第653話 勇者親子のその後
子供達だけで山に入った事をこってりと絞られたルキタはすっかり大人しくなった。その日を堺に、ジャッキーへの虐めもピタリとなくなった。
それからしばらくして、意を決したルキタが、怪我も治り裏庭で木剣で素振りをしていたジャッキーに話しかけてきた。
ルキタ 「ジャッキー…」
ジャッキー 「ルキタ?」
ルキタ 「その……ありがとな…」
ジャッキー 「アンタも馬鹿よね。大して強くもないのに魔物の居る山に入るなんて」
ルキタ 「それについてはもう、シスター達にさんざん怒られたよ…」
ジャッキー 「しかもタンミを見捨てて自分だけ逃げるとか…」
ルキタ 「…それは……っ、こ、怖かったんだよ……気がついたら、身体が勝手に、逃げ出してたんだ……」
ジャッキー 「……まぁ、怖いのは当たり前だけどね」
ルキタ 「だけどお前は……すごいな。一人で猿に立ち向かって…こわくなかったのかよ?」
ジャッキー 「私だって怖かったに決まってるでしょ! 正直言うとね、足が竦んでたわ。思わず逃げ出しそうになった。だけど…」
ランスロット 「逃げ出したいほど怖いと思っても、それでもその気持に抗って、己を奮い立たせ、必死で立ち向かおうとする。その気持ち、それを勇気と言います」
ジャッキー 「ランスロットのおじさん! …と、リュージーン…」
背後からランスロットが近づいてきていた。今日はリューも一緒である。
リュー 「恐怖を感じないのは勇気があるわけではない、ただの愚か者だ」
ランスロット 「勇気のある者、それを勇者と呼ぶなら、ジャッキーは勇者ですね」
ルキタ 「その…ジャッキーの父さんの事、悪人だなんて言ってごめん。信じるよ。ジャッキーのパパは、本当に勇者だったんだな!」
ジャッキー 「ルキタ…」
ルキタ 「街で悪者だって言われているのは嘘だったんだな…」
ジャッキー 「そうよ、パパは悪人なんかじゃない。それなのに……コイツがパパを連れ去ったのよ」
そう言いながらいきなり木剣でリューの胴を薙ぐジャッキー。だが、それを半歩下がっただけで交わすリュー。
ジャッキーはその後も連続してリューに斬り掛かっていくが、尽くかわされてしまう。
ジャッキー 「逃げるな~!」
するとリューは足を止め、ジャッキーの木剣を身体で受け止めてみせた。手加減なしのジャッキーの剣撃がリューに直撃する。だが、リューは微動だにせず。ジャッキーの木剣がリューにダメージを与えた様子はない。
リュー 「そんな事では、
実は、リューはジャッキーに、どんな方法でもいい、自分の身体を傷つける事ができたら、父親を返してやると約束していたのだ。そのため、ジャッキーはリューを見る度、襲ってくるようになったのである。
とは言え、常時次元障壁の鎧を身につけているリューをジャッキーが傷つける事など不可能な話。つまり、父親を帰す気はないという事にもなるのだが。
だが、いつか本当に、父親をジャッキーのところに帰してやれたらいいなとリューは思っていた。
だが、フェルマー王国に連行され、処刑されたはずのユサークが帰ってくる事などあるのか?
リューに連れて行かれたユサークはどうなったのか……?
* * * *
■フェルマー王国の田舎にあるとある村クルツカ
ユサークとチェザレを連れてコグトの街を出たリューは、フェルマーの王都には行かず、まず、フェルマーの辺境にあるクルツカ村に移動した。チェザレの故郷の村である。
『チェザレ…?』
村に入るとすぐに声を掛けてきた村人が居た。
イゴーリ 「戻って来たのか……ってお前は!! チェザレ、ついに捕らえたのか!」
どうやら
イゴーリ 「よくやったチェザレ! きっさまぁーーー!」
イゴーリはいきなりユサークに殴りかかった。そう、イゴーリもまた、娘を勇者ユサークに殺された被害者の一人であったのだ。
村に来た時、ユサークは不思議に思ってリューに尋ねた。
ユサーク 「てっきりフェルマーの王宮に行くのかと思ったが…」
リュー 「その前に行くところがある。言ったろう? お前に復讐したいと思っている者は他にもたくさんいると。引き渡す前に、被害者の家族に会わせてやろうと思ってな。
チェザレを見て俺も考えたんだ。王国に引き渡しても、処刑されて終わり。そんなので償ったことにはならん。
お前も言っていただろう? どうしたら償えるか? と。
まずは、お前に犯されて殺された38人の娘の家族全てに会って謝るがいい。それがすべて終わってから、王宮に引き渡してやる。そこで処刑してもらえばいいさ…」
そうして、ユサークの贖罪の旅が始まったのだ。
エライザが居なくなって暇を持て余していたので、リューはその旅を実現してやる事にしたのである。
― ― ― ― ― ― ―
次回予告
よくやった。娘の仇を取ったな。
乞うご期待!
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