第345話 ヒールが駄目なら○○○○を使えばいいじゃない
ヴェラ 「で、その目に見えないほど小さい微生物というのは、身体に良いものや生活に役立つモノもあるのだけど、身体に害がある種類もあるのよ。そういう害のある微生物をウイルスというの」
「余計な事いうんじゃないよ」とリューを見るヴェラ。リューは一瞬口を開きかけたがすぐ閉じたのであった。
ヴェラ 「そういう、身体に悪影響のあるウイルスが身体に入って活動を始めると体調が悪くなる。これが所謂風邪ってやつね。
この世界では、風邪程度なら調子が悪くなってもポーションや治癒魔法で治ってしまうのであまり問題にならないけど、別に治療しなくても、寝ていれば体の自然な抵抗力でウイルスが死滅して、いずれ治るものなの。
だけど、中には寝ているだけではなかなか治らないような凶悪なウイルスもあってね。
今回流行ってるらしい疫病も、そういう凶悪なウイルスが原因なのでしょう。リューとミィはその微生物をスラムに行って貰ってきてしまった。そしてそれがモリーにも(恐らく私にも)
モリー 「私やミィさんは風邪をひいた状態ということですね」
ヴェラ 「そうね。モリーの場合は、まだ発症していないみたいだけど。身体の中にウイルスが居るのは確かだから、ソレが活動を始めたら、病気が発症して調子が悪くなる可能性が高いわ。単なる風邪ならいいけれど、これが凶悪なウイルスだった場合、調子が悪くなるでは済まないわね」
リュー 「そして【ヒール】では発症していない病気は治せない、と。発症すれば、その症状をヒールで治せるけれど、症状がなくなったとしても、体内のウイルス自体は消えずに残った状態のまま、むしろヒールの影響で活性化してしまう、ということか」
ヴェラ 「そうね、そして、そのまま人に接触して感染が広がっていく……。もし魔法で治せない伝染病があるとしたら、大変な事になるかも。地球の時と同じように、隔離して感染を広げないようにする必要があるかも」
リュー 「領主の隔離処置は妥当だったって事か……」
ヴェラ 「そうね。そして、あなたとミィがキャリアとして街にウイルスを持ち込んでしまった可能性があるわ。この宿にも既に感染が広がってる可能性がある」
リュー 「う……この世界は病気も怪我も魔法や魔法のような薬で治ってしまうから、正直、油断していたな……
実際、ヒールでオルアナは治ってしまったしな」
ヴェラ 「あなたは、地球でパンデミックが起きる前に死んでしまったから、疫病に対する警戒心があまりなかったのは仕方ないけどね……」
リュー 「どうするか……全部まとめて感染者をどこかに転移させて隔離するか?」
ヴェラ 「……ねぇ、あなただったら、ウイルスだけを転移させてしまう事もできるんじゃないの?」
リュー 「む……多分、できるかできないかと言われれば、できるとは思うが……それは大変そうだなぁ……俺のせいだから仕方ないかぁ」
ヴェラ 「いや、待って。ウイルスが原因だと分かっているなら、魔法でなんとかできるかもしれない。ウイルスだけを消してしまう事ができればいいわけでしょ……もしかして、【ヒール】じゃなくて【クリーン】だったらでウイルスを浄化できるんじゃないかしら?」
リュー 「おお! でも、そんな事ができるのか?」
ヴェラ 「あなただってよく服や身体の汚れを【クリーン】で落としているじゃない? 例えば、服に泥汚れが着いても、その汚れを消してしまうことができるでしょう? それは、泥汚れ自体を消滅させているという事。それを、ウイルスにも適用できれば……」
リュー 「【クリーン】ってのは、汚れとそうでないものはどうやって識別してるんだ? 服に絵を描いても、それを汚れとして消してしまう事はできないよな?」
ヴェラ 「いえ、それは、術者のイメージ次第よ。【クリーン】を掛ける者が何を汚れとしてイメージするかによるの。服に描いた絵も、術者が汚れだと認識すれば、消す事ができたはず……
この世界では、ウイルスの概念を知らない人がほとんどだから、それを消すことができなかったのかも。でも、それを知っている私達なら!」
ヴェラはモリーに向かって【クリーン】を掛けてみた。念入りに、ウイルスを汚れとして浄化するイメージを思い描きながら……
そして、すぐさまモリーを【鑑定】で見てみる。
ヴェラ 「やったわ! 消えてる! 【感染】の状態異常がなくなってるわ!」
リュー 「どれどれ……本当だ! やったな!」
ヴェラ 「ああ……この魔法が地球にもあったらなぁ……」
リュー 「地球には魔法はなかったからな。その分科学が発展したわけだし」
ヴェラ 「でも科学は、新しい病原菌に対しては、研究が進んで治療法が確立されるまでは無力なのよね……」
モリー 「あの……先程から、この世界とか、チキュウとか、何の話なのですか?」
リュー 「ああ、俺達は過去世、つまり、この世界に生まれる前、別の世界に生きていた時の記憶があるんだよ。俺とヴェラはその世界では姉弟だったんだ。そして、その世界には、魔法は存在していなかったんだ」
モリー 「なるほど、それで! 色々とお二人は詳しいのですね! でも魔法がない世界なんて、不便そうな世界ですね」
ヴェラ 「ほんと、魔法があったらどんだけ便利だったか……」
そうと分かれば早速、リューがミィとレスターとアネット、そして自分達の部屋や、宿屋の中で触れたものすべてに【クリーン】を掛けに行った。
さらに、神眼を使って宿の客や従業員もすべてサーチしてみたが、ウイルスは見つからなかった。幸いにも、スラムから直接宿に転移で戻ってきたので、感染は宿の室内だけで済んだようだ。
ヴェラ 「リュー、スラムのアイシャ達にも【クリーン】を掛けてあげないと! 私も連れて行って」
モリー 「私も行きます、私も【クリーン】は使えますから」
リュー 「ん? それにしては、奴隷になっていた時、随分汚い格好をしていたようだが……」
モリー 「あの時は、病気で弱っていて、魔法が使える状態じゃなかったんですよ。でもクリーンは得意なんです、シスターなのにヒールが使えないって随分先輩シスターに虐められましたけど……クリーンしか使えないから聖女ならぬ
リュー 「そ、そうなんだ……」
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次回予告
聖女様、スラム中の病気を治療して回る?
乞うご期待!
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