第322話 どんな英雄も国を相手に戦ったら最期は敗れるぞ
衆人環視の中、騎士達とその指揮官が殺された。一瞬、静まり返っていた観衆であったが、その後歓声が湧き上がった。観衆からは特にリューを責めるような声はない。どうやら騎士達はよほど嫌われ者だったらしい。
リュー 「しまった、この指揮官ぽかった奴、簡単に殺してしまったな。生かしておいて手足を落として反省の人生を歩ませたほうがよかったか。もう一度生き返らせてやりなおす事もできるが……
…まぁ、悪そうな奴ではあったが、よく知らない奴だし、どうでもいいか…」
妻と娘との再会を喜ぶルガル。タスー達も駆けつけてきた。
ルガル 「タスー、それにベリンとヨリンも! まったく無茶をしやがって!
……ありがとうな」
タスー 「いえぇぇぇ、俺はぁ、隊長のおがげでぇ……無事でぇ、よがったぁ……」
思わずボロボロと泣き出すタスーの背中にベリンとヨリンがそっと手を置く。
それを微笑みながら見守るモリー。そこでルガルはモリーが誰なのか気づいた。
ルガル 「モリー、モリーなのか? 無事だったんだな?! 良かった……」
モリー 「ルガルさん、申し訳ありません、私のために逮捕されたと聞きました。私なんかのために……」
頭を下げるモリーにルガルは言った。
ルガル 「いや、私なんかなんて言うもんじゃない。それにモリーのためだけじゃない、いい加減、代官のやり方には皆頭に来ていたんだ。
ただ、誠意をもって語れば少しは話しを聞いてくれるんじゃないかと思ったのは甘すぎたな。貴族というのは本当に、平民の諫言などに耳を貸さないもののようだ、いきなり不敬罪で逮捕されてしまったよ」
ルガルの妻 「あなた、せっかく助かったのだから、早く逃げましょう。こんな事をしてしまったら代官の追手が……」
だがその時、ルガル達の周囲を警備兵が取り囲んだ。
タスー 「お前達! どういうつもりだ?!」
ルガルの妻 「ああ、どうか、許して、見逃して下さい! あなた達はルガルの部下だった人達でしょう? だったら」
警備兵 「奥さん落ち着いて! 俺達は隊長を捕えに来たわけじゃない、逆だ、隊長を守りに来たんだ。それと、一言謝りたくて……隊長! 隊長一人に辛い仕事を押し付け、逮捕されても俺達は何もできず……不甲斐ない部下で申し訳ないです!」
警備兵達が一斉に頭を下げた。
ルガル 「いや、仕方がないさ、貴族に逆らえば生きていけなくなる。お前達にも家族があるんだ」
警備兵 「さぁ、隊長、街を脱出するなら俺達がガードします、行きましょう!」
リュー 「ああ~、出ていく必要はないと思うぞ?」
タスー 「おお、リューさん! 助かったよ! さすがの実力だな、騎士を赤子のように蹴散らすとは……」
ルガル 「助けてくれた方、リューさんというのか? ありがとう、感謝する。だが、君も逃げたほうがいい。いくら君が強くても、貴族を敵に回したらただでは済まないだろう。私と一緒に街を出よう」
リュー 「ああ、この街での用が済んだらすぐに出ていくよ。俺はこれからこの街の代官に会いに行く」
ルガル 「!? 何を言ってるんだ? さっき君が殺した騎士隊長は、この街の代官の右腕と言われていた男だぞ? 君は既に貴族と敵対しているんだ、会いに行ったりすれば逮捕され処刑されるだけだ!」
リュー 「俺が殺したわけじゃないんだがな、奴は自分でロープを切ったんだが? 騎士達も死んではいない。まぁ手足を切り落とされて、この先騎士としてやっていく事はできんだろうがな。
だいたい、“右腕” があの程度では、俺を逮捕する事ができる騎士などこの街に居るとも思えないんだが」
ルガル 「ああ、確かに君は強いな…先程この目で見させてもらった。百戦錬磨の騎士達を一人で圧倒し、断頭台に拘束されていた俺と騎士隊長のベムリを入れ替えたのは、どうやったのかも分からなかった。
だが……
今回は勝てたかも知れん。だが、力を誇示すれば、次はもっと強い騎士がやってくる事になるんだ。
