第329話 ついにグリンガル侯爵が動く?

ワミナ 「そんなっ、私にやらせて! まだ失敗したわけじゃないわ!」


ゴードン 「そんな事は俺に言われても困るさ。本部の決定だ、黙って指示に従うだけだよ俺達は。そうだろう?」


勝手な奴隷解放を行ったリュージーンという冒険者に釘を刺し、奴隷ギルドに加入させよという指令を受けていたワミナであったが、リューには相手にされず追い返されてしまった。


ワミナはすぐにその事を本部に報告し、次の手段―――多少荒っぽい強硬手段―――に出る許可を求め、応援を送ってもらうよう要請したのだが……


奴隷ギルドからは、ゴードンという別のエージェントが派遣されてきて、リュージーンの対処についてはワミナは外される事になったと言われたのだ。


ワミナは自分でやらせてくれと訴えてみたものの、本部の決定は絶対である。文句があるなら本部に言えと言われては、引き下がるしかなかった。


ワミナ 「ああ、出世の道が遠ざかっていく……」


がっくり項垂れるワミナであった。





ゴードンは奴隷ギルドの中でも数少ない一級エージェントである。エージェントと言うと格好良く聞こえるが、要は何でも屋である。各種調査や交渉事、荒事・裏の仕事まで、なんでもやらされる。


ゴードンは今は引退して奴隷ギルドの専属職員だが、若い頃はCランクまで登った事がある冒険者であった。奴隷ギルドのエージェントにスカウトされ冒険者を辞めたが、まだまだ現役でも通用する実力がある。そこそこ腕が立つので、割と荒っぽい仕事が回ってくる事も多い。


だが、ゴードン自身は脳筋というわけではなく、暴力は極力使わず、頭を使ってなるべくスマートに片付けるのを好んでいた。


そんなゴードンに、リュージーンという冒険者の調査依頼が来た。誰も居なければワミナがそのまま任務続行を命じられたのだろうが、たまたま、ダヤンの街の近くにゴードンが居たため、ランドマスターから担当替えを命じられたのであった。





報告を受けたランドマスターは冒険者ギルドに裏から手を回し、リュージーンの冒険者としての記録を入手した。


(奴隷ギルトは国にも貴族にも、冒険者ギルドや商業ギルドなどにも 、奴隷が関与するあらゆる場所に裏側からではあるが影響力を持っているのである。)


だが、その記録を見たゴードンは、リュージーンが自分が正面から戦ったら勝ち目のない相手である事を理解したのだ。


記録の内容は信じられないモノであったが、これがもし本当なら、相手は恐らく化け物である。ランドマスターが警戒するのも分かる。


リュージーンが要注意人物だと理解したランドマスターは、未だ二級見習いのエージェントだったワミナでは心もとないので、近くに居た一級エージェントに交代を命じたのである。





本部からの指令は、まずはリュージーンなる冒険者についての情報収集である。そして、弱みを握り、できたら奴隷ギルドに引き入れろとの事であった。


もしどうしても相手が従わない場合は、“最後の手段” の指令が来る事になるだろう。たとえば、ターゲットを罠に嵌めて借金をさせて奴隷に堕とすなどである。


それも上手く行かないならば、最後は武力を用いて捕らえて無理やり隷属の首輪を着けて奴隷にしてしまう。


エージェントとして何度もやってきた事であるが、今回は要注意人物であるとの事、慎重に当たらなければならないとゴードンは判断した。


最悪の場合、奴隷ギルドには、捨て駒の奴隷を大量投入しての人海戦術という強硬手段があるにはある。


如何に強い冒険者であろうとも、数の暴力―――しかも命令されれば自分の肉体を、命を犠牲にさせる事もできる奴隷を使っての暴力―――には敵わないだろうというのが奴隷ギルドの最終見解なのである。


