第126話 上級吸血鬼(ヴァンパイアロード)現る

その時、声が響いた。

 

「驚いたな、下級レッサーとは言え、吸血鬼ヴァンパイアを倒す事ができる人間が居るとは」

 

振り返ると、一人の男が立っていた。おそらくコイツも吸血鬼なのであろう。リューは即座に次元断裂を発動し、その男の胴体を中程なかほどで上下に切断する。

 

だが、切断部分が黒い霧状になり、斬ったはずの身体が元に戻ってしまう。

 

吸血鬼 「下級種レッサーと一緒にしないほうがいい」

 

リューは神眼を発動し男の正体を分析した。

 

リュー 「上級種ロード……? お前が吸血鬼のボスか?」

 

急いで大雑把に鑑定結果を斜め読みすると、その中に【霧化】というスキルがあった。先程の黒い霧の正体はこれであろう。身体を霧状に変化させたり元に戻したりできるらしい。これにより、身体を切断しても元通りになってしまうとう事か?

 

リュー 「なぜこんな酷い事をした?」

 

上級吸血鬼ヴァンパイアロード 「酷いこと? 人間を殺した事か? 我々はただ食事をしただけだが?」

 

リューは再び次元断裂を発動し、吸血鬼の手足と胴体、首をバラバラに切断する。

 

ターゲットを亜空間で囲い切り離してしまう次元断裂。空間ごと切り離されるのであるから、次元を超える能力のある者でないかぎり切断を免れない。それは吸血鬼であっても例外ではなかった。

 

だが、バラバラにしたはずの吸血鬼は、切断面から黒い霧が吹き出し、再び元通りにくっついてしまう。

 

ロード 「不思議な能力を持っているようだな。だが、物理攻撃で我を殺す事はできん」

 

次の瞬間、吸血鬼は恐ろしい速度でリューの背後に移動した。吸血鬼の貫手がリューの心臓を貫かんと突き出される。

 

もちろん、危険予知によりこれを察知していたリューであったが……

 

なんと、回避が間に合わなかった。それほど吸血鬼の動きは高速であったのだ。

 

だが、敵と対峙する時、リューは保険のため常時次元障壁を展開している。そのおかげで吸血鬼にの攻撃を阻む事ができたが、リューが用心深い性格でなければ心臓を貫かれていただろう。

 

ロード 「魔法障壁? 素手では貫けないか」

 

そう言うと、吸血鬼はどこからか剣を取り出した。どうやら収納魔法も使えるようだ。

 

リューも魔剣を取り出す。吸血鬼あいての能力を確認するため、あえて剣で戦う事にしたのだ。

 

剣を握った吸血鬼が襲いかかってくる。恐ろしい速度である。

 

迎え撃つリュー。

 

最初から加速アクセルを発動しておかなければ、対応できずに切り刻まれてしまっただろう。次元障壁があるのでそれでも大丈夫だったろうが、時間を止める能力すらあるリューであっても、それを発動する前にやられてしまったらどうしようもない。


ヴァンパイアロードとリューの殺陣が始まる。一般の人間では捉えられない速度域での斬り合いが始まる。


リューであっても加速アクセルを高強度で発動していなければ―――あるいは相当レベルUPした状態でなければ―――対応できない速度域である。

 

これほどの速度で動ける相手を、リューはこの世界で始めて見た。

  

おそらくSランク級の戦士であっても人間では対処できない強敵であろう。下級レッサーであってもAランクの冒険者が苦戦するレベルはあると思われる。そんなのが大挙して攻め込んできたら、街が全滅させられてしまうのも理解できる。

 

数十合斬り合い、二人は離れて止まった。

 

ロード 「驚いたね、私の動きについていける人間が居るとは……」

 

リュー 「こちらも驚いた、過去最高速だ。だが、もう分かった。俺の最高速よりは遅い。終わりにしよう」

 

そうリューが言った瞬間―――

 

―――時が止まった。

 

リューの集中力が極限まで高まり、加速アクセルがマックスに到達したのである。


実際のところ、本当に時が止まっているのかどうか、リューには分からないのだが。リューが加速すると、リューからは周囲の動きが遅くなったように見える。加速がより強レベルで発動するほどに周囲の速度は遅くなり、やがてリューからは時が止まったように見えるのだ。だが、もしかしたら、非常に僅かずつではあるが、動いているのかもしれない。まぁどちらでも良い事であるが。

 

止まった時の中で、吸血鬼の身体を剣でバラバラに斬り飛ばし、時間停止を解除する。

 

しかし、かなり細かくバラバラに斬ったのだが、時を動かすと、吸血鬼の身体は黒い霧となって元に戻ってしまうのであった。これでは倒すことができない、厄介な相手である。

 

だが、相手も同じであった。上級吸血鬼とて、リューの障壁を越える攻撃手段がなく、またリューの速度についていけない。

 

