第315話 暴走馬車「俺の前を走るんじゃねぇ!」

ダヤンを出るにあたり、リューは馬車を購入する事にした。


これまではリューとヴェラの二人旅だったので、それぞれが馬に乗って移動していたが、今回はモリーとレスター・アネットが一緒である。彼らに馬に乗れというのはちょっと無理があった。


買ったのは十人以上乗れる少し大きめの馬車で、貴族などが乗るようなボックス型ではなく、天井も壁も布張りのいわゆる幌馬車である。


乗車するのはヴェラ・モリー・レスター・アネット、リュー。そして御者席にランスロット。(御者席は荷台の先端に前向きに座るだけで、荷台と一体型である。)パーシヴァルとエヴァンスは用が無い限りは亜空間に入ってると言っていたが、ランスロットは皆と話がしたいと、頑なに帰ろうとしないのであった。(このお喋りケルトンめとリューに言われても気にした様子もない。)


さらに、レスターとアネットの両親(スケルトン)も馬車の後方にじっと座っている。二人の子供をあたたかく見守っている。……見守っているのだと思うのだが、どうも、ただぼーっとしているようにも見えなくもない……。


ランスロットが言うには、スケルトンになりたてなので仕方ないという。そのうち自我も安定してきて、人間らしく? なってくると言うことだった。


リュー(とスケルトン達)には亜空間収納があるので、荷物がまったくないため内部が広く使える。詰めればあと2~3人は乗れそうである。





馬車を牽く馬は迫力の【バトルホース】である。これは、動物の馬の倍近くのサイズがある馬型の魔物である。


リューとヴェラの愛馬、アダムとマーガレッタは、マーガレッタがアダムの子を妊娠中である事が発覚したため、大事をとって休みを与えたのだ。


マーガレッタが妊娠中でも別にアダムは動けるはずであるが、一日だけとはいえ、妊娠中のマガーレッタを一頭残しておくのも気が引けたため、リューはアダムを使うのも自粛したのであった。


※アダムとマーガレッタの二頭は、普段はリューの管理するダンジョンの中に作った草原フィールドに放牧されており、必要に応じてリューが転移で連れてくる。フィールドは魔物は一切出ず、また外と通じている通路もない階層としているので、安心して子育てできるだろう。


ただ、二頭とその子供達だけでは少し寂しいような気もする。そのうち他の馬も増やしてやろうかとリューは考えていた。それに、敵が居ないと言うのは安心ではあるが、子馬達の教育上は良くないかも知れない。(子供がまったく警戒心を持たない馬に成長してしまう。)まぁ、それもおいおい考えていくつもりであった。


だが、アダムとマーガレッタが使えないとなると、馬車を牽かせる馬を別途用意する必要がある。そこでリューは、自分の管理ダンジョンの設定を少しいじってバトルホースを発生させたのだ。(もちろん、アダム達の居るフィールドとは別の階層である。)そして、それを “テイム” したのである。


不死王の仮面のおかげで全属性の魔法が使えるようになったので、リューにもテイムが使えるようになった。





※余談であるが、実はテイムにも属性がある。


大まかに、魔法の属性は光・闇・火・風・水・土の六種類と言われている。だが、さらにそれらの属性に派生属性がある。例えば雷属性は光の属性の、植物属性は土属性の派生属性である。


さらに、どの属性にも属さない無属性というのもある。リューの得意の時空魔法がそれに当たるが、テイムもまた無属性と一般的には言われている。だが、実はテイムにも適応属性があり、その属性に応じてテイムしやすい魔物の属性が変わってくる。


例えば、火属性の傾向を持つテイマーは火属性を持つ魔物をテイムしやすい、などである。


もちろんリューは仮面の制御力によって全属性を使えるので、どの属性の魔物でもテイム可能である。


また、テイムを成功させるには、その魔物より強い事を示して屈服させる必要があるのだが、その点もリューならば問題ない。(なんならドラゴン系の魔物ですらテイム可能であろう。)


実際、バトルホースはリューにあっさりテイムされた。特に戦ったりもせず、睨み合っただけで勝負はついた。リューは無駄に傷つけたくなかったので、竜人レベルを上昇させた状態で【威圧】したのである。バトルホースはそれだけで、自分より上位の存在であると理解できたようだ。