だが、奴隷もタダではない、本部とて、無駄に奴隷を消耗する事はできれば避けたい。そのために一級エージェントが派遣されているのである。






ゴードンは、報告書を読み、即座に本部に応援を要請した。


一級エージェントがいきなり応援を要請してくるというのは珍しい事なので驚かれたが、既にリュージーンの件はランドマスターの鶴の一声で奴隷ギルド内部で最重要案件化していたため、本部も即時応援を送るとの返事であった。


ただ、応援が到着するまで待っていられない。


リュージ―ンを監視していたワミナの話では、リュージーンは既にジャールの街を出てしまっているそうである。


すぐに後を追ってゴードンも出発したのであった。



   *  *  *  *



ジャールの街に、キロンの件を調査するための騎士が到着した。


ジョルダン伯爵(の三男のヤニク)が派遣した騎士は三人、リーダーの騎士は名をハロンと言う。後の二人はメロン・ジロン。三兄弟であった。


ジャールの街は代官を失った状態だが、それ以外の機能は特に問題なく、街は平静を保っているようであった。


早速騎士達は報告を上げてきた門番と合流し、キロンの屋敷を見に行ったのだが、屋敷のあった場所の光景を見て騎士達は唖然としていた。


ハロン 「これは酷いな……」


メロン 「どうやったらこんな風に破壊できるんだ?」


門番A 「なんでも、柱を全て同時に破壊した、とか言ってました……」


ジロン 「なるほど……ってどうやって?」


門番A 「……さぁ?」


騎士達は門番から、犯人は旅の冒険者であること、以前キロンに犯罪奴隷に落とされたモリーという少女を伴っていた事を聞き出した。


そして、数日掛かったが、モリーの足跡を辿り、奴隷ギルドに照会し、モリーを引き取り解放したのがリュージーンという冒険者である事を突き止め、それを伯爵の三男ヤニクに報告したのであった。


ヤニク 「では、キロン子爵が殺されたのは間違いないということだな?」


ハロン 「恐らくは、としか言えません、なにせ、死体が見つかっていないので……」


ヤニク 「破壊された屋敷の中にある・・んじゃないのか?」


ハロン 「その可能性はあります、何人か、騎士達の死体は瓦礫の下から発見されていますので。ただ、瓦礫をすべて片付けるにはまだ当分時間が掛かると思われます」


ヤニク 「キロンにはかなり腕利きの騎士を紹介してやったはず。その騎士達を皆殺しにし、屋敷を粉々に破壊する、それも一人で? それほどの実力者が、王の命で動いている可能性があると言うことか……」


王が動いている、しかも一騎当千の強力な戦士を手に入れた可能性があるとなると、もはやヤニクのレベルでどうこうできる話ではない。ヤニクは父親のジョルダン伯爵に事を報告した。


ジョルダン伯爵は、ヤニクの報告にある冒険者の名前を聞き、それが王が先日「手出し無用」の通達を出したリュージーンである事にすぐに気づいた。


伯爵は、自分の手には余る相手であると判断し、自分の懇意にしている侯爵、ギャスラ・グリンガル侯に報告したのであった。


グリンガル侯爵は、ジョルダン伯爵とは別に、奴隷ギルドからも助力を頼まれていた。


もともとこの国の貴族は奴隷ギルドと縁が深い者が多い。戦争によって敵国の人間を戦争奴隷にする必要があったためである。そのため、奴隷ギルドはこの国の中でかなりの権力を持つに至ったのだ。


奴隷ギルドは、今回、王が法律を変えた事についてダイレクトに影響を受ける。当然、奴隷ギルドは懇意にしている貴族に相談した。王に圧力を掛け法律を撤廃させるためである。その貴族のトップが、グリンガル侯爵なのであった。


グリンガル侯爵は、それらの報告全てに共通して、リュージーンという名の冒険者が関わっている事に気付いた。


グリンガル侯爵はジョルダン伯爵にこれ以上は何もするなと命じ、自家の暗部のリーダーを呼び出した。


グリンガル侯爵 「その、リュージーンという冒険者を探し出せ」


暗部 「殺りますか?」


侯爵 「……」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


美少女登場!

ついに「性描写有り」のタグが生きる時が?!


乞うご期待!



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