お互いに、相手を倒す決め手がなく、千日手のような膠着状態となってしまった。


長く戦い続ければどうなるか分からないが、短時間で決着をつける事は難しいのは双方理解できた。

 

ロード 「驚かされたよ、こんな人間が居るとは……いや、どうやら人間ではないな? 貴様…」

 

ヴァイパイアロードの目が光っていた。リューのことを鑑定したのであろう。

 

ロード 「…竜人? むしろ我々に近い種族ではないか、なぜ人間に味方する? なぜそんなに怒りに燃えているのだ?」

 

リュー 「自分の親しい者が殺されたら怒るのは当然だろう!」

 

ロード 「そうか、ここの人間達は貴様のペットだったのか。それは悪い事をしたな」

 

リュー 「ペットではない、友人、いや、家族だ」

 

ロード 「竜人が、人間を家族? よく分からんが……我々は食事をしただけだ。人間達だって同じ事をしているではないか? 動物や魔獣を殺して食べている。食われた動物の側からしたら、人間は家族・同族を殺す憎い敵という事になるだろう?」

 

リュー 「人間を食料扱いするのか?」

 

ロード 「我々ヴァンパイアにとっては、人間は食料でしかない。人間の血は我々にとっては最高のごちそうだからな。

 

本当は若い個体は拐っていって家畜化する予定だったのだが、久々に人間の血を吸ったレッサー共が止まらなくなってな、すべて吸い尽くしてしまいおったのだ。

 

まぁ人間はいくらでも居る、人間は我々魔族よりはるかに増えるのが早いからな。次の街で補充するつもりだった」

 

リュー 「させるか!」

 

再び時間を止め、魔剣フラガラッハで斬りつけたリュー、しかし、まったく手応えがない。

 

どうやら、姿は普通に見えるが、常時霧化している状態らしい、実体がないようだ。


もしかしたらリューの次元障壁バリアと同じ様に、戦闘時にだけ防御用に霧化を発動しているのかも知れない。

 

仕方なく、一旦時間停止を解除したリュー。

 

どうやらこの相手には物理攻撃は無効なようだ。魔法攻撃でどうなるかは分からないが、リューは一般的な攻撃魔法は使えない。本当に厄介な相手だ、どうする……?

 

霧ごと全て亜空間に収納してしまうか、転移でどこかへ飛ばしてしまうか? 色々対抗手段を考えている間、リューの動きが止まってしまっていた。隙だらけである。

 

だが、相手はその隙を狙って攻撃する事はなかった。

 

ロード 「何度か斬られた感覚があったが……恐ろしい速度だな、まるで捉える事ができそうにない、まるで時間を止めているかのようだ。


だが、我を倒す事はできんよ……」

 

リュー 「……」

 

ロード 「それに、もうすぐ陽が暮れる。夜になれば……」

 

そういえば、吸血鬼は地球では太陽に弱いというのが常識であったが、普通に太陽の下で戦っていた。この世界の吸血鬼は太陽は弱点ではないのか?

 

ロード 「…夜になれば負ける事は無いと思うが、これ以上戦いを続ける意味もない。ここは素直に引く事としよう」

 

リュー 「逃がすと思うか?」

 

ロード 「闇の中で、黒霧化した我々を捉える事ができるか? それに、まだ私も能力をすべて出し切ったわけでもない。戦いを続ければお前が死ぬ事になるかもしれんぞ?」

 

確かに、黒い霧は闇の中ではほとんど視認することはできそうにない。それにもし霧状態のまま攻撃手段があるとすればやっかいだ。

 

ロード 「別に我々は、人間を無理に襲わなくとも生きていけるのだ。人間の血はごちそうではあるが、嗜好品のようなものなのでな。

 

人間側の武力が減っていたのを見て、久々に手を出してしまった下級レッサーどもが居たので様子を見ていたが、お前のような者がいるなら、無理に手を出す事もない。

 

我は不死身だが、他の魔族はそうではないのでな」

 

そう言うと、吸血鬼は全身を黒い霧と化し、そのまま薄くなって消えてしまった。

 

神眼を使って周囲を探ってみたが、存在を感知できなかった。転移魔法の一種なのであろうか?

 

だが、またロードの声が響いた。どうなっているのだ?

 

ロード 「お前は人間に肩入れしているようだが、お前は人間ではないのだ。いずれ、裏切られる事になるぞ? その時は、我々の元に来るがいい、仲間になるなら歓迎するぞ?」

 

それを最期に声も聞こえなくなり、静寂が訪れた。

 

 

― ― ― ― ― ― ― ―

 

次回予告

 

手強い上級吸血鬼ヴァンパイアロードの弱点を知るため、リューは王宮にある古い資料を調べさせてもらう事に。

弱点を掴みロードに復讐を果たせるか?

 

乞うご期待!

 

 

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