第453話 クーデター勃発
魔法王国ガレリアの王都でクーデターが発生した。
首謀者はギャスラ・グリンガル侯爵である。侯爵は、以前からエドワード王を斃し国を乗っ取る計画を準備していた。
侯爵は、王都に近いいくつかの、自分の配下の貴族が収めている街に、密かに兵力を集めさせていた。それを、ある日、一気に王都へ進軍させたのである。
有無を言わさぬ電撃作戦であった。
王都を守る兵力のうち、エドワード王直々の戦力は多くはなく、その大部分は王城周辺を固めている。王都の外縁部を守る貴族達は、貴族諸侯の配下であり、その大部分が既に侯爵に籠絡されていたため、いとも簡単に王都に軍隊の侵入を許してしまったのであった。
反乱軍側も、無駄に国民の血を流す気はなかった事もあり、街の中であまり大きな戦闘は起こらず、街の住民に被害がなかったのは幸いではあったが。
だが、王城を守る騎士達も反応は早く、状況を察知し城の中に待避、反乱軍に侵入される前に門を固く閉じる事に成功した。
ついに王城へと到達した一万人を超える騎士・兵士。だが、そこで手詰まりとなってしまう。
“不滅の要塞” ドロテアが王城全体に張ったためである。守勢において鉄壁を誇るドロテアを城から排除できなかったのは、反乱軍側の作戦ミスであった。
グリンガル侯爵 「ええい、破れんのか? たかが一人の魔法使いが張った障壁が?」
将軍 「攻撃は続けておりますが、ビクともしません。まさかこれほどとは……“要塞”の異名は伊達ではなかったようですな」
侯爵 「相手を褒めてどうする。いくらドロテアが強固な魔法障壁を張れると言っても、一個人の魔力には限界があるはずだろう。攻撃を続けよ、不眠不休でな。こちらは交代要員はいくらでもいる、すぐに限界を迎えるであろう」
だが、一昼夜休まず魔法を打ち込み続けた侯爵の軍勢であったが、ドロテアの魔法障壁を破るには至らなかった。
* * * * *
宰相 「魔力のほうは大丈夫なのか、ドロテア殿?」
ドロテア 「全然大丈夫!
…と言いたいところだが、実はちょっとヤバいかも」
宰相 「ゴルム戦役ではドロテア殿は一週間以上障壁を維持し続けたと聞いているが」
ドロテア 「あの時は、ここまで強力な攻撃を間断なく加え続けられたわけじゃないからな。さすが、侯爵の軍勢だ、優秀な魔法使いが多いようだ。まだ2~3日は大丈夫だろうが、いずれは魔力が尽きて、いずれ破られるかもしれん」
実は、あと2~3日攻撃を続けられるほど、攻撃側の魔力が続かない状況なのだったが。とはいえ、外から補給を受けられる包囲側のほうが優位なのは変わらない。さらに攻撃手を外から連れてくる事も可能なのだから。
エド王 「四天王が全員出払っている時を突いてくるとは、侯爵に嵌められたようだな」
宰相 「四天王がそれぞれ護衛騎士を連れて街を出ておりますので、城の戦力もやや手薄な状態です。もしかしたら四天王の地方視察も侯爵の手のものが仕組んだかも知れませんね」
ドロテア 「内側から門を開けようとした
宰相 「その者は既に騎士達が捕らえました。他に仲間が居ないか隷属の首輪を使って尋問しましたが、単独だったようです。どうやら先日の奴隷ギルドのスパイを調査した事で、場内のスパイが一掃されていたのが功を奏したようですな。そうでなかったから、裏切り者によってとうに場内に侵入されていたかも」
ドロテア 「ガーメリア達はいつ戻ってくる?」
宰相 「すぐに通信用魔道具で連絡致しましたが、戻ってくるまでに数日は掛かる見込みです」
ドロテア 「数日か……それまで持てば、挟み撃ちできるな。……持つかな?」
不安げな顔をした宰相にニヤリと笑みを浮かべてみせてから、ドロテアはマジックポーションを煽った。
ドロテア 「転移でも使えれば一瞬なんだがなぁ…」
宰相 「転移といえば、リュージーンは? 彼を雇えばこの状況もなんとかできるのではないか?」
エド王 「連絡はしてみたのだがな、応答せんのだ。通信用魔道具が届かない場所にいるのかも知れん」
宰相 「そのような場所が?」
ドロテア 「ダンジョンの中、とかかな」
グリンガル侯爵は、リュージーンの恐るべき能力を知っていた。そのため、エド王と親しいリュージーンが来たるべきクーデターの邪魔になると考えた。本当はもっと早く武装蜂起する予定だったのだが、リューが現れたことで計画を延期せざるを得なくなったのだ。そしてリュージーンが王都から離れるのを待つ事になった。(その間に奴隷ギルドが崩壊させられ、せっかく城内に送り込んでいたスパイが一掃されてしまったのも、計画の綻びとなってしまったのだが。)
侯爵はリュージーンが転移を使える事も知っている。そこで、配下の貴族を使って一計を案じた。
ライムラの街を治める領主のビルドラン伯爵は、グリンガル侯爵の派閥の貴族だった。その伯爵の領地にリュージーンが入った事も侯爵はもちろん掴んでおり、伯爵にリュージーンをダンジョン攻略に向かわせるよう指示したのだ。
ダンジョンの中ならば、通信用魔道具でも連絡が取れない。
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※ダンジョン内との通信が可能かどうかは通信機の性能による。
一般に流通している通信用魔道具ではほぼ無理である。
例外的に、不死王の作った高性能な通信用魔道具であれば通信可能な場合もある。
リューが収納に使っている亜空間やスケルトン軍団が居る亜空間は、この世界に属する副次的な空間なので通信が届きやすい。
ただ、ダンジョンの中は “別の世界” なので、高性能な通信機であっても、あまり(次元的に)遠くなってしまうと難しくなってくる。次元を超えた通信というのは限界があるのである。
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ダンジョンの攻略は、国がプロジェクトを組んで当たっても、普通にやれば何ヶ月も掛かる。場合によっては何単位になる事すらある。Sランクなどの特別優秀な冒険者に依頼すればもっと早く終わる事もあるが、それでも何週間かは掛かるはずである。
リュージーンが如何に優秀であっても、ダンジョンを攻略し終えて出てきた頃には、クーデターの電撃作戦は既に終了しており、王が交代しているという寸法である。
ダンジョンを攻略中にリュージーンが死ねばよし。もし無事攻略したならば、新たなガレリア王として、ダンジョン買取の交渉をリュージーンとすればよい。
だが、計算違いがあった。
ドロテアが王城に残っていたのである。
クーデターの障害となりそうな四天王は、辺境地域の視察や外交案件など、政治的な事案をうまく動かし積み重ねて、王都から引き離してしまう事に成功した。
ドロテアにも、四天王とは別に緊急の外交事案を割り振ったはずであった。
だが、基本、仕事をしたくないドロテアは、ガーメリアに自分の分まで仕事を押し付けてサボっていたのである。
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次回予告
侯爵 「エドワード王にはご機嫌麗しく…」
エド王 「クーデターを起こされてご機嫌なわけなかろうが?」
乞うご期待!
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