第429話 もう人を殺さなくてもいい

リュー 「やれやれ…こんな子供に暗殺なんて仕事をやらせるとはな……」


よくよく見れば、アリサの歳の頃は十歳前後であろうか。


おそらくアリサは、転移のスキルを持っていたため、奴隷にされて暗殺の仕事をさせられていた、というところなのだろう。


逃げられないと悟ったアリサは、ポケットから何かの魔道具を取り出し作動させようとした。


だが、追って現れたランスロットがその腕を掴み阻止する。


ランスロット 「これは…火の魔法が封じ込められた魔道具ですな」


その魔道具を少女の手から取りあげたランスロットが言った。


ランスロット 「作動させると数秒間、太陽と同様の高熱が発生し、周囲のモノは跡形もなく溶けてなくなります」


リュー 「物騒な魔道具だな」


ランスロット 「昔、不死王様が作ったものです、ダンジョンの宝箱に入れておいたので、いくつか出回っているようですね」


リュー 「そ、そうなんだ……」


ランスロット 「それから、捕らえた他の暗殺者は全員服毒自殺したようです、口の中に毒を仕込んでいたようですね。捕らえられたら自殺するように命じられていたのでしょう」


リュー 「自殺? そいつらも奴隷にされてたのか?」


ランスロット 「いえ、隷属の魔法による奴隷化ではなく、契約魔法のようですね。暗殺者は仕事を受けたときだけ、契約魔法を交わすのではないでしょうか」


リュー 「契約魔法? それは隷属の魔法とは違うのか?」


ランスロット 「今回のは、隷属の魔法と同系統の闇属性の魔法だと思いますが。条件が揃って発動すると特定の行動を強要されます。今回のはおそらく毒を飲む事を強要する内容ですね」


リュー 「その言い方だと、もしかして、闇以外の属性魔法にも、契約魔法というのがある?」


ランスロット 「はい、各種属性で契約魔法というのはあります。魔法が発動するトリガーを設定するような感じで、例えば火属性なら、約束を違えた場合は魔法が発動して炎で焼かれるとか。


商人などが取引時に交わしたり、従業員に守秘義務等を守らせるために使ったりする事もあるようです。


まぁ、秘密を喋ったら火で焼かれるとか切り裂かれるとかよりは、喋る事自体を抑制する闇属性の隷属系魔法のほうが、受ける側は楽だと思いますがね。しかし、奴隷にされるのと同じと考えて隷属魔法を嫌い、その他の属性の契約魔法を選択する者も多いようです」


リュー 「隷属系なんだったら死なせる必要はない気もするが…死人に口なし、喋るなと命じるより、殺してでも確実に秘密を守りたいという事か」


ランスロット 「何らかの抜け穴的方法で情報が漏れるのを避けたいのでしょうね。まぁ、我々の場合、自殺してもアンデッドとして生き返らせますので意味ないんですけどね。一度死ねば契約魔法からも解放されますし。この少年、おや少女でしたか? も、一度殺してアンデッド化して…」


もともと骸骨に異様に怯えた態度をしていたアリサであったが、ランスロットの言葉を聞き、さらに恐怖の表情が増す。足元には水たまりができていた。


リュー 「そんなに脅すなよ、かわいそうだろ」


ランスロット 「リューサマを暗殺しに来たのですよ? 殺すのは当然かと思いますが?」


リュー 「見ろ、隷属の首輪だ。この子は奴隷にされて命令に従ってただけなんだろう、解放してやれば済む話だ。」


ランスロット 「おやそうでしたか」


リュー 「命じられてやってただけなら、命じた者の責任だしな。それに、アンデッドにしてしまうと証人としての能力がなくなるからな」


ランスロット 「リューサマならば、闇属性以外の契約魔法も解除できそうですね」


リュー 「やった事ないが……できそうだよな」


そう言いながら、リューが魔力分解を使って隷属の首輪を解除する。


アリサの首輪は勝手に外れて首から落ちた。


アリサ 「あ……?」


アリサは首に触れる。隷属の首輪が外れ、自身を縛る力がなくなった事を感じだのだ。


リュー 「奴隷から解放した。もう暗殺ギルドに従う必要はないぞ」


ついでに失禁もクリーンでキレイにしてやった。リューは綺麗好きで、自身の体も汚れたらすぐにクリーンを掛けてキレイに保っているのだ。魔法が得意ではないリューだが、クリーンだけは頻繁に使うのでかなり上手である。


アリサ 「もう…、人を…、殺さなくてもいいの…? でも…駄目。…きっと追手が来て殺される…」


暗い表情かおをして俯く少女。


リュー 「安心しろ、口封じに来ても俺が守ってやる。なんなら暗殺ギルドも潰すか?」


リューは少女の頭に手を置きながら言った。少女は驚いた顔でリューを見上げる。


ランスロット 「既に捕らえた暗殺者達からギルドの場所は聞き出してあります」


スケルトン兵士が捕らえた暗殺者達は、全員一度死んだが、その後すぐにアンデッド化されてスケルトンの見習い兵士にされている。もはや軍団レギオンの一員なので、誰に義理立てする必要もなく、素直に情報を提供したのだ。


リュー 「そうか、とりあえず、俺達に手を出したらどうなるかは、教えてやらないとな」


奴隷ギルドの不法行為は断罪され、国内で順次違法奴隷は調査・解放がされて行くはずだが、裏の組織である暗殺者ギルドにまでは、おそらく調査が及ばないだろう。


ランスロットと話していると、気がつけば少女はランスロットから隠れるよう、常にリューの影になるような位置に移動していた。


リュー 「大丈夫だ、コレは味方だ、危険はない」


だが、少女は身を堅くしたままだ。どうも少女はスケルトンが苦手なようだ。リューの服を掴んで怯えた顔をしている。


リュー 「ランスロット、この子は骸骨が苦手らしい。その骸骨の仮面だけでも変えたほうがいいんじゃないか?」


ランスロット 「…素敵な仮面だと思いますが?」


リュー 「…とりあえず、宿に帰ろうか」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


リューが幼女を連れ込んだ?!


乞うご期待!



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