第330話 奴隷ギルドは世界を支配している

グリンガル 「…いや、監視だけだ。情報を探れ。何者なのか、どこから来たのか……弱みを探すのだ」


暗部 「御意」



   * * * * *



ヤニクの派遣した騎士がジャールの代官屋敷襲撃事件について調べていた頃、リュー達は既に、ジャールの隣、シタンの街に着いていた。


シタンの街はこれといって特徴のない、よくある城塞都市であった。ここでは特にトラブルもテンプレもなく、ZXゼッタークロス商会運営の高級宿「木洩陽の宿・シタン店」の最上級の部屋に格安で泊まり、リュー達は快適な旅を楽しんでいた。


そのシタンの街に、リューの跡を追っていた奴隷ギルドのエージェント、ゴードンが追いついてきた。


ゴードンがジャールの街に着いたのはリュー達の起こした騒動は既に終わった後であったが、街には騒々しい雰囲気がまだ残っいた。


街に何事か事件が起きた事をゴードンは感じ取り、もしかしたらそれはリュージーンが関わっているのではないかと疑った。


ゴードンはエージェントとして活動する時、常に十人前後の奴隷を引き連れている。もちろん個人で購入したものではなく、奴隷ギルドから任務のために授けられている “備品” である。


そのうち四人は戦闘用奴隷で、元冒険者などの戦闘に長けた者達であり、主に護衛や荒事の処理に使用する。残りの六人は、エージェントとしての様々な工作活動に使うための奴隷である。彼らは戦闘奴隷と違い、隷属の首輪を着けておらず、代わりに “奴隷紋” を身体のどこかに刻まれている。それは見えない場所にあり、服を着てしまえば一見して奴隷とは分からないようになっているのだ。


その工作用奴隷達に街で聞き込みを行わせ、すぐに事態は判明した。


一応リュージーンについては警備兵達は名前を隠し、「旅の途中の謎の冒険者」と言う事で報告を上げていたのだが、工作奴隷達は普段から諜報活動をさせている事もあり慣れたもので、警備兵からリュージーンの名前を聞き出す事はそれほど難しくはなかったのである。


ゴードン 「やはりそうか。で、リュージーンの居所は分かったか?」


奴隷1号 「それが、件の冒険者は既に街を出てしまったと言うことです」


ゴードン 「それだけの騒ぎを起こしたのだ、既に逃亡しているよな。で、どこへ向かったのかは分かったのか?」


奴隷2号 「王都に向かっているという情報が」


ゴードン 「よし、追うぞ!」


そうしてゴードン達も馬車を飛ばし、シタンの街まで追いついて来たのであった。


だが、シタンの街で、リュー達の居場所まで突き止めたゴードンであったが、そこから打つ手がなく、しばらく様子見となってしまった。


リュー達が宿泊しているのはゼッタークロス商会の経営する高級宿「木洩陽こもれびの宿」である。とりあえず、客として木洩陽の宿に宿泊してみたゴードン。木洩陽の宿はVIP専用・完全会員制・完全予約制の高級宿なので、一見さんは宿泊できないのであるが、そこは奴隷ギルド本部の伝手を使って手を回してもらった。


だが、宿泊してみたものの、さすが高級宿、宿泊客はすべて部屋食で、客同士が接触する機会などない。


部下の奴隷を使って街に聞き込みに行かせたところで意味はない。今日始めて街に来た旅の冒険者の情報を街の人間が知るわけがないのである。


リューの冒険者としての記録は、当然、奴隷ギルド本部だって把握している。本部は、そこに書かれていない情報、リュージーンの能力や弱点、弱みなどを探れと言っているのである。


その時、本部からの応援がやっと到着した。ゴードンはこれを待っていた。


ゴードンは、自分で直接リューに接触する気などなかった。自分は姿を隠したまま、部下を使って接触を図る。これなら仮に失敗しても自分に害はない、いつものやり方である。


頭を使ってスマートに仕事をするのが信条のゴードンらしいズル賢いやり方であった。





到着したのは少女ミィ。とても美しい顔をした華蓮な少女であるが、ランクCの冒険者である。


ミィは、普段は普通に冒険者として活動しているが、実は奴隷ギルド本部に所有されている奴隷なのである。外から見えない身体のどこかに隷属の奴隷紋が刻まれているのだ。


ミィは、とあるクエストで失敗し、多大な借金を負ってしまった。同時に大怪我をして、その治療に掛かった費用も重なり、借金奴隷となってしまったのだった。そして、外見の美しさと冒険者としての実力を買われて、奴隷ギルドの工作員として高額で購入されたのだった。


実は、奴隷である事は隠し、普段は普通に冒険者として活動しているが、一度ひとたび命令を受ければ奴隷ギルドの指示に従って行動する、そのような奴隷ギルドの工作員が、冒険者ギルドの職員・冒険者の中には多数居る。冒険者ギルドだけではない、商業ギルドや、あらゆる場所にその様な者を入り込ませ、奴隷ギルドは裏から世界を支配しているのだ。





ゴードン 「ほう、噂通り美しいな……。こんな少女が奴隷だとは……奴隷紋はどこに刻まれている? 簡単に見える場所にはないのだろう?」


だがミィは答えなかった。


ゴードン 「命令・・だ。脱いで、見せてみろ?」


ミィは奴隷ギルド所有の奴隷であり、今は、エージェントのゴードンの指揮下に入るよう命令されている。すなわち、ゴードンの命令に従わなければならないのだ。


ミィは、悔しそうな顔をしながらも、服を脱ぎ始めた。


奴隷ギルドの工作員とするためには、奴隷紋は外から簡単に見えない場所に刻む必要がある。特に女性の場合は、任務によっては露出の高い服を着る必要があるので、多少服を脱いでも見えない場所に刻まれている。


頭髪の中や足の裏などにある場合も多いが、服を脱ぎ始めたと言う事は、そのどちらでもないということのようだ。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


奴隷はつらい(涙)


乞うご期待!



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