第564話 裏口から逃げなさい
レベッカ 「レスター、ちょっといい?」
レベッカが慌てて席を立ち、レスターに駆け寄った。ジョーズが余計な事をするなと睨みつけているがレベッカは気にせず、レスターを会議室へと誘う。
納品は毎度の事なので、買い取りの査定も決まりきったもの、これ以上特に手続きはない。代金は教会の口座に振り込まれるので金を受け取る必要もないので、特にこれ以上やる事もないレスターは素直にレベッカに従った。
レスター 「レベッカさん、どうかしましたか?」
レベッカ 「実はね、マンドラゴラを納品している冒険者について尋ねてきた流れ者の冒険者が居たの。さっき酒場で飲んでいたジョーズって奴、Dランクよ」
レスター 「なんかジロジロ見ている冒険者が居るなとは思ってましたが……」
レベッカ 「ごめんね、レスターにはしばらく来ないように後で連絡させようと思ってたんだけど、タイミングが悪かったわね」
レスター 「何の用でしょう?」
レベッカ 「分からないけど、まぁ、態度からしてロクな目的じゃないのは確かよ。大方、マンドラゴラを横取りしたいとか、マンドラゴラが採れる場所を聞き出して独占したいとか、そんなところじゃないかしら」
レスター 「でも、納品者はリューですよ? 俺は単なる代理で。リューが相手では、どんな冒険者が来ようと、交渉にすらならないんじゃ?」
レベッカ 「Sランクの冒険者であるリューならそうだと思うけど。でも、あなたは違う。きっと、ここを出たらあいつが接触してくるわよ? 代理だって言って引くとは思えないけど」
レスター 「そう…、分かった。気をつけるよ」
レベッカ 「見つからないように、今日はこのまま裏口から帰りなさい。そして、納品は当分中止にするか、リュー本人に来てもらうようにしなさい」
レスター 「う~ん、それはしたくないかなぁ……ほら、リューは今、エライザの世話で忙しいからさ。せっかく、俺でも役に立てる仕事ができたのに…。俺だって一応は冒険者だし。剣の修行もしてるんだよ? 少しくらい絡まれたからって……」
レベッカ 「ダメよ! 相手は腐ってもDランクよ。あなたは冒険者と言っても、未成年のHランクなんだから、気にする事はないわ。無理はしないで、何かあったら大人たちを頼るのよ」
レスター 「……分かったよ」
言われた通り、こっそりとギルドの裏口から出て帰路についたレスターであったが、残念ながらそれを影からジョーズが見ていた。
ジョーズ 「はん、甘ぇよ。受付の女が連れてった時点で、逃がすつもりなのはバレバレだっての」
村の中を歩くレスター、それを尾行するジョーズ。だが、レスターはジョーズが尾けて来ているのに最初から気づいていた。尾行が下手くそ過ぎるのだ。
そもそも狭い村である。住民は全員顔見知りのようなものだ。冒険者ギルドによく出入りしているレスターも、村に長く居る冒険者は全員知っている。しかも先程警告を受けたばかりである。自分の後ろを見た事のない冒険者がずっと歩いていたら、怪しまない訳がない。
結局、レスターは、孤児院には戻らず、迂回してそのまま西門に向かい、村の外に出る事にした。
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東西へ続く街道を塞ぐ形で作られているトナリ村。東側が王国の中央部方面、西へ向かえば辺境地域=魔境の森に向かう事になる。
ちなみに村に入らずに迂回する道というのは必要性が低いため整備されていない。村は、もともと、魔境の森から魔物の侵入を防ぐ砦であったからである。
魔境の森へ続く西側の門と防壁は東側より強固に作られており、冒険者ギルドはその西門の近くにある。
この村より先には街はなく、魔境の森とその奥の険しい山があるだけである。街道は村から魔境の森まで続いているが、その道を使うのは魔境の森で狩りをする冒険者だけである。
村はやや南北に長い形状となっている。南側は畑になっており、街道(中央通り)の北側に家が集中している。北側の奥にも小規模な畑があったが、耕す者が居なくなり、空き地となっていた。
リューが土地を買って家を建てたのはその一角である。(今では孤児院の子供達とスケルトンの農夫が畑を耕している。)
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西門から村を出たレスターは、そのまま魔境の森方面に向かって歩いて行く。
ジョーズ 「…あいつ、どこへ行く気だ……? そうか! マンドラゴラを収穫に行くんだな?
マンドラゴラはダンジョンの中にしか生えねぇはずだが、この村の近くにダンジョンはないって聞いた。魔境の森の奥ならマンドラゴラが生える場所がある可能性はあるだろうが……。
だが、もしかして、あんなガキでも収穫できるような場所にマンドラゴラが生えてるって事なのか?! なるほど、あのガキは代理って事にしてるが、実はあのガキが収穫しているのかも? そうだとしたら、俺にも運が向いてきたか?」
ジョーズはニヤつきながらレスターの後を追った。
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次回予告
「…Sランクだとぉ!?」
乞うご期待!
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