第346話 スラムで治療に当たるヴェラとモリー
ミィ 「あ、私も行きます!」
翌朝、スラムに再び行くと聞き、ミィが自分も行くと言い出した。
アネット 「わたしも~!」
レスター 「アネット! 僕たちは邪魔になるからダメだよ」
リュー 「ミィはアイシャ達と顔見知りだから居てもらったら安心するかもな。ただ、アネットとレスターは……」
ヴェラ 「そうねぇ、悪い病気が蔓延してる場所に行くから、二人はお留守番ね」
アネット 「そう、分かった~!」
リュー 「ランスロット、子供達を頼むぞ」
ランスロット 「むしろ、我々が行ったほうが良いのでは? 私達は病気とは無縁ですからね」
リュー 「そうだな……いや、今回は俺達だけでいいや。疫病が蔓延して病人だらけの暗い雰囲気の街に骸骨が歩いてたら、絵面が悪すぎるだろう」
ランスロット 「絵面ですか? …まぁ良いですが。しかし人間というのは、病気になったりして大変ですなぁ。私達にはない苦労なので」
リュー 「お前達だって昔、人間だったころは風邪くらいひいたことあるんだろう?」
ランスロット 「そうだと思いますが、なにせ昔の事なので、よく覚えていないのですよね」
リュー 「そ、そうなんだ。とりあえず、子供達の相手を頼むよ。子供たちの
ランスロット 「それはそうですね。では、子供達の相手は私と
そう言うと、ランスロットは子供達と一緒に別室に移動し、子供達の両親のスケルトンを呼び出したのであった。(まだ両親のスケルトンは言葉を話す事ができないので、ランスロットが通訳をしてくれるのである。)
* * * * *
再びスラムのオルアナの家。リューとヴェラ、モリーとミィの四人で来ている。
オルアナの家の半分欠けた扉から中に向かって呼びかけてみるが、返事がない。
嫌な予感がしたリュー達は、そのまま中に踏み込んだ。
予感は的中、昨日、リューの治癒魔法で病気が治ったはずのオルアナが、再びベッドで高熱を出し、動けなくなっていたのだ。
しかも悪いことに、アイシャまで熱を出して倒れていた。
オルアナ 「あ……あなたは……?」
ヴェラ 「喋らなくていいわ」
ヴェラとモリーが即座に駆け寄り様子を調べる。ヴェラの【鑑定】によると、やはりウイルスが活性化し発症しており、肺炎の症状が出ていた。
即座にヴェラが【ヒール】を掛けるが、一発では治らない。
ヴェラ 「クリーンを掛けてからのほうがいいのかしら?」
モリー 「私も手伝います」
ヴェラがヒールを掛け、モリーがクリーンを掛ける。二人掛かりで何度か治療を繰り返し、オルアナとアイシャの状態はついに完全に回復した。
鑑定してみると、二人の身体からは完全にウイルスが消えている事が確認できた。
ヴェラ 「これでもう大丈夫ね」
オルアナ 「……あなた方は……?」
元気になったオルアナがヴェラ達に気付き、尋ねた。
ヴェラ 「リューの姉よ」
リューが後ろから顔を覗かせた。
ヴェラ 「こちらはシスターのモリー。今、あなた達の身体の中に残っていた病気の元をモリーが【クリーン】で消し去ったから、もう大丈夫よ」
オルアナ 「病気の元?」
ヴェラ 「ええ、病気を引き起こしている目に見えない小さな生物が居たの。それに取り憑かれると、みんな病気になってしまうのよ」
オルアナ 「そうだったんですね……」
その時、アイシャが目を覚ました。
アイシャ 「おか…たま?」
オルアナ 「アイシャ、大丈夫?!」
アイシャ 「お腹減った……」
思わずアイシャを抱きしめるオルアナ。
ヴェラがリューに料理を出すように言うが、昨日リューが残していった食料があるとオルアナが言うので、そちらを先に食べてもらい、リューの出した料理はまたストックにしてもらった。
オルアナ 「そう言えば、タビルさんは大丈夫でしょうか? 昨日の帰り際、なんだか具合が悪そうな顔をしていらっしゃったので……」
リュー 「昨日の爺さんか、まずいかもな。家はどこだ? 隣? 行ってみよう!」
それを聞いたヴェラとモリーがすぐに向かう。前世で看護婦だったヴェラ、現役のシスターであるモリーは、病人を放ってはおけないようであった。
