第654話 仇討ち
いきなり飛びかかってユサークを殴り倒したイゴーリ。ユサークも覚悟しており、黙ってその拳を受けた。
イゴーリは倒れたユサークに馬乗りになると、さらにユサークを殴り続けた。
イゴーリの拳が血に染まり、ユサークの顔が無惨に腫れ上がっていく。
チェザレ 「おい……その辺にしておけ。……おい、イゴーリ! 死んでしまうぞ?」
チェザレはイゴーリを羽交い締めにしてユサークの上から引き剥がした。
イゴーリ 「何故止める? こんなヤツ、殺してしまって構わないだろうが!」
チェザレ 「ああ、その通りだよ! 俺もそう思う。だが、それをすればお前が犯罪者になってしまう」
イゴーリ 「構わん、コイツを殺せるなら本望だ」
チェザレ 「
イゴーリ 「ルブナもきっと褒めてくれるさ、
チェザレ 「…っ、気持は分かるか、一旦落ち着くんだ」
リュー 「いや。殺してみたらいいんじゃないか? ほら、これを使え」
リューが近づいてきて短剣をイゴーリに向かって差し出す。思わずフリーズするチェザレとイゴーリ。
リュー 「っとその前に…」
リューは白の仮面を付けてイゴーリの手に治癒魔法を掛けた。イゴーリはユサークを殴っている内に手を骨折していたのだ。
時空魔法で時間を巻き戻す方法でも治せるのだが、ユサークを殴って怪我をした、それもすべてなかった事になる。それは違うかなとなんとなく思ったので、時間を戻すのではなく、あえて治療する方法を選んだのだ。
リュー 「これで握れるだろう? さぁ、ユサークの胸に突き立ててやれ。一突きとは言わん、何度でも、恨みのたけをぶつければいい」
チェザレ 「おい、リュー? ああそうか…お前なら治せるんだったな。いいだろう、イゴーリ、怪我をさせても治してくれるそうだ! 遠慮なくやれ!」
剣を手に、イゴーリは迷っているようだった。
チェザレ 「どうしたイゴーリ! イーシャの事を思い出せ! 娘を殺された恨みはその程度だったのか?!」
そう言われた途端、イゴーリは再びユサークの上に馬乗りになり、短剣を胸に突き立てた。何度も何度も、泣きながら、叫びながら……
めった刺しにされ、ユサークは血を噴きながらついに息絶えた…。
動かなくなったユサークを見て、チェザレがイゴーリを止めた。
チェザレ 「イゴーリ。娘の仇を取ったな…。よくやった…」
チェザレが手を貸してイゴーリを立ち上がらせてやる。
イゴーリ 「チェザレ……イーシャ……うぉおおおお…」
イゴーリはチェザレの肩の上に顔を伏せ号泣しはじめた。
リュー 「さて、あまり放置してると本当に死んでしまうからな」
リューが時間を巻き戻し、死ぬ直前の状態に戻す。そして虫の息状態のユサークに治癒魔法をかけ、ユサークを治療してやる。このためにリューは時空魔法の銀仮面の上に光魔法の白仮面を重ねて付けていた。(余談だが、仮面の多重装着は特に制限がないが、厚みが増えいていくので視界も遮られるし外観も良くないので、現実的には二枚、無理しても三枚までが現実的な枚数であった。)
ユサークは瀕死状態だったので並の治癒魔法では治せないが、際限なく魔力を注ぎ込んだ最上級魔法で強引に生き返らせる。
ただ、あえて傷は少し残る程度に留めた。その傷は、イゴーリが復讐を果たした証だからだ。巻き戻しで刺される前の時点まで戻さなかったのはそのためである。
息を吹き替えしたユサーク。それを見てイゴーリがギョッとした顔をしていたが、少しほっとしたような顔にも変わった。
リュー 「生き返ったが、ユサークは一度は確実に死んだ。お前が復讐を果たしたんだ。納得行かないならもう一度殺してもいいが……他にも復讐したい人間はたくさん居るだろうから、また生き返らせるがな」
一瞬、短剣を握る手に力を込め逡巡したイゴーリであったが、思い直し、リューに短剣を差し出してきた。
『おい、何をしている!』
イゴーリにユサークを殺させたのは良いが、往来でやったのは少々拙かった。イゴーリが人をめった刺しにしていると誰かが通報し、村の衛兵を連れてきたのだ。
チェザレ 「ドルか…久しぶりだな」
ドル 「チェザレ? 村に戻ってきたのか? というかそいつは…まさか…」
小さな村である。住人は全員顔見知りであり、チェザレとイゴーリに昔何があったかも知っている。もちろん、勇者が村を訪れた日の事も…。
ドル 「チェザレ、ついに捕らえてきたんだな」
チェザレ 「ああ、そういう事だ。それで、ちょっとイゴーリが興奮してしまっただけだ。何も問題はない」
イゴーリの手には短剣が握られ、身体はユサークの返り血で真っ赤である。ユサークもめった刺しにされ服はボロボロで血だらけである。事情を知ってるドルが見れば一目で何があったか想像はついてしまうが、しかし被害者であるはずのユサークも、大量出血で青白い顔をしてはいるが、生きている。傷はあるがすべて塞がっているようだ。
チェザレ 「何も、問題ない…」
もう一度言われ、ドルは、ああそのようだなと言い、それ以上何も聞かず引き下がっていったのだった。
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次回予告
謝る相手が居るならまだ良いが……
乞うご期待!
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