第218話 事後処理(王の謝罪と賠償責任)
王宮の応接室。
部屋には軽食とお茶が用意され、それを囲むは王と宰相、シンドラル伯爵、それにリューとヴェラ。
話してみると、王は実はかなり気さくな人物であった。
国王ハロルド・フェルマー、オルドリアン・シンドラル伯爵、レオポール・フェイドマン宰相の三人は、学生時代からの親友で、若い頃は三人で冒険者まがいの無茶もしてきたという間柄らしい。
国王はなかなかの好人物であったのだが……
その国王が、あの勇者を庇護し、国王の名を使っての横暴を許してきたのだ。
宰相 「それについては国王には責任はないのだ、申し訳ない、私の部下が全ての情報を握り潰して王はおろか私にも報告が上がっておらん状態でな、シンドラル伯爵に事態を知らせてもらってやっと気付いた次第じゃ。私の管理不行き届きだ、誠に申し訳ない」
王 「いや、全ての責任は俺にある。それが上に立つ者の責務だ。申し訳ない」
リュー 「俺に謝る必要はない。俺は何の被害も受けていないしな。それよりも、部下の管理を見直す事、被害を受けた者達に償ってやる事が必要だろう」
王 「もちろんだ。王宮の綱紀粛正も徹底する。被害にあった者達にもすべて補償を行う」
勇者による被害を受けた者には、国から補償が支払われる事となった。
勇者に家族を殺された者には高額の補償金が支払われた。そんな金よりも死んだ者を返して欲しいというのが家族の本音であろうが、金で償うより他に仕方がない。
まだ明るみに出ていなかった被害についても申告すれば補償される事となった。
ちなみに、その通達が出された後、嘘の申告をして何人か逮捕者が出た。この世界には、嘘を言っているかどうかを見極めるスキルや魔道具があるのだ。そんな事も知らずに国に対して嘘の申告をしようとする者はすぐに捕まる事になるのである。
勇者の蛮行を見逃してしまった貴族については罰する事はできない。
1 圧倒的な強さを誇る勇者に抵抗する兵力を持つ貴族は居なかった(逮捕しようにもできなかった)
2 勇者は国王の威光を笠に着ていた
3 報告を王宮に上げても一切返答もなしで無視されていた
という状況だったのだ。貴族達から王が逆に責られてしかるべきであろう。
王家としてはキチンと勇者を断罪し、貴族たちに謝罪と損害賠償をするはめになってしまったのであった。
勇者のせいで、一体どれだけ国王の威信が傷つけられたのか……
そもそも、この世界のこの時代には魔王は存在していない。というか、この世界にはもともと魔王が自然発生するようなシステムは存在しない。
過去に、人類と魔族が戦争になった時、魔族の王が魔王と呼ばれただけなのだ。つまり魔王の称号も、それに対する勇者の称号も後天的に発生したものであり、この世界のシステムとして用意されていたわけではないのである。
魔王が存在せず定期的に誕生するわけでもない今、勇者の存在意義はない。だが、なぜ勇者の称号に特殊な権能が発生するようになったのかは謎であるが、その能力は脅威であり、度々、戦争の兵器として勇者が利用される事があったのである。
フェルマー王国は他国を侵略するための戦争はする気はなかったが、王国内で誕生した勇者を放置して他国に兵器利用されないために、魔物退治の名目で国内で働かせていただけなのである。
だが、このような事が起きるとなると、勇者の取り扱いについては今後、重々注意が必要となるであろう。
いつかまた、勇者の称号を持つものが現れるかも知れない。その時のために、勇者の人格を審査し、教育する方法、そして勇者の能力を制限する方法の研究が指示される事となった。
ただ、それもこれも宰相の部下の管理不行き届きが原因でもあるとして、宰相が責任をとって辞任を申し出た。だが、王は宰相の辞任については認めなかった。
王としても、レオ宰相より優秀な者も他におらず、辞められても国にとっては損失でしかないのである。今後宰相には、別の形で国に貢献してもらう事で、罪を償ってもらう事を申し渡したのであった。
もし辞任が責任をとる事であるなら、王も辞任しなければならない。だが、代わりの王など居ないのだ。王の息子に王位を譲るという事は可能であるが、配下の者の不祥事が在るたびに王がいちいち退位していたら、王国が成り立たない。
基本的には、フェルマー王は国民のためを常に考えている良王である。今回も、その根本的な思いの部分に間違いがあったわけではない。仮に、施策に多少のミスや間違いがあったとしても、根本的な部分の思想が正しく、十分な能力があるのであれば、国民には支持されるだろう。
国を任せられる優秀な人材を育てる方針はこれまで通り継続しつつ、間違いは糺し、今後も国民のため身を粉にして尽くす。それしか王と宰相に償う道もないのである。
・
・
・
王との会談は、内容的にはシリアスな話も多かったが、気さくな国王・伯爵・宰相の人柄もあり、全体としては話も弾み楽しいものであった。
極悪勇者を野放しにした体制に苦言を呈したリューに対しても、偉ぶる事なく素直に反省・謝罪し今後の改善を約束した王の態度に、リューも好感を持ったのだった。
王もリューに聞きたい事も多く話は尽きなかったが、王も宰相も(伯爵も)非常に忙しい身、あまり長く話してもいられず、程なくして解散となった。
― ― ― ― ― ― ―
次回予告
王宮を出たリューは姿を晦ます?
乞うご期待!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます