第656話 謝罪行脚…

次の村では、ユサークは被害者にひたすら嬲られた。その村の被害者の親バルトは、少し精神を病んでしまっていたようだ。娘を殺されたのだから仕方がない事だが、生き返るなら何度でも復讐を繰り返せると、ユサークを死ぬまで嬲り続けてはリューに生き返らせるよう要求し、また死ぬまで嬲るという事を、嬉しそうに何度も繰り返したのだ。


延々繰り返される拷問に精神が崩壊してしまってもおかしい状況まで追い込まれたユサークであったが、それでも必死に耐えた。つなぎとめたのは、娘ジャッキーへの思いであった。


謝罪行脚してみて、想像以上に恨みが深い事を改めて思い知ったユサーク。おそらく、ユサークに娘が居ると知れば、その娘を殺しに行く者が必ず出るだろうと確信した。もし自分が逆の立場だったらと考えたら、当然だとも思う。


罪の深さを自覚し、謝罪の気持もあったが、それでもその恨みが自分に向かっているだけなら構わない。娘に復讐の念が向かわせないためにも、自分が倒れるわけにはいかないと、娘の事を思い、耐え続けたのだ。


だが、いつまで経っても終わらない復讐に、リューも待ちくたびれてきた。


リュー 「……恨みが深いのは分からんでもないが、そろそろ終わりにしないか?」


バルト 「……そうだな」


そしてバルトはその日を堺に村から姿を消してしまった。


バルトは自暴自棄になったのか、あるいは自殺であったのかも知れないが、近くの山の中に入って、魔物に襲われて死んだのだ。身体は魔物に食い荒らされたため、死体も見つからなかったので、村では行方不明と言う事で処理されたのであった。




  * * * *




次の被害者は、ユサーク(とリュー)を違う意味で苦しめた。


怒りをぶつけ、ユサークを殴ったり殺したりしてくれるならまだ良かった。だが、被害者(の両親)は生きてはいるのだが、精神を病んでしまって廃人同然になっていたのだ。


壊れてしまった心はリューでも治してやる事はできない。謝る事も、復讐させてやる事もできないのだ……。


今は無理だが、なんとかして金を作って、その人を受け入れている施設に寄付をすると約束したユサークであった。




  * * * *




次の村、トラバでは、ユサークにとって印象的な出来事があった。


その夫婦は、ユサークが娘を殺した犯人だと名乗っても、特に怒る事もなく、それどころか喜んだのであった。


夫婦はルーサーとエイミーと名乗った。ユサークは正直に自分の正体を話し、自分がルーサーとエイミーの娘チェルシーを殺したと告げ、夫婦に謝罪したのだが、夫婦は『終わった事だ』と言うだけであった。


周辺の家の者に事情を聞いて、少し分かってきたのは、ルーサーとエイミーは、生きてはいたが、生きる気力も希望もすっかり失ってしまっているという事であった。心が壊れるまでは至っていなかったが、壊れる寸前であったのかも知れない。


二人は、娘が死んでから、ほとんど働きもせず、毎日ぼーっとして過ごしていた。


一見すると、涙を流したり悲しんだりする様子はなく、普通に生活はできているようにも見えるのだが、ひたすら無気力になってしまったのだそうだ。


蓄えを食いつぶしたあとは、たまに働いたりはしていたが、それも最低限、かろうじて食いつなげる程度であったそうだ。見かねた近所の人がたまの施しをしてやったりする事も多いのだとか。


もう怒る元気すらもなくしてしまったのだろうか?


夫婦にもう一度話を聞いてみると、二人は、『もう自分達の人生に意味などない』と虚ろな目で言うのであった。


だが、死ぬことはできないと言う。何故か尋ねてみると、自殺したら地獄に落ちるので、先に死んだ娘の魂の居る場所には行けないと、村の伝統的な宗教で教えられているとの事であった。


今は、自殺にならないようにしながら、ひたすら自然に死が訪れる日を待っていると言う状態であったのだ。


ルーサーとエイミーがユサークが現れた事を喜んだのは、ユサークが自分達を殺してくれるのではないかと思ったからであった。娘を殺した同じ者に殺されたなら、間違いなく娘と同じ場所に行けるだろうと……。


ルーサーとエイミーはユサークに自分たちを殺すよう頼んだが、もちろん、今のユサークにはそんな事はできない。


だが、ユサークは葛藤した。むしろ殺してやる事こそが、ルーサーとエイミーの救いになるのではないか? そうであれば、殺してやるべきなのではないか?


分からない。


どうすればいいのか、何が正解なのか…?


二人のために何ができるのか?


ただ、ユサークは、そんな夫婦に生きてほしいと思った。その夫婦を、なんとか元気づけたいと思ってしまったのだ。


リュー 「なんでもやってみればいいさ」


相談されたが、リューにももちろん、どうしたらよいのかなど分かるわけもないのだ。


ユサークは、自分に出来る事をやってみる事にした。


ただ、できる事は多くはない。話し相手になってみたり、下手な料理を作ってご馳走してみたり、魔物を狩って金を作って渡してみたりしてみた。


だが、ルーサーとエイミーには特に何も変化はなかった。


ユサークはそれでも諦めず、夫婦の家の近くに住み、夫婦の世話をするようになった。


何も変わらない日々が続いたが、ある日、ユサークはふと思いついて、村の孤児院から赤ん坊を一人引き取って育て始めた。そして、自分は村の外に狩りに出かけるからと、その赤子を夫婦にむりやり預けたのでである。


否応なく無理やり押し付ける形であったが、夫婦もそれなら仕方なく面倒を見てくれるだろうとユサークは思った。だが、その目論見は失敗に終わった。


ユサークは夫婦の家の玄関に赤子を置き、一日家を空けた。そして戻ってみると……赤子は玄関先にユサークが置いた状態のまま、泣きじゃくっていたのだ。


夫妻は、赤子を玄関に放置したまま、面倒を見ようとはしなかったのである。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


罪を償いたいなら……


乞うご期待!


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