第263話 隷属の首輪を嵌められてしまったリュー
リュー (へぇ、こうなるんだ)
リューは、誰かに自分の体を乗っ取られて勝手に動かされているような隷属の首輪の不思議な効果を、客観的に観察し、関心していた。
リングを降り近づいて来るリューを見て、勝利を確信し高笑いするヤン。
ヤン 「わぁっはっはっはっは!」
リュー 「あっはっはっはっは!」
ヤン 「わは?」
リュー 「あは?」
だが、気がつけば、目の前まで来たリューは、跪く事なくヤンと一緒に高笑いしていた。
リュー 「これが? 何だって?」
そして、リューは首に嵌っている戒めの輪に手を掛けると、あっさりと引き千切ってみせた。
目を剥いて驚くヤン。
ヤン 「馬鹿な……プロテクトはどうしたのだ?! 隷属の効果が発動していなかったのか?!」
リュー 「いや、効果はちゃんと発動してたよ。だが俺は自由を愛する性分なんでな、縛り付けようとされると『抗え!』って魂の叫びが心の奥から湧き上がってくるのさ。その叫びが隷属の効果に抗う原動力さ」
…嘘であるが。
ヤン 「そ、そんな事で隷属の効果が覆せるはずが……」
実のところ、ヤンの前まで行ったところで、リューは隷属の首輪の術式をすべて【分解】してしまっただけであるが。
“世界を分解する能力” は魔力の術式より上位の根源的な能力である。魔法を成立させている根源的な力を魔法で縛る事はできない。たとえ隷属の首輪を着けられてその効力が作用していたとしても、オリジンを操る能力はフリーである。
隷属の首輪の制約が、「首輪を外すな」ではなく、「首輪を外そうと考えるな」であったら危険であったかも知れないが……
隷属の術式と魔力が分解されてなくなってしまえば、残るはただの首輪であり、外すなという初期命令は無効となる。そうなれば、いかに頑丈な作りの首輪であっても、リューの力であれば簡単に引き千切ってしまえる。
首輪を床に捨てたリューは、ヤンに顔を近づけて言った。
リュー 「さて、巫山戯た事をしてくれたなぁ、オッサン?」
ヤン 「ひぃっ!」
ヴェラ 「ご愁傷さまデス」
ヤンの冥福を祈り合掌するヴェラ。
だが、ヤン自身もまた冒険者である。それもベテランと言われるCランクである、戦闘力にはそれなりに自信があった。
瞬時に腰から短剣を引き抜いたヤンは、電光石火の動きでリューの心臓を突いた。
リューの胃の当たりを下から上に突き上げるように突き出された短剣。肋骨に守られている心臓は、骨を避けて下から狙うのが確実なのである。
ヤンの短剣は鍔まですっぽりとリューの身体に吸い込まれている。その動きは素早く鮮やかであった。
だが、次の瞬間、ヤンが悲鳴をあげた。
ヤンの太ももを短剣の刃が貫いていたのである。
リューの胴体の表面、ヤンの短剣が貫いたはずの場所には小さな魔法陣が浮かび上がっていた。ヤンの短剣はリューの体内に侵入する事なく、ヤンの太腿に浮かんだ魔法陣からヤンの体内へ刺さったのであった。ヤンは自分の短剣で自分の太腿を刺してしまったのである。
短剣の刃は運悪くヤンの大腿の骨に突き刺さって止まった。肉を裂いただけでなく骨に食い込んだ刃によって湧き上がった激しい痛みに絶叫しながらヤンは後退ったが、倒れはしなかったのはさすがCランク冒険者と言うところか。
ヤンが手に持っていた短剣は、根本でスッパリ切断され、刃の部分がなくなっていた。リューが即座に空間の出入口を閉じたため、刃の先は切断されヤンの体内に残ってしまったのである。(次元斬の原理である。)このまま治癒魔法やポーションを使うと刃が内部に残り組織を傷つけ続けるため、治療の前に除去手術が必要となるだろう。
ヤン 「ぐぉぉっ! …っく……
…お、お前ら!何をしている、俺を助けろ!」
周囲に居たギャラリーのほとんどは巻き込まれたくないと蜘蛛の子を散らすように逃げ去ったが、ヤンの言葉を合図に冒険者十人ほどがリューの周囲を取り囲み剣を抜いた。
リュー 「お前ら……ソイツ(ヤン)が勝負を反故にしたのを理解した上で掛かってくるんだよな? ならば手加減はせんぞ? 覚悟はできているだろうな?」
誰も問いかけに答えず。一人が問答無用で斬りかかってきた。
だが、振られた剣を躱しながら、リューの
いつの間にかリューの手に握られていた短い筒から突然生えてきた
リュー 「お前ら……すんなり殺してやるのと、手足を失っても生き残るのと、どっちがいい?」
ヤン 「何をしている! 全員で一斉に掛かれ!」
その掛け声で数人が同時に斬りかかってくるが、光の剣が高速で何度も踊る。あれよあれよと斬り飛ばされていくくヤンの部下達の手足。
リュー 「殺してほしい奴は言え」
倒れた者たちは皆、致命傷ではないが手足を斬り落とされた状態である。傷口は焼灼されて出血はないが、全員、切断と火傷の痛みで呻いていた。
この世界には身体障害者への支援体制などまったくない。潤沢な資産を持っている貴族ならばいざしらず、その日暮らしな者が多い冒険者が手足を失ったら、まともな職も得られず極貧生活となり、やがて野垂れ死ぬ運命を辿るのが関の山である。
ならば苦しめずに殺してやるのが情という考え方もあるだろう。
それに、生かしておけば恨みを残し、どこかで復讐を企てる可能性もある。禍根はできるだけ残さないよう、殺してしまったほうが面倒がなくてよいだろうとリューも思うので、“殺せ” と言う奴は素直に殺してやるつもりだったのだが……殺してくれと言う者は誰も居ないようであった。
リューはヤンに再び歩み寄ると、光の剣を首に突きつけた。
ヤン 「ひっ!」
ブン!という音がヤンの耳に響く。光剣は映画のソレを実によく再現している。
だが、その時、誰かが呼んだのか騒ぎを聞きつけたのか、警備兵たちがやってきたのだった。
それを見たヤンが叫んだ。
ヤン 「遅いぞ! コイツを殺せ! いや、ダメだ、生かして捕らえろ、後でゆっくりなぶり殺しにしてやる!」
― ― ― ― ― ― ―
次回予告
ヤン 「さっさとやれ!」
警備隊 「だが逃ゲル!」
乞うご期待!
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