第565話 おじさん、僕に何か用?

村を出たレスターは、街道を進む。


街道を塞ぐように村が建っているので、道の往く先は、廃村となっているサビレタ村、そしてその先にある魔境の森がある。


レスターの後を、少し離れてジョーズが追う。


実は、現段階ではマンドラゴラについての情報を探るだけで、まだ納品者には接触するなとジョーズは命じられていた。ある程度情報が確実になってから準備をしてパガルが乗り込んでくる予定である。


ジョーズ 「だが、甘ぇよ。そんなのんびりした事やってたら、儲け話は逃げちまうもんさ」


いよいよパガルが乗り込むとなった時、おそらくジョーズは蚊帳の外に置かれるだろう。しょせんジョーズは使い走りの扱いである。小遣い稼ぎ程度の仕事は与えられても、パガルの商売に絡ませて貰えるわけもない。


そこで、ジョーズはマンドラゴラの情報を独占し、それでパガルと交渉するつもりだった。そのため、マンドラゴラの情報を先んじて確保し、自分だけの秘密にしておくつもりであったのだ。


ジョーズ 「さて、ガキを締め上げてさっさと情報を吐かせちまいたいところだが……」


だが、時刻は丁度、森での魔物狩りを終えて冒険者達が戻ってくる時間帯であった。


泊まりになる事も多いダンジョンと違い、森で狩りをする冒険者達は日帰りの者が多い。早朝出発し、日中狩りをして、夜までには戻ってくるのだ。


ダンジョンの中には昼も夜もないのが普通だが、森には夜がある。森で夜を過ごすのは、思いの他危険なのだ。魔物も夜行性のモノが出てくるし、夜の闇の中では魔物と戦うのにも難儀する事になる。


(もちろん、夜行性の魔物を狙うとなれば夜に森に入る事になるが、あまり推奨はされていないし、特段、夜行性の魔物の素材で希少なモノがあるわけでもないのだ。)


より高ランクの魔物を狙って森の深部まで何泊もしながら行こうと考える者もまれに居るが、魔境と言われる森の深部は魔物の危険度も極めて高くなる。そこを目指して行ったはいいが、結局戻ってこれなかった者も多いのだ。


そもそも危険度の高い魔物が多い森である。浅い場所でも十分な成果があがるので、無理に夜や深部で狩りをする必要はないのだ。


ジョーズ 「くそ、やけに冒険者が多いな」


さすがに冒険者の多い場所で子供を脅せば、余計な口を出してくる者が居ないとも限らない。


しかも、レスターは顔が広く、すれ違う冒険者達にもよく声を掛けられるのだ。


レスターが冒険者として登録したのは二年ほど前である。もちろんランクは未成年者であるためHランクなので、町中の依頼しか受けられないのだが、礼儀正しく誠実で責任感の強いレスターは、村の者達にも冒険者達にも好意的に受け入れられていたのだ。


ジョーズの居た街では、冒険者同士はみなライバルで、足の引っ張り合いはしても決して仲良くはなかったため、冒険者が襲われていても知らん顔するような者が多かった。だが、この村の冒険者はそうではない雰囲気なのはジョーズにも分かった。


これではなかなか手を出せない。仕方なく、根気強く歩き続けるしかないジョーズであった。


だが、時間も遅くなれば、徐々に冒険者達の数は減り始める。そしてついに、帰還する冒険者達の流れが途絶える時がきてしまった。


ここぞとばかりに声を掛けようとしたジョーズであったが、一瞬早くレスターが振り返って言った。


レスター 「おじさん、僕に何か用?」


ジョーズ 「おじさんだと!? 俺はまだそんな歳じゃねぇぞ! ってそうじゃねぇ! おいお前! マンドラゴラの入手場所を教えろ! トボけたってだめだ。お前がギルドにマンドラゴラを持ってきたのを見てたぞ!」


レスター 「僕は代理で運んできただけだよ。マンドラゴラを納品してる冒険者は僕じゃない」


ジョーズ 「ほう、じゃぁそいつの名前と居場所を教えろ」


レスター 「知ってどうするのさ?」


ジョーズ 「なに、そいつと交渉・・したいだけさ」


レスター 「…マンドラゴラを売って欲しいの?」


ジョーズ 「いや、マンドラゴラが採れる場所を教えてもらいたいだけさ」


レスター 「それを知ってどうするの?」


ジョーズ 「へっ、もう随分儲けたんだろう? それを独り占めってのは欲が深すぎるってもんだ。俺にも儲けさせてくれよ」


レスター 「うーん、勝手に採集すると泥棒になっちゃうと思うけど…」


ジョーズ 「ふふん、素直に教えなければ、荒っぽい交渉になるだけだ」


ジョーズは腰に差した剣を少しだけ抜いて見せる。


レスター 「…おじさんはDランクだよね?」


ジョーズ 「おじさんじゃねぇっての。てかあのクソ受付嬢、俺のランクまでバラしやがって…。いいか、 俺はランクはDに留まっているが、剣の腕はAランクにも負けねぇ!」


レスター 「いやぁ、無理だと思うけどなぁ…その人、Sランクだよ?」


ジョーズ 「その人?」


レスター 「だから、マンドラゴラを納品している冒険者だよ。たとえおじさんの剣の腕がAランク級だったとしても、Sランクの冒険者には勝てないと思うよ?」


ジョーズ 「…Sランクだとぉ!」


レスター 「だから大人しく諦めて帰ったほうがいいと思うけど?」


ジョーズ 「ちっ、いくらなんでもSランクが相手じゃぁ分が悪いか……」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


「嘘じゃない! 本当にSランクの冒険者は居るんだよ」


乞うご期待!


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