第452話 ダンジョン踏破も片手間に

食堂経営も落ち着いてきて、リューが関わらずとも経営が安定してきた、そんなある日。ライムラのギルマスGから連絡があった。領主から、正式に指名依頼が出ていると言う。


依頼の内容を聞いてみると、ダンジョン「ソリン裂溝」を踏破・攻略してほしいというものだった。


細かい条件に関して直接会って説明したいので、是非話を聞きに来てほしいと言うG。


つまらない内容の依頼なら、たとえ貴族や王族からの依頼だろうと断るつもりのリューだが、一応、話だけは聞いてやると言ってしまった手前、聞くだけ聞いてみるかと、リューはライムラの冒険者ギルドまで行くことにしたのであった。




  * * * * *




連絡を受け、その場でライムラの冒険者ギルドに転移してきたリュー。


G 「本当に、一瞬で移動できるのだな……」


ギルマスの執務室にはGの他にハンスも居た。代官からの使いで、リューに対する指名依頼を届けに来たのだ。


リュー 「そういえば、デボラの処分は、その後どうなったんだ?」


ハンス 「デボラは……犯罪奴隷落ちの処分になったよ…」


あの後、代官のヒュラブゴはキチンと法に則って裁きを受けさせたのだそうだ。


自分の娘であろうとも、厳しく対処した姿勢は立派であったとハンスは言う。


しかし、やはり父親でもある。法律に則った範囲で、なんとか酌量できる情状を探す努力はしたらしい。


しかし、調べるほど、諸々の不正行為が芋づる式に出て来て罪が重くなる始末で、どうにもならなかったのだとか。


代官が身代わりで罰を受けるという事も本気で申し出たらしいが、もちろんそんな事は領主も認めなかったそうだ。


それでも、領主は代官の気持ちを慮って死罪は回避されたのだそうだ。そしてデボラは重犯罪奴隷堕ちとなってしまったのだ。


代官は、父としては娘が生きていてくれて嬉しいのかも知れないが、プライドの高いデボラにとっては、重犯罪奴隷の立場に落とされるのは、死より重い罰だったのだが…。


リュー 「そういえば、ハンスおまえも、代官の仕事をまだ手伝っているのだな。デボラと離婚するとか言ってたが?」


ハンス 「ああ、デボラとは正式に離婚の手続きをした。仕事も辞めるつもりだったんだけどな…ヒュラブゴ様が続けて欲しいと言われてな。器の大きい方だ」


リュー 「そのヒュラブゴは、娘の件で代官をクビにはならなかったのか?」


ハンス 「ヒュラブゴ様も辞めるつもりだったのだが、領主様も器の大きい方でな。優秀なヒュラブゴ様に代官を続けて欲しいとおっしゃられたそうだよ。


…というか、呼び捨てにするな、ちゃんと様を付けたほうがいいぞ。いくら敬語を使わない冒険者と言っても、男爵相手に失礼だろう?


…って、もしかして、おまえも貴族なのか? 男爵位より上の?」


リュー 「俺は平民だよ。悪いな、俺は敬語が使えない呪いに罹ってるんだ、気にしないでくれ」


ハンス 「そんな呪いが……それはそれで大変そうだな」


リュー 「そうでもない。ところで、ミィはどうしてる?」


ミィとはこの街で別れた。奴隷から開放してもらって、ミィはリューに返しきれない恩義があるが、それを返す方法がないと悩んでいた。それに対してリューが言ったのは…


リュー 「いつか、一度だけでいい、いつか俺が困っている時に、頼み事をするかもしれない、その時に力を貸してくれ」


ミィ 「何でもします! 一度と言わず何度でも!」


そして、ミィは街に残り、いつか、リューの役に立てるよう、己の腕を磨くべく、再び冒険者としての活動に戻ったのだった。


G 「ミィ? 頑張ってるぞ? 今は、シーラとかいう、最近この街に来た冒険者とパーティを組んでる」


リュー 「シーラはこの街に来たのか」


G 「ああ、以前ミィがパーティを組んでいたターラって冒険者の妹だそうだな。ってか、そろそろ依頼の話をしてもいいかな?」


リュー 「ああ? ダンジョンを攻略しろって?」


冒険者なら誰もが憧れるダンジョン踏破という偉業であるが……ダンジョン踏破の実績が欲しいだけなら問題ないが、ダンジョンの管理者になるとなると、権利関係で様々な問題が出てくる事になるので、そこを詰めておく必要があるのだ。


魔物はダンジョンで生まれて外に出てくると言われているので、ダンジョンは発見次第片端から破壊するべき、という方針の国もあるのだが、ダンジョンを資源と見ている国や領主も多いのだ。