※この世界には医者や病院というのは、存在しないわけではないのだが極めて少なく、代わりに教会の神父やシスターが治癒士の役割も兼ねている。(モリーはヒールは使えなかったのだが。)
タビル爺さんは、案の定、ベッドで意識不明の重体であった。後少し放置されていたら命を落としていただろう。
すぐにヴェラがヒールを掛け、モリーがクリーンを掛けた。
ヴェラ 「やっぱり、ヒールは重ねがけしないと完全には回復しないわねぇ……ハイヒールを使わないとダメかしら。でもアレは魔力を食うからそう連発はできないのよねぇ……」
モリー 「すみません、私がヒールを使えれば……」
リュー 「そうだ、これを貸してやろう」
リューが差し出したのは光の仮面である。
モリー 「?」
リュー 「これを着ければ、多分ヒールが使えるようになるんじゃないか?」
モリーは言われるままに仮面を装着する。恐る恐る小さな声でヒールを唱えると、モリーの手から淡い光が出て、タビル爺さんを包み込んだのであった。
モリー 「! できた! 私にもヒールが使えるように……!」
リュー 「ああ。魔力切れには注意しろよ?」
タビル 「…あ……? あんた方は……?」
リュー 「俺の姉と知り合いだ」
タビル 「おお、あなたは昨日の!」
ヴェラ 「病気の元は消え去ったからもう大丈夫よ」
タビル 「おお、確かに……そう言えば身体が軽いのぉ、長年の足やら腰やら肩やらの痛みもないぞ?!」
タビル爺さんはそういうとベッドから飛び起きたかと思うとそのまま外に飛び出してしまった。
外で飛び跳ねながら身体の具合を確認しているタビル爺さん。どうやら疫病だけでなく、ヴェラのヒールによって全身の病気が治ってしまったようで、それを確認するのに外を走り回って確かめているようだ。
タビル爺さんを追いかけて外に出てみると、タビル爺さんを遠巻きに見ている者達が居た。
その中の子供が一人がモリーに近づき話しかけた。
子供 『あの……』
モリー 「なぁに? どうしたの?」
子供 「父ちゃんと母ちゃんが、もう何日も寝込んでいて……ずっと高熱が出てて……」
モリー 「おうちはどこ?!」
頷きあったヴェラとモリーがその子供に案内せ、子供の家に向かった。
* * * * *
家に着くとヴェラは早速、子供達の両親の診察(鑑定)をしてみる。やはり二人ともウイルスに感染しており、肺炎を起こしてもはや虫の息であった。
慌てて治療するヴェラとモリー。二人がかりで治癒魔法を掛けることで、かなりの重症だった両親もなんとか回復する事ができた。
それを見ていた近所の者達が、ウチも治療してくれと殺到し始める。
それを次々と二つ返事で引き受けて治療を始めてしまうヴェラとモリー。
請われるままに、次々と無節操に治療を行っていたヴェラとモリーの姿を見て、スラムの者達は聖女様だなどと言って崇め始めたのであった。
特にモリーはシスターの格好をしているので、いかにも聖女らしい。(ヴェラはあまり目立ちたくないので認識阻害の魔法を使っているようで、あまり注目されていないようであった。)
リュー 「ヴェラ……まさか、このままスラム中の病気を治療して回る気じゃないだろうな?」
案の定、二人の治療はそれほど長くは続かなかった。七~八軒も家を治療して回ったところで、二人の魔力が枯渇してしまったのであった。
リュー 「当たり前だろう……」
亜空間収納の中にストックしてあったマジックポーションを取り出してヴェラとモリーに渡すリュー。
リュー 「スラムの全員を助ける事なんて、できはしないぞ?」
ヴェラ 「……リューならできるんじゃないの?」
リュー 「できるかも知れないが」
スラムの男 「おい! 早くしろよ! うちにも倒れている子供がいるんだ! 早くしないと死んじまうだろうが!」
リュー 「してやる義理があるか?」
― ― ― ― ― ― ―
次回予告
リュー、手加減なしの全力
乞うご期待!
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