第657話 許される日は来ない…

だが、ユサークは諦めなかった。


夫妻の家の玄関前に、庭先に、赤子を置いては出かける事を繰り返した。置いていかれる子供には良い迷惑、考えの浅い無責任なやり方であるが、ユサークにはそれくらいしか思いつかなかったのだ。(この頃にはトラバ村にユサークを残して不在となる事が多くなっており、ユサークがそんな事をしているとはリューは知らなかった。)


だが、それでも夫妻は頑なに子供の面倒を見ようとはしなかった。


だが、そんな事が何度も繰り返されたある日、事件が起きた。


村に魔物が押し入って来たのだ。リューは不在であった。


その日、ユサークは例によって子供を夫妻の玄関先に置き、村の外に狩りに出かけてしまっていた。(いままでは赤ん坊を夫婦の家に置いてもそっと影から見守っていたのだが、それがいけないのかと思い、ユサークは本当に村の外に出てしまったのだ。)


村に入ってきた魔物コボルトは村の衛兵と男達によってある程度は駆逐されたのだが、群れの数はかなり多く、何匹かが村の奥に逃げ込んでしまった。


そしてそのうちの一匹が、ルーサーとエイミー夫婦の家にやってきたのである。


異変に気付いた夫妻が家の外に出た時、まさにコボルトが外に居た赤子に食いつかんとしているところであった。


それを見て、思わず赤子を庇い覆いかぶさったエイミー。ルーサーは玄関にあった古い箒を掴んでコボルトに殴りかかった。


だが、やせ細ったルーサーにコボルトと戦う力はなく、あっさり返り討ちにされてしまう。


だが、コボルドの牙と爪に切り裂かれながらも、夫妻は赤子を庇い、守りきったのであった。


ユサークが戻った時にはコボルトは居なくなっており、瀕死の夫妻と泣きじゃくる赤ん坊が居るだけであった。


夫妻は、自分達はいいから、コボルトを倒せとユサークに言った。お前ならできるだろうと。コボルト数匹が、この先にある孤児院に向かったと夫妻が言うのだ。


孤児院に向かうべきか、ルーサーとエイミーの手当をするべきか迷うユサークに、ルーサーは言った。お前は娘を殺した。もしそれを反省していると言うのなら、孤児院の子供達を救えと。


エイミーも、死んでいった娘の代わりに、より多くの子供達を、命を助けなさいと言った。


そして、ルーサーとエイミーは、やっと娘の元に行けると、満足げな顔をして、息を引き取ったのであった。


ユサークは赤子を抱き上げると、全速力で孤児院に向かった。


孤児院では、扉をコボルトが破り、中に侵入したところであった。悲鳴が孤児院の中に広がる。だが、そこに飛び込んだユサークが、飛び込み、子供達に食いつこうとしていたコボルトを殴り飛ばす。


だが、コボルトは壁まで吹き飛ぶが、すぐに起き上がり、唸りをあげて威嚇してきた。


ユサークは抱いていた赤子をシスターに託すと、腕輪を外した。そして一瞬にしてコボルト達を殲滅してみせた。


ユサークは、実はずっと、その力を押さえる魔封じの腕輪をしていた。鍵が掛かっているわけではなく、自由に外せるが、外したらリューに警報が伝わる仕組みになっていたのだ。


腕輪が外れたという警報を受けて、リューが転移してユサークの居る場所へやってきた。ユサークは慌てて夫妻の事をリューに伝え、夫妻を生き返らせてくれと頼む。


すぐにルーサーとエイミーの元に向かったリュー。ぎりぎり間に合った、二人はリューによって復活させられたのであった。


生き返った夫妻は、なぜ娘のところに行かせてくれなかったのかと怒ったが、最後にはユサークの連れてきた赤子を引き取って自分の子として育ててくれる事を了承してくれたのだった。夫妻とて、赤子を放置して平気だったわけではなかい。だが心を閉ざし無視し続けてはいたが、魔物から赤子を庇い、触れてしまった事で、自分の娘の幼かった時の事を思い出してしまった。そして子供のために、もう一度生きてみようと思うようになったのだ。


二人は、子供の事は自分たちに任せて、ユサークには村から出るように言った。娘を殺された事は決して許す気にはなれないが、罪を償いたいなら、これから一人でも多くの人を救えと言うのだ。


リュー 「……俺も、ずっと考えていたよ。やってしまった事は消えない。決してなくなりはしない。どれだけ反省しようと、後悔しようと、償おうと、何をどうしても決して事実はなくならない。


できる事は、それを越える善行を積み続ける事……


決して許される事もないし、過去は消える事はないが、結局は、できる事はそれだけなんじゃなかろうか…?


それが答えな気がするな…」


その後、ユサークは3年かかって残りの謝罪行脚を終えた。


そしてその後は、さすらいの冒険者として、人のために生きる道を選んだのであった。


自分が殺してしまった娘たち。そして悲しませてしまったその家族。その代わりというわけではないが、一人でも多くの人を助けると決めたのだ。


やがて、各地のユサークの被害者の家族の元に匿名で金が届けられるようになった。ユサークが魔物を狩って稼いだ金を被害者に賠償金として渡すことにしたのだ。


いつか、自分の罪が許される日まで……?


否、自分の罪が許される日 など来ない事はユサークも分かっている。


死ぬまでユサークは続けるつもりであった。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


そして時は現在に戻り、ジャッキーは…


乞うご期待!




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る