テイムしたバトルホースの初仕事は、リューの馬車を牽く事である。少し大きめの馬車なので、普通の馬ならば何頭か必要だっただろうが、巨大で力の強いバトルホースなので一頭で十分であった。


もともと、リューは馬車でそんなに速度を出すつもりはない。速度を出すほど揺れが激しくなるからであうる。


リューが買った馬車はシンプルだがそこそこ良いグレードの物であったので、車輪に板バネがついていた。何も付いていない馬車よりはかなりマシだが、それでもやはり速度を出し過ぎると結構揺れるのだ。


そもそもこの世界の道路は舗装されておらず、石などもゴロゴロと落ちている「オフロード」なのだ。


それに、板バネがついているとは言え、サスペンションとしてはその性能は決して良くはない。ただバネがついているだけで、反動を抑えるためのダンパーもついていないのである。当然、跳ねる。


しかも、タイヤは地球の自動車のように空気が注入されたゴムチューブなどではなく、木の車輪に鉄(あるは非常に高級な馬車であればなんらかの魔物の皮など)でカバーしただけのものが普通なのだ。


乗り心地は決して良いわけがない。





実は、リューは最初、重力魔法を使って馬車を軽くする事を試してみた。そのほうが馬の負担も軽く、速度も出るだろうと思ったのだ。だが、やってみたら、馬車の自重が軽くなった分、石などに乗り上げた時に返って派手に跳ねてしまう事が分かったのだ。


地球のオフロードタイプのバイクや自動車のサスペンションのように、コイルバネを使いストロークを長くし、振動を抑え込む油圧ダンパーなどを開発すればかなり改善されるだろう。さらに、空気を中に封入するゴムのタイヤを作れば完璧である。


この世界の技術なら、アイデアさえ出せば十分作れそうに思えるので、魔道具開発者にアイデアを持ち込んで開発させてみたいと一瞬思ったリューであったが……


冷静に考えると、おそらくコスト的に割に合わないものになる。よほど大量生産してコストダウンができないと、平民に普及させるのは難しそうだ。


そもそもそれ以前に、道路に凹凸が多すぎるのだ。それを平らにして舗装整備するほうがよほど簡単で効果は高いだろう。


それに、ここは魔法の世界である。車輪や道路を工夫するよりも、馬車を浮かせてしまうような方向で考えたほうがあり方としては正しいのかも知れない。


この世界には、空を飛ぶには不相応な小さな翼を持ちながら、自由に飛び回る魔物なども居るのだ。それは空気にうまく乗っているのではなく、魔力を使って浮いているはずである。


魔法の世界ならばこそ、浮き上がったり飛んだりして移動する方法を研究したほうが、飛行機を作るよりはよほどハードルが低そうである。


そのような、空を飛ぶ乗り物がこの世界に既に存在しているのか否かリューは知らないが。もし空を飛ぶ移動手段があるなら、かなり旅は楽になるだろう。





ただよく考えたら、リューにとって空を飛ぶような高速の移動手段は必要ないのであった。リューにとっては旅は急ぐものではない。そもそも急ぐなら【転移】を使えばいいだけの話なのだから。


幌馬車は側面の布を巻き上げて開く事ができる。屋根のみ残して壁のない状態にして、乗客も景色を楽しむ事ができるのである。景色でも見ながらのんびり移動すればよい。


あまりのんびりし過ぎていると次の街に夕方までに着けなくなってしまうが……今の所、それほど飛ばさなくても快調に進んでいるので大丈夫だろう。





だがその時、後ろから小型の馬車が猛スピードで走ってきた。


御者の少年 「どけどけどけ~! 俺様の前を走る事は何人なんびとたりとも許さねぇ!」


後ろから煽ってくる馬車。

リュー-はランスロットに言って道の端に馬車を寄せてやると、その馬車は猛スピードで激しく揺れながら追い越して行った。


追い越しざま、馬車の中から男が叫んでいた。


男 「すまない、急いでるもんでな!」


見れば、先程イキっていた御者の少年は男からゲンコツを落とされていた。


かなり揺れているので、乗り心地は最悪だろうが、大丈夫なのだろうか? と遠ざかっていく馬車を見ながら思うリューであった。


その馬車が見えなくなってからしばらく。


ランスロットが1キロほど先に魔物が居ると知らせてきた。どうやら馬車が襲われているらしい。先程の馬車であろうか?



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


魔物に襲われた冒険者を助けてやった


乞うご期待!



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