された。ライオネル子爵が紹介してくれるよう頼んだようだ。目的はもちろん、ユキーデス伯爵である。ワルグ家に嫁き遅れの、もとい、ちょうど良い年頃の娘が居たので、縁談話を持ち込んで来たのだ。


実はこれはライオネルも成功するかどうか半信半疑の作戦だったのだが。なにせユキーデス伯爵は初老である。若い娘との結婚など、世間的には年齢が釣り合わない。


だが、ライオネルは、貴族の年寄りなど、みなスケベ根性の塊だと思っていたので、若い娘を世話してやれば食いついてくる可能性はあると、賭けに出たのだ。そしてその賭けは見事当たった。別にユキーデス伯爵が女好きのスケベという事ではなく、たまたま伯爵が「人生、もう少し冒険してみてもいいか」と思ったタイミングと一致しただけなのだが。


ワルグ男爵の娘ライーダも、上昇志向が強く、貧乏男爵家をなんとかしたいという思いもあった。そして何より、特に恋愛や結婚に過剰な期待も願望も持っておらず、サバケた性格であったため、その話に割り切って乗ったのだ。


ワルグ男爵は、多少の野心はあったものの、そんな大それた出世を狙っていたわけではない。伯爵に後ろ盾になってもらえれば、一代限りの男爵ではなく、相続が可能な子爵に陞爵できるかも? と思ったのは確かであったが、別に、伯爵を害して乗っ取るというような物騒な事は考えていなかったようだ。


だが、ライオネル子爵が言葉巧みに唆し、今では毒を盛って伯爵を廃人にしてしまう計画まで、知っていて黙認しているという状態に至っているようだ。


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リュー 「ふぅ、やっぱ、直接会って質問しながら心を読んだほうが楽だなぁ…」


結局、ライーダとその両親、母親ラミーアと父親ミゴツ・ワルグ男爵の心を漁ってみたものの、ライオネルの居場所やその背後関係に繋がるような情報には辿り着けなかった。


ライオネルは自身の情報は巧みに隠しているようで、ワルグ家も、常にライオネルから連絡があるだけ、ライオネルが訪ねてくるだけで、ライオネルの居場所等は知らないという状態であったのだ。


リュー (結局、ライオネルからの連絡待ちか……)


仕方なく、リューは、再びライーダを監視する事にした。ライーダはきっとライオネルと連絡を取るだろう。ライオネルがライーダの浮気相手であるのなら、いずれライーダとライオネルは直接逢うだろう。ライーダを監視していれば、ライオネルにいずれ遭えるというわけである。


だが、リューがずっと神眼を使ってライーダを監視し続けているのも大変である。その間、リューは何もできなくなってしまう。


正直、神眼を使えば探偵業など楽勝だと思ったリューであったが、考えが甘かった。


神眼の能力がいかに優れていようとも、リューのほうに限界があるのだ。


例えば十人の心の中の情報を神眼を使って同時に探るとする。これは、神眼の能力的には可能である。だが、一瞬で同時に入ってくる十人分の情報を、リューの意識は処理できないのだ。リューは独りずつ順番に、時間をかけて情報を読み取っていくしかできないのである。


当然、ずっと誰かを神眼で監視し続けているわけにも行かない。いや、張り込みしている刑事なら、アパートの一室でも借りてカーテンの隙間から片時も目を離さずに監視するのが仕事という事になるだろう。それがどうしても必要ならリューもやるだろうが、今回、リューは少しサボる事にした。


リュー 「最初から軍団レギオンを頼ればよかったな……」


ランスロットに頼むと、すぐにライーダの監視に兵士を派遣してくれた。伯爵の屋敷で、亜空間に潜んだまま、ずっとライーダの生活を監視している。根気の居る仕事であるが、そこはスケルトンである。休むことも弛む事もなく、微動だにせず見続けている事が可能であった。


正直、軍団レギオンが使えるのは有り難い。スケルトン兵士達は、リューのように心を読む事はできないが、亜空間に入ったまま姿を見せる事なく対象を監視できるのだ。


そして何より数が武器になる。リューが一人で神眼を使って神経をすり減らさずとも、レギオンの兵士を使って調査させたほうが、色々と楽だし早かった。


神眼は、ここぞという時に使えばよいのだ。


スケルトン達に見張らせた結果、すぐにライオネル子爵はすぐに見つかった。




  * * * * *




最近、お気に入りの高級婦人服店というのがあり、ライーダはそこにあしげく通っているらしい。


伯爵夫人ともなれば当然既製服などではなく全てオーダーメイドとなるので、採寸とデザインの打ち合わせのために毎回時間が掛かる。


店の奥に行くと、訳知りの店員が黙ってライーダを奥の扉のほうへと通す。お得意様接客用のVIPルームという事になっているが、中でライオネル子爵が待っていたのである。


その知らせはすぐにリューの元に届けられ、リューは早速、神眼でその部屋を覗いてみた。二人がナニかをしている可能性もあったが、そんな事はリューにはどうでもいい。とりあえず、ライオネルの情報を得たいだけである。



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次回予告


ライオネル、ユキーデス、エドワード


乞うご期待!


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