第655話 もういい、村から出ていけ…。二度と顔を見せるな

その日はとりあえず、宿を取って休む事にしたリューとユサーク。


まだ、ユサークに復讐したい人間はもう一人残っている。イゴーリの妻、ルブナである。


ただ、ユサークは、刺された怪我は治ったとは言え、大量出血した状態のままなので、体力が限界に近く、復讐を受けるにしても一度回復させる必要があるため、とりあえず、食事を取らせて、眠らせる事にした。


イゴーリは少し冷静になったようだが、ユサークが村に留まる事にあまり良い顔をしなかった。だが、ルブナにも復讐させる事ができると聞き、了承したのであった。


その間、リューはコグトの街に戻り、ジャッキーの様子を見たりしていた。ただ、ジャッキーは元気そうであったが、どうもリューを恨んでいるようなので、あまり干渉せず、シスター達に任せて戻ってきたのであた。


二日ほど食べては寝ていたユサークは、少し体力も回復してきた。すると、ユサークは墓に連れて行ってくれと言い出した。もちろん、ユサークが殺したチェザレとイゴーリの娘の墓である。


チェザレは嫌そうな顔をしながらも、ユサークが詫びたいと言うので、娘の亡骸の眠る墓地に連れて行った。


墓を前にして、土下座で謝るユサーク。


そこに、一人の女性が現れた。イゴーリの妻、ルブナである。ルブナは、娘が死んでから十年、毎日墓に花を備えるのが日課だったのである。


ルブナ 「誰ですか?」


自分の娘の墓に向かって土下座している者を見て、ルブナが訝しがりながら尋ねた。


イゴーリ 「お前……何しに来た!」


ルブナに遅れてやってきたイゴーリは不快そうな顔で言った。


ユサーク 「その、謝りに……」


イゴーリ 「汚らわしい! 娘の墓に近づくんじゃねぇ! 娘が怯えるだろうが!!」


ユサークを蹴り飛ばし、追い払うイゴーリ。


イゴーリ 「チェザレ! お前、こんな奴を娘の墓に近づけるんじゃねぇよ!」


ルブナ 「あなた…? まさか、そいつ……?」


イゴーリ 「ああ、俺達のイーシャを殺した極悪人のユサークだよ!」


ルブナの目に怒りの感情が滾る。


ユサークはルブナに向かって土下座し、謝罪の言葉を口にした。そして、自分を殺して構わないと言った。そして、リューに剣を渡すよう促す。


リューが短剣をルブナに向かって差し出すと、ユサークは身体を起こして目を閉じ、両手を広げた。


ルブナは怒りと戸惑いの混ざった表情かおで夫のイゴーリを見る。


イゴーリ 「死んでも生き返らせてくれるそうだ。俺はもうやった、コイツを刺殺してやった、滅多刺しにして殺してやったよ。お前も……イーシャの仇をとってやれ!」


躊躇うルブナに対し、娘の無念を思い出せ!と煽るイゴーリ。そして、ルブナは意を決してユサークに短剣を突き刺したのであった。


ユサーク 「すみ…ま、せんでした……」


血を吐きながら、倒れたユサークはそのまま息絶えた。


幸い? 墓地に人気ひとけはなく、ルブナが人を刺す様子を誰かに見られる事はなかった。


そして……リューの手によって再び生き返ったユサークは、再びルブナとイゴーリに向かって再び土下座し、改めて謝罪の言葉を口にした。そして、気に入らなければ何度でも殺してくれて構わないと言うユサーク。


自分の娘を殺した仇が、自分を殺せと言ってくる。そして殺してもまた生き返り、そしてまた殺してくれという。なんとも異常な光景である。ルブナもしばらく混乱した様子であったが、そのうち涙を流しはじめ、ついに泣き崩れた。


イゴーリ 「何度お前を嬲り殺しても、娘は帰ってこない……。もういい、村から出ていけ…。二度と顔を見せるな!」


再び土下座したユサーク。その首根っこを掴み、リューはクルツカ村を後にした。




  * * * *




関係ない村に何泊かしてユサークの体力を回復させた後、別の被害者の居る別の村を訪ねたリュー。


(※リューはフェルマーの王宮から被害者リストを預かっている。)


その村では、数発殴られはしたものの、簡単に許されてしまった。その両親は、新たに子供を儲け、幸せに暮らしていたのだ。


『思い出させないでくれ!』


その親はユサークに二度と顔を見せるなと言い、追い払って終わりであった。




  * * * *




次の村へと向かったリューとユサーク。だが、すべての被害者の家族が健在であるわけではない。次の村では、被害者の親が見つからなかったのだ。


村長に尋ねてみたのだが、この人物は最近村長に就任したばかりで、あまり村の昔の事もよく知らないという事であった。


だが、何人か村の人間に尋ね歩き、事情を知っているというアミラという人物に行き当たった。アミラは、ユサークが殺した娘の遠縁に当たる者らしい。


この村でユサークが殺した娘の両親は、娘を守れなかった事を詫びながら、娘の墓の前で自殺してしまったと言う事であった。一応親戚であるアミラには軽く非難はされたものの、遠縁という事でそこまで恨みが深いわけでもないようで、それ以上の事はなかった。


ユサークはアミラに娘とその両親の墓を教えてもらい、その前で土下座して一日中、謝罪の言葉を呟いていた。


翌日、リューはユサークを連れその村を後にした。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


心が壊れそうになるユサーク


乞うご期待!




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