その場合、予め国がダンジョンの個人所有を禁じている事が多い。勝手にダンジョンコアに手を出せば、犯罪者として追われる事になるわけである。


とは言え、天然の野良ダンジョンは危険性も高いので、資源として利用するなら、踏破して管理ダンジョンにしておきたい。


優秀な冒険者にそれなりの報酬を支払い踏破してもらってギルドが管理権を持つというケースも多い。


だが、その場合も報酬額が問題になる。安い報酬額では、冒険者達も納得しないだろう。ダンジョンを踏破できたのは、その冒険者の能力によるところが大きいのだから、当然であるが。ただそれでも、ギルドの依頼であれば、既存のダンジョンの所有者から所有権を買い取るよりは安い金額で済む事が多い。


冒険者には、金の他に、ランクアップやギルド内での地位や立場、名誉などを与えて納得させるわけである。


だが、そもそもリューはもはやランクにも地位にも名誉にも興味がないのだが、果たしてどのような条件を出してくるつもりなのか。


G 「実はな、今回の依頼は、報酬は出ない」


リュー 「は?」


G 「いや、言い方が悪かったな。そもそも指名依頼という形ではないらしいんだ」


リュー 「ちょっと何言ってるのか分からないんだが?」


ハンス 「今回のは、依頼ではなく、許可という形だ。本来禁止されているはずの、ダンジョンの所有権を取得する事を、リュージーンという冒険者に許可するという話なんだ」


リュー 「ダンジョンの権利を放棄すると言うのか? この街は、多少遠いが隣の街も、ダンジョンのおかげで栄えてるんじゃないのか?」


ハンス 「いや、資源としてのダンジョンも失わうわけには行かない。そこで、ダンジョンを破壊や移動せず、今後も利用させてほしいという条件付きでの許可という事になる。


まぁ、一旦ダンジョンを踏破して所有権を獲得してもらい、その後、その所有権を買い取る交渉をゆっくりさせて欲しいという話だ。


当然、依頼料なんかよりも遥かに高い金額の取引になるはずだ。悪くない条件だと思うが?」


リュー 「それは、代官の決断か?」


ハンス 「いや、代官にそこまでの決定権はない。これは、領主様からの指示だ」


リュー 「領主? ここの領主は誰だったか…、って俺が知るわけ無いな」


G 「領主様は、ラックマ・ビルドラン伯爵だ。このライムラの街を含む、いくつかの街を領地として治めている」


リュー 「そのビルなんちゃら伯爵が、俺の事を?」


ハンス 「ああ、名指しでな。デボラの件でヒュラブゴ様が進退伺に行った際に話したんだろう。是非とも挑戦するよう説得せよとの事だった」


リュー 「別に、喜んで飛びつくような話でもないな」


G 「受付嬢のリズに、ダンジョン踏破したがってるような事を言ってただろう?」


リュー 「そんな事まで報告してるのか」


G(ドヤ顔) 「情報は大事だからな。あらゆるところから収集しているのだよ」


リュー 「…まぁ、後で買い取ると言っても、その内容次第では断るかもしれんが? それでもいいというなら、受けてもいいぞ」


ハンス 「…それでもいい。なんとしてもその冒険者にダンジョン踏破に挑戦させろという伯爵の指示なんだ」


G 「伯爵はなんでそんな、急にダンジョン攻略に意欲を出し始めたんだ?」


ハンス 「伯爵の意図は分からない、もしかしたら、ダンジョン踏破できそうな冒険者がこれまで居なかったから、ずっと黙っていただけなのかも知れないな。とにかく、その冒険者に挑戦させろという話だった。


…本当にできるのか?」


リュー 「やってみなければ分からんが、まぁ大丈夫じゃないか?」


結局、その依頼? を引き受けたリュー。受ける義理などなかったが、もうひとつくらいダンジョンが欲しいと思っていたところだったのだ。ダンジョンのコアを何かに利用できないかと興味があったのである。


今回はダンジョンコアを持ち去るのは禁止、いずれ買い取りたいという話だが、まぁそれなりの金額を貰えるのであればそれもよし。交渉決裂となれば、持っていて(リューならば)困るものでもない。


早速リューはダンジョンに向かった。ダンジョン踏破も、リューにとっては準備すら必要ない、片手間仕事なのだから。


    ・

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    ・


一方その頃、王都ガレリアーナでは、王城が大軍に取り囲まれていた。


ドロテア 「舐められたものだな。要塞と呼ばれたこの私の居る王城を、簡単に攻め落とせると思ったか」



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次回予告


クーデター


乞うご期待!



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