第658話 そして、ジャッキーは…
エライザとともにリューがコグト村を訪ねたのは、ユサークを連行してから5年の歳月の後である。エライザとジャッキーは同い歳。つまり、エライザが成人して竜人の里を出てきたように、ジャッキーも成人し、独り立ちする時期である。
ジャッキーは成人の年齢を迎え、孤児院を出て一人暮らしを始め、冒険者として活動を始めた。(世話になった孤児院への寄付や手伝いも続けるつもりである。)冒険者としてのジャッキーの実力は大したもので、いずれはAランクにまで登り詰めるだろうとランスロットも言っていた。
ジャッキーはリューを攻撃して傷つける事ができるようになったら父を返すとリューと約束していた。だが、何度か試してみたが、正面から打ち込んでもどうあっても攻撃が当たる気配がない。なのでリューは、不意打ちでもいいぞと言い出した。そこでジャッキーは何度か背後から不意をついて攻撃してみたりもしたが、リューに傷ひとつつける事もできなかった。(次元障壁の鎧を常に纏い、極至近未来予知能力さえも持っているリュー相手には、不意打ちも成功するはずがないのだ。)
孤児院には時折ランスロットが現れて、ジャッキーに剣を教えてくれていたが、ジャッキーはランスロットに尋ねてみた。
ランスロット 「リューサマを倒す方法? ……うーん、無理ですね」
ジャッキー 「ランスロットでも?」
ランスロット 「無理です」
ジャッキー 「ランスロットは世界で一番強い剣士じゃないの?」
ランスロット 「多分、そうかなと思います。世の中は広いのでまぁ分かりませんけどね」
ジャッキー 「それでもリューには勝てないの?」
ランスロット 「剣の腕だけで
ジャッキー 「なにそれ、化け物?」
ランスロット 「はい」
ジャッキー 「そんなの相手に、傷を付けてみろって……無理じゃん」
ランスロット 「ですな」
ジャッキー 「……てことは……」
どうがんばっても、例えAランクまで到達する実力を持ったとしても、リューに傷をつける事などできはしない。つまり、そういう事。父を返すという約束は、最初から叶える気などなかったのだ。
酷い話だとジャッキーは思う。
ただ、自分が無理なことを言っているのも、薄々はジャッキーも理解している。リューが憎まれ役になる事で、ジャッキーの心が壊れるのを防いでくれたのも、大人になった今ならジャッキーも理解できてはいる。リューに辛辣に当たるのは、ジャッキーなりのリューに対する甘えの部分でもあるのだ。
そろそろ、大人になるべきかも知れない。
ジャッキーは、成人し冒険者となった。このまま冒険者として活躍し、人々のために働く。できることならばいつか【勇者】となる。そして勇者ユサークの汚名を晴らす。それを目標に生きていこうとジャッキーは決めたのだった。
だが、そこに再びリューがやってきた。試しに、隙をついて背後から刺してみたけれど、やはり歯が立たなかった。
これで最後、大人になって、リューに謝罪と感謝をして終わりにしようと思っていたジャッキーだったが、今までずっと反抗的な態度を続けてきて、急には素直になれないのであった。
だが、そこでリューが妙な事を言い出す。
リューは、冒険者ジャッキーに指名依頼を出すと言うのだ。
ジャッキー 「あたしはまだ駆け出しの冒険者よ。指名依頼を受ける義務はないわ」
リュー 「義務はないが、受けてはいけないという規則もない。本人が納得して受けるなら別に問題はない」
ジャッキー 「…受けないわよ。アンタなんかの依頼を受けるわけないじゃない」
リュー 「別に受けないならそれでもいい。だが、次があるかどうかは分からんとだけは言っておくぞ。俺も忙しいんでな」
※忙しいというのは嘘であるが。
ランスロット 「受けたほうがいいと思いますよ?」
ジャッキー 「……?」
リュー 「駆け出しのヒヨッコだから自信がないか? なら仕方がないな」
ジャッキー 「…内容は?」
リュー 「フェルマー王国にあるトアル村に行って、ある冒険者に手紙を渡して来るだけの簡単な仕事さ。報酬は前金で払う。旅費込みだ」
ジャッキー 「フェルマー王国って、随分遠いわね」
リュー 「ああ。途中の道は険しいし、盗賊や魔物も出る。怖いなら断ってもいいぞ?」
ジャッキー 「…っ、馬鹿にしないでよ! 手紙を渡してくるくらい、できるわよ!」
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次回予告
とある村の冒険者ギルドにて…
乞うご期待!
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