第652話 山での出来事

山に入った子供達のリーダーはルキタ。孤児院の最年長の少年である。他に、タンミ、ユメ、スビタ、サッシの四人である。



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ちなみにルキタはジャッキーを嫌い虐めていた子供の筆頭である。ルキタは最初はジャッキーに同情的で虐めには加担していなかったのだが、九歳までとは言え、父親に愛されて育った、父親を誇りに思っているとジャッキーが堂々と言うようになった事で、ジャッキーが段々憎らしくなってきてしまったのだ。なぜなら、ルキタは赤子の頃に教会に捨てられていたため、親の顔も知らなかったからである。

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山に入ったルキタ達。以前収穫を手伝った事があった果実のなる木を目指していた。


ただし、以前は冒険者の護衛付きでの仕事の手伝いだったのだが。その時、何事も起きなかったため、今回も大丈夫だろうとルキタは甘く見てしまったのである。


ところが、今回は違った。前回は居なかった白猿の群れが、魔の山の奥からが果物を求めて出てきていたのだ。


白猿はただの猿ではない、別名魔白猿とも呼ばれ、魔物の一種である。体長は人間の子供と同程度。非情に素早く、力も強く、頭も良い。そして雑食である。果物を取りに来たのではあるが、人間の子供も平気で丸齧りする怪物である。


幸いにも白猿と接近遭遇する前にルキタ達はその叫び声に気づき、慌てて逃げ出した。


だが猿達もすぐにルキタ達に気付き追い始める。白猿が本気で走ったら子供の駆け足などすぐに追いついてしまうはずである。だが、なぜか猿達はすぐには追いついて来なかった。実は猿たちは本気で狩りに来ておらず、遊んでいるだけであったのだ。


そのうち、一匹の猿が落ちていた枝を拾って投げた。それがタンミの足に当たり、タンミは転んでしまった。


タンミはすぐに起き上がったが、足を引きずっている。棒を投げた白猿は飛び跳ねて喜んでいるようだ。


全速力で先頭を走っていたルキタであったが、タンミが倒れた事に気付き立ち止まった。立ち止まったものの…ルキタはそこで迷った。助けに行くべきか? だが、戻れば自分達も襲われてしまうかも知れない。猿どもが本気で攻撃してきたら誰も助からないだろう。だが、今、自分だけ逃げれば助かる可能性はある。


いや、自分はリーダーだ。今日山に入る計画も自分の発案だ。渋るタンミ達を無理やり連れてきたのだ。


思い直したルキタは引き返し、タンミに手を貸そうとした。だが…


そこで白猿が大声で威嚇する声が聞こえた。見れば、一匹の猿が走り寄ってくる。先程枝を投げた猿である。


ルキタは恐怖を感じ伸ばした手をタンミが掴む前に引っ込め、一人逃げ出してしまった。それは恐怖で身体が勝手に動いてしまったという本能的なものだった。


ルキタと一緒に先行していたサッシもルキタが走り始めたのを見て再び走り始める。少し遅れていたスビタとユメはタンミを気にして立ち止まったままであった。


一人逃げ出してしまったルキタ。その足は速く、すぐにサッシに追いついてしまいそうである。その胸中には、置いてきてしまったタンミに後ろ髪を引かれる思いがあったが、走りながら言い訳が浮かんでしまう。誰かが逃げて、助けを呼んでくるべきだろう。自分が足が一番速い。自分が行くべきだ。全滅するよりは絶対いい。魔物の群れが街に近いところまで来ている事を知らせる必要がある。


だが、それを咎める声がした。


『仲間を見捨てて逃げるのか!?』


ルキタ 「ジ、ジャッキー!? あ、足を引き摺ってる奴を庇いながらじゃ逃げ切れない!」


振り返ってみると、スビタとユメがタンミに肩を貸し、三人で逃げていた。だが、さすがに三人の逃げ足は遅く、白猿がタンミに迫っていた。


(他の猿達は喚き散らすだけで近付いてこない。どうやらまだ遊んでいるようである。)


白猿はすぐにタンミ達三人に追いつき、タンミの肩を掴むと大口を開けてそのまま頭に齧りつこうとした。


だがジャッキーがその猿に飛び掛かる。その剣は鋭く、一閃で猿の首を胴体から切り離した。


だが、それを見た猿達の雰囲気が変わる。仲間を殺され、遊びではなくなったのだ。


大声を挙げながら一気に迫ってくる猿の大群。その迫力に思わず子供達の足は竦んでしまう。ジャッキーも同様である。だが、それを押してジャッキーは叫んだ。


ジャッキー 「早く逃げろ!! ここは私が時間を稼ぐ」


ジャッキーに押され、慌てて逃げ始めるタンミ、スビタとユメ。


そして最初の猿の一群がジャッキーに接触する。


だが、そこから先、猿達がタンミ達のほうへ進む事はできなかった。


ジャッキーが剣を振る。


猿が一匹、二匹、三匹と切り捨てられていく。


だが、多勢に無勢。猿達もタンミ達を追うのをやめ、眼の前で仲間を切り捨てていくジャッキーに全員が向かい始める。そうなると、ジャッキーは才能があると言ってもしょせんは子供。すぐに剣の振りは鈍くなり始め、猿の爪による攻撃を交わしきれず、傷だらけになっていく。さらには背後から投げつけられた石が頭を掠め血が流れ始める。


あっという間にボロボロになっていくジャッキー。だが、それでも歯を食いしばり戦い続ける。しかし、やがて限界を迎え、ジャッキーはついに倒れてしまった。


ここぞとばかりに殺到する猿の群れ。


だが、次の瞬間、猿は一瞬にして吹き飛ばされた。周囲に居た猿達は、ランスロットの剣の一閃で両断されたのであった。


離れた場所に居た猿達も、ランスロットの手に掛かれば瞬きをする間に蹂躙殲滅されていく。


猿の喚き声で煩かった山は、一瞬の後には静寂を取り戻していた。


ランスロット 『よくがんばりましたね、ジャッキー……』



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次回予告


パパは悪人なんかじゃない


乞うご期待!



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