第428話 襲撃

ダンジョンの調査報告については、ダンジョンの十階層目まで確認し「魔物がそれほど多くはなかった」とリューはギルドに報告した。


それで、スタンピードの兆候はないという事になり、すぐにでも街を出られると思っていたリューであったが、そうは行かなかった。


「確実か?」と問われて「分からん」と答えてしまったのは失敗であった。


そう問われても、リューにはスタンピードの兆候について詳しいわけではないのだから、分からないとしか答えられなかったのだが、正直に答えてしまったため、ならば、約束したのだから三日間は街に居てもらわないと困ると言われてしまったのだ。


仕方なく宿に戻ったリュー。


その夜中の事である。


夕食を終え就寝したリューであったが、ふと、嫌な予感がして目を覚ました。危険予知能力が作動したようだ。


ランスロット 「我々が対処しますから、リューサマは寝ていても構わないですよ?」


リューが起きた事を察知してか、ランスロットが現れて言った。


時刻はもう明け方近かった。


リュー 「何かあったか?」


ランスロット 「警備の兵士から、不審な者が宿の敷地に侵入したと報告がありました」


スケルトン達は24時間、宿の周囲を(亜空間から)警備している。


リュー 「不審な者?」


ランスロット 「現在、泳がせていますが、只者ではないようです。足音も一切立てず、気配も発していません。全身黒尽くめ…まぁ我々からは丸見えですが。おそらく、暗殺者の類ではないかと」


リュー 「宿の客の誰かを狙って来た?」


ランスロット 「侵入者は複数、別々に行動しているようです。ターゲットも複数かも知れません。リューサマを狙ってきたのかも?」


リュー 「なんでだ?」


ランスロット 「恨みを買った相手は多いのでは?」


リュー 「まぁ、そう言われると否定はできないか」


ランスロット 「…一人は、今、ミィ殿の部屋に侵入したようです。捕らえさせます……護衛の兵士が亜空間に引きずり込んで拘束しました。


どうやらターゲットはやはり我々のようですね。ヴェラ様の部屋に入った者も…


…捕らえました。


おや、一人はこの部屋に向かっているようですが…


…既に部屋に侵入されましたね」


リュー 「!?」


だが、部屋の中に変わった様子はない。


ランスロット 「どうやって部屋に入ったのか…しかも、凄い。完全に気配を消し去っているようです。見えているはずなのに、見えないような気分です、面白い」


リューは神眼を発動した。いつの間にか、ベッドに腰掛けているリューの前に黒尽くめの少年が立っていた。


リュー 「凄いな、認識阻害の一種か?」


ランスロット 「私も目を凝らさないと見えませんでした、大したものです」


少年 「……もしかして、僕が見えているの?」


リュー 「ああ、見えているぞ? 暗殺者か?」


ランスロット 「誰に頼まれたのですか?」


少年 「…ひっ、ガイコツ…!」


その瞬間、少年は姿を消してしまった。


ランスロット 「…居なくなりました。リューサマ、分かりますか?」


リューは神眼で消えた少年の足跡を追った。

逃げた少年は、どうやら宿の屋根の上に転移したようだ。


リュー 「逃げたみたいだ、どうやら転移したようだぞ? 面白い、ちょっと追いかけてみる」


リューも屋根の上に転移した。ちなみに服装は外出用に着替え済みである。時間を止めて着替えてから出てきたのだ。


リュー 「俺以外に転移を使える人間を初めて見た」


少年はその声にビクリと体を硬直させると、即座に姿を消した。だが、リューの神眼は100mほど先の路上に少年が現れたのを捉えている。少年の前に即座に転移するリュー。


それまで無表情であった少年の顔は、追ってきたリューの姿を見て恐怖に歪んだ。


消える少年、追うリュー。どうやら少年は100mほどしか転移できないようだ。追いかけっこはやがて、街の外に出たところで止まった。


逃げ切れないと悟った少年があきらめて、短剣を抜きリューと対峙したのだ。


リュー 「お前のその転移能力は、スキルか?」


頷く少年。


リュー 「名前は?」


少年 「アリサ」


リュー 「女?」


少年かと思ったのだが、よく見てみれば、相手は少女だったようだ。


リュー 「暗殺者か」


頷くアリサ。


リュー 「…誰に頼まれた?」


アリサ 「組織に命じられただけ」


リュー 「…暗殺者ギルドか」


アリサ 「…指示を受けてターゲットを殺す。それだけ」


アリサは短剣を振りかぶり、何もない場所に向かって振り下ろした。と同時にアリサの姿が消えリューの背後に現れる。刃はそのままリューの背中に向かって振り下ろされる。


もちろん危険予知で読んでいたリューはクルリと振り返り、振り下ろされる短剣の刃を指で摘んで止めた。


剣を摘まれ、一瞬、驚愕の表情をしたアリサ。おそらくこの方法で失敗した経験はなかったのだろう。転移しながらの移動攻撃による不意打ち。普通の人間では躱せるものではないだろう。


空間転移を使って暗殺をするなら、剣の刃だけを相手の体内に出現させたほうが効率が良いという結論に以前リューは至っているが、どうやらこの少女のスキルでは自分の身体を転移させる事しかできないようであった。


一瞬の間があったが、すぐに我に返ったアリサは、リューのとんでもない指の力で挟まれて微動だにしない短剣を捨て、転移して逃げた。


だが、即座に転移で追ったリューがアリサの首を掴んでいた。


リュー 「逃げるな……次は殺すぞ?」


だが、首を掴んだ事でリューは気付いた。漆黒のスーツに覆われて見えなかったが、その首には隷属の首輪が嵌っていたのだ……。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


もう暗殺ギルドに従う必要はないぞ


乞うご期待!



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