第480話 マテやっぱり二刀流は卑怯だ
危うく槍を取り落としそうになったゴッホであったがなんとか持ちこたえた。
だが次の瞬間、リューが更に半歩踏み込み、槍が逆方向に鋭く半円を描く。その槍に弾かれ、ゴッホの槍が大きく宙に弾かれる。さすがに槍を手放しはしなかったが、気がつけばリューの槍がゴッホの喉元に突きつけられていた。
リュー 「自信ありげだったのに、意外と大した事ないな?」
ゴッホ 「くっ、舐めるなぁ!」
ゴッホは弾かれた槍を力任せに引き戻し上から振り下ろしてくる。だが、再びリューの槍が小さく半円を描くと、ゴッホの槍は地面に叩きつけられ、そのまま折れてしまった。
リュー (なんとなくイメージだけでやったが、うまくいったようだな)
リューは地球に居た頃、とある中国拳法を描いた漫画で、槍の達人の話を読んだ事があった。それによると、確か槍の基本は、槍を上に払う(外回し)下に払う(内回し)そして突く、の三つだと書いてあったのだ。
それだけでも、達人のふるう鋭い動きであれば十二分に強かったらしい。それをイメージしてリューも槍を回すように動かしてみたのだ。そしてそれは、リューの優れた膂力によって十分に威力を発揮したのであった。
だが、ゴッホは止まらない。折れた槍をそのままリューに向かって突き出してくる。それを再び弾き飛ばすリューだったが、ゴッホはあっさりと手をやりから手を離すと踏み込みながら腰に差した木剣を抜き襲いかかってくる。
リュー 「むっ、なかなかやるな」
槍の射程の内側に入り込まれてしまった。
槍の棒状の部分を使い、棒術のように戦う方法もあるのだが、リューも槍を捨て木剣を使う事にした。リューもそれほど槍や棒術が得意というわけでもない、剣のほうが得意である。
両腰に差しておいた木剣を抜き構えるリュー。今回は長剣を両手に持った二刀流となっていた。
普通の二刀流ならば左手に短刀、右手に長刀なのだが(リューは右利きである)、実は、なんとなく武士のイメージでリューは左側に長刀と短刀、右側に長刀を差してしまったのだ。それを抜くと、左手は右側にある長刀を抜くしかないわけで、ならば右手で短刀を持ち逆二刀に構えるか、右手も長刀を持つかの選択肢しかなくなってしまったのである。そしてリューは咄嗟に右手にも長刀を握ったのであった。リューの膂力ならば長刀を片手で扱うのは造作もないので何も問題はない。
ゴッホ 「馬鹿め、二本持ったら強いと思ったんだろうが、両手で一本持ったほうが早く強いんだよ!」
そう言いながらゴッホが打ち込んできた。
ちなみに、リューはここまで一切の強化魔法・スキルを使っていない。危険予知すらも封印し、レベルアップももちろん使わない、完全な素の状態で戦っているのである。
それでも人間のSランク冒険者とは互角に渡り合える実力がリューには既にあるのだが、ゴッホも自信ありげなだけあって、かなり腕が立つのであった。
言うだけあってゴッホの攻撃は鋭く重かった。片手で持った剣では受けきれない……並の人間であれば。
だが、リューの竜人としての腕力は並の人間の比ではない。ゴッホの剣撃を片手だけで余裕で受け止めて見せる。
鍔迫り合いになるリューとゴッホ。
ゴッホ 「バカな……こんな……」
一見互角に見えるがそうではない。リューは片手、ゴッホは両手で鍔迫り合いをしているのだ。にも関わらず、リューを押し返す事ができない。
リュー 「そろそろ本気出していいか?」
ゴッホ 「なっ」
リューが残った片手に持った剣でゴッホを攻撃する。たまらず体を離し床に転がって逃げるゴッホ。
だがリューは無理に追撃せず、ゴッホに再び立ち上がるよう促す。
ゴッホが構えたところで再びリューの攻撃。今度は両手で情け容赦なく攻撃する。
ゴッホ 「うわっ、ちょっ、まっ、二刀は卑怯だぞ!」
両手で持つのと同じ様に片手で剣をふるえるならば、二本持っているほうが一本しか持っていないより強いのは当たり前である。
なんどかゴッホもリューの攻撃を凌いでいたが、徐々に強く鋭くなっていく攻撃に、ついに防御が追いつかず脇腹を打たれて倒れた。
リュー 「俺の勝ちでいいか?」
ゴッホ 「…いや、まだだ。やっぱり剣二本は卑怯だ、一本なら負けない」
リュー 「別にいいぞ、一本でやるか?」
あっさり剣を捨てたリューを見て見てゴッホは少し驚いたが。
リュー 「ポーション用意してあるんだろう? 治療してからでいいぞ」
先程のリューの打撃でおそらく肋骨にヒビが入っていた。それを治療しろとリューは言っているのである。
ゴッホは部屋の隅に用意してあったポーションを飲むと、再び中央に出てきた。
ゴッホ 「なかなか良い心がけだ。次こそは俺様の本当の実力を見せてやろう」
リュー 「試験を受けてるのは俺だろ、なんでお前の実力を見なきゃいけないんだ……」
― ― ― ― ― ― ―
次回予告
お、俺は、本当は、素手の格闘が一番得意なんだ
乞うご期待!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます