第562話 孤児院とマンドラゴラを巡るトラブル

レベッカ 「アリサさん、今日も稼いでますねぇ、さすが、当ギルドの稼ぎ頭」


アリサ 「リューには敵わない」


レベッカ 「あの人は、確かに凄いのだろうけど、最近はもう、滅多に冒険者活動しないからねぇ。比較してもしょうがないでしょう。


で、また、買い取りの代金は孤児院へ?」


アリサ 「ん。振り込んどいて」


レベッカ 「偉いですね」


アリサ 「別に偉くない。前借りしてた自分の生活費を返してるだけ」




  * * * * *




トナリ村の孤児院では、卒業した子供達に一定の額を返済するように要求する事にしていた。


これは、生活費や学費等を、善意で施すのではなく、子供達に貸し付けるという形にして、大人になったら返してもらう制度である。(もちろん、地球での奨学金という知識のあったヴェラのアイデアである。)


親をなくして途方にくれていた子供達も、誰かの善意に縋って施しを受けるだけという立場ではなく、後で自分で返すと言う事で、気兼ねなく世話になれるのである。


もちろん、利子など取らないし、返せないほど莫大な金額でもない。期限もないので、卒業後は無理なく返していけばよい。


もちろん、中には帰さない者も出るかも知れない。(途中で死んでしまう者も居るだろう。)だが、それは素直に諦める。返済だけで元をとろうとはヴェラももともと考えてはいない。


通常、孤児院というのは国や貴族が運営するか、あるいは教会が事前活動として行う。当然、国や貴族から運営資金が提供される。(もちろん、常に不足気味になる事が多いのだが。)


だが、リューがモリーに任せた孤児院は完全に私設の組織であるため、国や貴族のバックアップはない。代わりにリューが金を出しているわけだが、リューが居なくなっても持続可能なように考えるようにとリューに言われていたのだ。


スポンサーに頼るのではなく、自力で稼げるようになる事。そのために、孤児院の裏で野菜の栽培などを行い、それを売ったりもしている。これはまぁどこの孤児院でもやっている事であるが、トナリ村の孤児院が違うのは、マンドラゴラの栽培を行っている事である。


マンドラゴラは、薬や魔道具の材料になるが、非常に希少なため、高値が付く。これが安定して栽培できれば莫大な収入源になるのだ。


ただ、マンドラゴラはダンジョンの中だけで採れるもので、ダンジョンの外では栽培できないというのが常識であった。


それは正しい。マンドラゴラは植物ではなく、植物の魔物なのだから。


それが町中で栽培可能になったのは、リューが莫大な魔力を注いだからである。そのせいで、リューの家の裏庭にある畑の土はダンジョンの土と同じ様に魔力を豊富に含むようになり、マンドラゴラが育つことができたのである。


つまり、リューが居なければ成立しない話なのだが……。


しかし、マンドラゴラが定期的に安定して納品されるようになれば、それを訝しむ者も出てくる。


リューが自分で売っているだけなら良かったのだが、レスターに納品を任せるようになった。それがまずかったのだ。


そしてついに、マンドラゴラを巡ってトラブルが発生する。それは、レスターが十一歳、アリサが十四歳の頃の話であった。


    ・

    ・

    ・


マンドラゴラが裏庭の畑で採れるようになったので、それを定期的に売るようになったリューであるが、基本的には冒険者ギルドに買い取ってもらうようにしていた。そのほうが、商人やら貴族やらと直に取引するよりは、トラブルがなくて良いと考えたのである。


希少なマンドラゴラの素材ではあるが、出所が冒険者ギルドであれば、『冒険者がダンジョンから摂ってきたのだろう』と思われるだけである。さすが、辺境の村ともなると、そのようなモノも採れるのだろうと普通は思うだけだからである。


だが、実はトナリ村の近くにはダンジョンはない。魔物はダンジョンで生まれるのだから、森の奥に行くほど凶悪な魔物が出てくるという事は、森の最深部にまで行けばおそらくダンジョンがあるのだろうが、そこまで到達した者はいまのところ居らず。ダンジョンは発見されていないのである。


しかし、ダンジョンが近くにないはずの村から定期的にマンドラゴラが納品されるようになった。


安定供給され価格も下がってきて(それでも十分高価なものではあるのだが)、手に入りやすくなって喜んでいるだけの者は多かったが、トナリ村の近くにダンジョンが無いことを知っている者も当然居るわけで、マンドラゴラの出所を不思議に思う者も現れるようになる。


とある地方の子爵家の四男のパガルという男がいた。パガル自身はトナリ村に詳しいわけではなかったが、出入りの商人から、マンドラゴラが安定供給されるようになった話、そして、それがトナリ村から出荷されてくるのが妙だという話を聞いたのだ。


パガルの家では長男・次男が優秀であったため、四男である自分が子爵家を継げる可能性は限りなく低く、パガルは身の振り方で困っていた。


父には商売をやれと言われていた。うまく行けば、子爵家の取引を全部任せても良いと。ただ、その前にある程度実績を示せとも言われていた。商才がなければ任せても損害を被ってしまうからである。


だが、パガルはそれまでのところ、大した成果が残せていなかったのだ。


ただ、パガルは過去に一度、護衛を大勢雇って潜ったダンジョンで、偶然発見したマンドラゴラで儲けた経験があった。そのため、マンドラゴラの話を聞き、その成功体験を思い出し、興味を持ったのである。


マンドラゴラは、ダンジョンに潜っても発見は難しい。それが安定供給されるようになったと言うことは、マンドラゴラの群生地を発見したのではないかと睨んだのだ。それも、ダンジョンの中ではなく森の中にである。(普通はありえない事なのだが、高ランクの魔物が多い魔境の森であればそういう事もあるのかも知れないと考えたのだ。)その場所を聞き出せれば、自分もマンドラゴラを売って儲けられるかも知れない。


そこで、パガルは、まずはそのマンドラゴラを納品している冒険者を調べろと、子飼いの冒険者をトナリ村に送り込んで来たのだ。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


「マンドラゴラを納品してる冒険者は誰だって訊いてんだよ!」


「冒険者の個々の仕事内容についてはお答えできません!」


乞うご期待!



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る