第659話 元勇者とその娘の生きる道

結局リューの依頼を引き受けたジャッキーは、孤児院にしばらく仕事で旅に出ると伝えて、リューから貰った先払い報酬の大半を孤児院に寄付して旅立った。


貧乏旅になってしまったが、途中で魔物を狩りながら旅を続けた。国をマタイでの旅はジャッキーにとっては初体験であった。途中、危うい目に遭う事もあったが、目にするものは新鮮で、意外と楽しい経験であった。


そして、数ヶ月後、ジャッキーは目的のトアル村に無事たどり着く。




  * * * *




■トアル村


トアル村は小さな村であったが、冒険者ギルドがちゃんとあった。中に入ると、数人の冒険者とギルド職員の視線が自分に集まってくる。


ジャッキー 「ちょっといいかしら?」


ジャッキーは受付に話しかけた。このギルドの受付は男性であった。少し大きな街なら受付はだいたい女性がやっているのだが、このギルドは人手が足りないのかも知れない。


ジャッキー 「灰色騎士って人がここに居るって聞いたんだけど?」


受付の男 「…灰色騎士に何の用だ?」


ジャッキー 「手紙を届けるように頼まれて、はるばるラウチーフからやってきたのよ」


受付男 「ラウチーフ? かなり遠くにある小国だった気がするが…お前も冒険者か?」


ジャッキー 「ええそうよ」


冒険者証を見せるジャッキー。


受付男 「なるほど、駆け出しが手紙の配達依頼を受けたってことか」


ジャッキー 「それで、灰色騎士って人は?」


受付男 「今は居ない。たまに現れては、人が嫌がるような依頼を積極的に受けて、しばらくするとまた旅立っていく。変な男さ。だが、しばらくはこの街に居るって言っていたから、近いうちに顔を出すんじゃないか?」


仕方なく、低級冒険者向けの簡単な依頼を受けて小金を稼ぎながら、待つ事にしたジャッキー。その間、知り合いができたり勧誘されたり絡まれたりと、お約束の出来事も色々とあったが、灰色騎士についての噂もある程度知る事ができた。


ソロで活動している寡黙な凄腕の冒険者だそうだ。危険度の高い魔物の討伐にも臆する事なく、かなり稼いでいるらしい。だが、稼いだ金をどこかに送金していて、本人は一切贅沢をする様子はないという。さらに、街で塩漬けになっているような依頼や、人の助けになるような依頼を積極的に受けているらしい。いや、依頼でなくとも、人助けを積極的にする人物で、いつも灰色の地味な服を着て人々のために戦うユサークを、街の人はいつしか灰色の騎士と呼び慕うようになったらしい。


ただ、この街に定住しているわけではなく、ふらっと現れてしばらく滞在しては、またふらっと居なくなってしまう事の繰り返しらしい。


そして、数日後、ギルド併設の酒場でジャッキーが昼食を取っている時、ついにその男が現れた。


その男は……


容貌は変わり果てて居た。おそらく意図的に正体を隠すために変装しているのだろう。だが、その面影を見紛うはずがない。


多分そうなのだろうと思っていた。だが、違うかも知れないとも思っていた。


だが、間違いない……


ジャッキー 「……パパ……」


灰色騎士ユサーク 「……ジャッキー……なのか?」


ジャッキー 「パパ、パパ!」


抱き合う二人。六年ぶりの再会であった。


ジャッキーが渡した手紙には、リューからユサークへの伝言が書いてあった。それは、もう俺は関知しないから、後は自分の判断で生きろと書いてあった。


むろん、ユサークはもう死ぬまで生き方を変える気はなかったが。今後、一生を掛けて、被害者への賠償金の支払いと、一人でも多くの人を救う事に人生を費やすと決めたのだ。


(余談だが、リューはフェルマーの国王にすべてを報告しており、ユサークの処分はすべてリューに任せるという許可を貰っていた。)


ジャッキーは、ユサークと共に同じ生き方をするのではないかとリューは思っていた。リューも六年ぶりに娘エライザと再び再会し、共に旅を始めたのだ。ジャッキーもそうしてもいいだろう。


だが、意外にもジャッキーはコグトの街に帰る事を選んだ。故郷のコグトの街にはジャッキーの助けを必要としている人が居るはずだと。もうジャッキーは子供ではない。父と娘、それぞれの人生を進み始める時期だと、この旅の中でジャッキーも決意していたのだ。


年に一度は会いにくると約束をして、それぞれの道を生きると決めた元勇者親子であった。



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足を斬られてダンジョンに置き去りにされた少年、強くなって生還したので復讐します(習作2) 田中寿郎 @tnktsr

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