第563話 おう姉ちゃん、聞きたい事があるんだがよ?

トナリ村の冒険者ギルドで、依頼を終えた冒険者達が受付の前に列を作っている、毎日のおなじみの光景であるが……


そこに一人の男がやってきて、列を無視して横から受付嬢に話しかけた。


男 「おうおう姉ちゃんよぉ、聞きたい事があるんだがよぉ?」


『おい、ちゃんと並べよ!』


並んでいる冒険者達から睨まれるが男は悪びれる様子もない。


男 「悪いなぁ、急ぎなんだ、すぐ済むからよ!」


仕方なく、受付嬢が対応した。


レベッカ 「いらっしゃいませ、冒険者ギルドへようこそ? 本日はどのようなご要件ですか?」


男 「ここに時々マンドラゴラを納品してる奴が居るだろう? そいつが誰か教えろ」


男は、パガルに送り込まれた冒険者である。だが、あまり頭がよくなかったようで、いきなり直接、冒険者ギルドの受付嬢にマンドラゴラの事を尋ねようとしたのだ。


レベッカ 「……失礼ですが?」


男 「あ?」


レベッカ 「失礼ですが?・・・・・・


男 「…おう、失礼だからさっさと答えやがれよ」


レベッカ 「お名前を伺っているのですが? 見かけない方ですが、冒険者ならばギルドカードもご提示願いますね」


男 「俺の事はいいんだよ、いいから質問に答えやがれ!」


レベッカ 「どこの誰かも分からない人に答えられるわけないでしょう」


男 「あんだぁ? ギルドの受付嬢ごときが! 受付嬢は黙って冒険者の言う事聞いてりゃいいんだよ!」


レベッカ 「あなたが冒険者かどうかだって分かりませんから! 名乗りすらしていないのに」


男 「お前…、そんな態度でタダで済むと思うなよ?」


レベッカを睨みつける男。だが、長年荒くれ者を相手にしてきたベテラン受付嬢のレベッカである、そんな事では怯む事はない。


レベッカ 「冒険者だというのなら、ギルドカードを提示して下さい。そうしたら、ギルド職員として、冒険者として扱ってあげますよ?」


男 「ちっ……」


男は渋々自分のギルドカードを出してきた。


レベッカ 「拝見します。お名前はジョーズさん、冒険者ランクはD、マスジの街の冒険者ギルドで登録なさったんですね」


ジョーズ 「俺の事はいいんだよ! 名乗ったんだから、さっさと教えろ!」


レベッカ 「何をですか?」


ジョーズ 「てめぇ、舐めてんのか! マンドラゴラを納品してる冒険者は誰だって訊いてんだよ!」


レベッカ 「ああ、そうでした。ではお答えいたします。冒険者の個々の仕事内容については守秘義務がありますのでお答えできません」


もちろん、マンドラゴラの納品者はリューである。(最近はレスターが持ってきているが、それはリューの代理だとちゃんとギルドにもリューから話が通っている。)


Sランクの冒険者であるリューならば、この程度の冒険者相手に負ける事はないだろうが、だからといってギルド職員が勝手に情報を漏らすわけにも行かない。


ジョーズ 「てめえ! さっき名乗ったら教えるって言ったじゃねぇか! 騙したのか?!」


レベッカ 「騙してなどいません、冒険者である事が証明されたら、冒険者とギルド職員の関係として対応すると言っただけです。ですからギルドのルールに則って、お教えできませんとお答えさせて頂いただけですが、何か?」


ジョーズ 「舐めた事言いやがって……タダで済むと思ってるのか?」


レベッカ 「あなたも冒険者なら、ギルドの職員に暴行などしたらどうなるか分からないわけでもないでしょう? 謹慎処分にランク降格、場合によっては冒険者資格の剥奪もありますが?」


ジョーズ 「てんめぇこそ分かってんのか? 明るい月夜の晩ばかりじゃねぇんだぜ? せいぜい帰り道には気をつけるんだな!」 


だが、その時、ジョーズの肩をポンポンと叩く手が。


『お前こそ、気をつけろよ? 宿で寝ている間に襲われて、犯人が見つからないなんて事になるかも知れんぞ?』


ジョーズが振り返ると、怒気を放つ冒険者達に取り囲まれていた。さすがにジョーズの受付嬢に対する脅迫は度を越しており、馴染みの冒険者達が黙っていなかったのだ。


ジョーズ 「~~~~っ、チッ、もういい!」


男はギルドカードをひったくって踵を返した。だが、出ていくのかと思ったらそうではなく、そのままギルド併設の酒場へと移動しただけだった。


ジョーズ 「へっ、答えねぇなら、ここで見張ってるだけだ。そのうち納品に来るんだろうからな」


ジョーズはざまみろという笑顔である。


仕方がない、レベッカは、後でリュー(とレスター)に、おかしな奴が来ていると警告しておこうと思ったのだが…


間の悪い事に、ちょうどその日、レスターがマンドラゴラを納品に来てしまったのであった。


レベッカは待たせてしまった冒険者達の対応に追われ、ギルドにレスターが入って来たのに気付くのが遅れた。レスターは受付には行かずに、納品カウンターに直行してしまったのだ。レスターに気付いたレベッカが慌てて席を立ったが時既に遅し。


レスターが納品カウンターに出したマンドラゴラをジョーズは目ざとく見つけ、ニヤリと笑っていた。


ジョーズ 「なんでぇ、ガキじゃねぇか。今回の仕事は楽勝だな」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


逃げて~


乞うご期待!



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