さらに貴族の中には騎士達をはるかに凌駕するような魔法の使い手もたくさん居る。
いくら君が強くても、それを圧倒する質と量で攻められれば、いつか敗れることになるぞ? 最後には軍隊を、国を相手にする事になる。国が威信を掛けて攻めてきたなら、どんな英雄も最期は敗れる事になるんだ。
この世界では、貴族に逆らっては生きてはいけないんだよ……」
リュー 「俺は国が相手でも負けんよ。なんなら一人で国を滅ぼす事だってできると思うぞ? まぁ、罪もない者達も巻き添えになるだろうから、そんな事はする気はないが。
まぁ、俺の事は気にしないでくれ、代官には個人的に用があるだけだ。旅の冒険者がどうなろうがあんたらには関係ない話さ。
さぁ、モリー、行くぞ」
ルガル 「モリー!? まさか君も一緒に行くのか? せっかく助かって自由になったのに、また酷い目にあうぞ?」
モリー 「大丈夫です、私は一度は人生を諦め死を覚悟した身。それをリュー様に命を拾われました。私はリュー様について行くだけです。ルガルさんはどうぞ行って下さい。私の事は心配無用です」
ルガルに頭を頭を下げ、モリーもリューの後を追った。
それを見送ったルガルはしばらく逡巡していたが、吐き捨てるように言った。
ルガル 「ええぃクソ! 俺も行く!」
タスー 「え? せっかく助かったのにまた行くんですか? また捕まりますよ……ってリューさんが居れば大丈夫か?」
ルガル 「あの若者がいくら強いと言っても、やはり放ってはおけん……」
警備兵 「隊長! 俺達も行きますぜ!」
ルガル 「何を言っている、お前達まで巻き沿いになる必要はない。仕事に戻れ」
警備兵 「いや、俺達ももう我慢ならねぇ、立ち上がる時だ、なぁみんな!」
警備兵達 「「「「「「おー!」」」」」」
警備兵 「それに、あのリューという冒険者が居れば……俺達があの冒険者に力を貸せば、代官の屋敷くらいは落とせるかもしれねぇ」
ルガル 「お前達……しょうがない奴らだ。よし、一緒に行くか!
ラエナ、ララ、せっかく会えたのに済まない、俺は……」
ラエナ 「……止めても無駄よね。あんたはそういう人だったよね、昔から。そういう所に惚れたんだから、仕方ない。でも、生きて帰ってきておくれよ!」
ララ 「おとう、また行くの? 帰ってくる?」
ルガル 「ああ、必ず帰ってくる、約束するよ!」
妻と娘とひしと抱き合ったルガル。
ルガル 「よし、行くぞ!」
ルガルとタスー達、そして警備兵達はリューの後を追って代官の屋敷へと続く道を走り始めた。
* * * * *
リュー 「モリー、怖いか?」
代官の屋敷の50mほど手前の路上にリューとモリーは居た。広場から転移で移動して来たのである。
だが、屋敷を見ているモリーの表情は固い。代官の屋敷を見て、酷い目に遭わされた事がフラッシュバックしてしまうのだろう。
リュー 「大丈夫だ。モリーの護衛にはパーシヴァルとエヴァンスを着けておく。その二人は騎士が何百人来ようが余裕で勝てる。モリーには指一本触れさせる事はない」
パーシヴァル 「千人でも問題ない」
エヴァンス 「あの程度の騎士なら一万人でも一人で屠ってみせよう……」
モリーはぎこちなく頷いた。
リューは代官の屋敷に近づき、門番に声を掛けた。
リュー 「代官は居るか? たしかキロンとか言ったな? 出かけてはいないよな?」
門番1 「なんだ? 冒険者か? 貴様は平民だろう、無礼者め! キロン様は子爵位を持つ貴族だぞ! 平民ごときが気安く呼び捨てにするなど許されんぞ!」
門番2 「不敬罪でこの場で殺されてもおかしくはないのだぞ? 命が惜しかったら消え失せろ!」
門番ズは持っていた槍をリューに向かって突き出して来た。
― ― ― ― ― ― ―
次回予告
ついに代官の屋敷に乗り込んだリュー
乞うご期待!
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