第264話 悪かった! 謝る! お前の勝ちだ! 許してくれぇ!
ワラワラと駆けつけた警備兵達。
ヤンの言い方からするに、警備兵もヤンと繋がっているという事なのだろう。
警備兵 「……お前は!」
だが、警備兵達は、相手がリューである事に気づいた。
自分達を一度 “殺した” 相手である、それはつい昨日の事である。その恐怖体験はいまだトラウマとなって警備兵達の心に刻まれている。
ヤンにせっつかれても、警備兵達は誰も動こうとしなかった。
ヤン 「何をしている、さっさとそいつを捕らえろ!」
警備兵 「……相手が悪い。俺達は手を引かせてもらう」
ヤン 「な、なんだと?!」
だが、その時、一人の警備兵が出てきた。非常に大柄な体躯に、巨大な戦斧を担いでいる。
カルゴス 「なんだぁ、こんなチビに何ビビってんだお前ぇら?」
警備兵 「カルゴス、戻ったのか!」
カルゴス 「俺が居ねぇ間に警備隊が情けない醜態を晒したらしいが、まさかこんなガキが相手だったとか言わないよな?」
警備兵 「おい、やめろ」
リュー 「死にたいなら相手してやるぞ?」
カルゴス(周囲を見渡しながら) 「少しはやるようだがな、俺がしっかり躾けてやろうじゃねぇか」
カルゴスが巨大な戦斧を振り回しデモンストレーションする。まるで重さがないかのように風を斬る音が響く。
それを見て、警備兵達も一瞬期待した。
警備兵 「カルゴスなら、もしかしたら……?」
だがそれを見てもリューは怖気づく様子もなく。
手の平を上に向けてカルゴスに差し向けると、指を手前にクイクイと二度曲げた。
カルゴス 「舐めるなぁ!」
リューの舐めた態度に激昂したカルゴスが猛烈な勢いで踏み込んできた。重い戦斧が高速で水平に振られる。
映画に憧れて光剣を作ってもらったものの、映画の中ではライトソード同士で戦っているので、相手の光剣を自分の光剣で受け止める事ができていたが、現実には相手が使っているのは金属製の剣である。
光剣と金属の剣がぶつかれば、金属の剣が負けて切断されてしまい、受け止めるという形にはならないのだ。
かなり早い段階で自分から相手の剣を斬りに行けば問題ないが、相手の攻撃をギリギリで受け止めたりすれば、切断された相手の武器の先がそのまま自分に向かって飛んでくる危険性があるのである。
つまり、相手の攻撃はすべてフットワークで躱す必要があるのだ。
防御を捨て、次元障壁の鎧で受け止めながら攻撃すれば楽であるが、以前戦った勇者の聖剣のように次元障壁を破る力がある武器の可能性もある。
現実には次元障壁を破る武器など例外中の例外なのではあるが、魔法などというファンタジックなモノが存在するこの世界では、何があるかリューにも分からない。(リューは結構慎重な性格なのである。)
戦斧はリューの胴体を上下に分断せんと迫ってくる。
上から振り下ろす攻撃は一歩横に移動しただけで躱されてしまうため、水平に振る剣撃のほうがこの世界では主流である。水平に振りまわされる攻撃は、受け止めるか、間合いの外に逃げるかしか防御の手段がないからである。
そして、間合いの外に逃げられないように深く踏み込みながら攻撃をする。攻撃を武器で受け止めさせてしまえば、同時に相手の武器による反撃を封じる事にもなる。強打を無理な体勢で受けさせれば、相手は体勢を崩し、自分は次の攻撃のコンビネーションに繋げられる、一石二鳥なのだ。
下を潜る、上に飛ぶという選択もあるにはあるが、あまり現実的ではない。
カルゴスは、獲物に間合いの外に逃げられないように、巨大な戦斧の刃長を生かして深く踏み込んで斧を振っている。しかもそのスイングは鋭く、踏み込んで前に出て柄を掴むにはもう間に合わない。そもそも刃が大きく前に出ている斧は柄を掴まれにくい。それを振り回す膂力さえあれば、斧はかなり強力な武器となるのだ。
カルゴスは自信満々なだけあって巨大な戦斧の使い方に慣れているようだ。
斧がリューの立っていた場所を通過する。カルゴスは、自分の斧がリューを両断したと確信した。手応えが無かったが、あまりの威力で抵抗感もなかったのだろうと思った。
だが、リューは迫ってくる戦斧の “向こう側” に転移で移動しただけだった。つまりカルゴスの斜め前に、リューは無傷で立っている状況になる。
重い戦斧をフルスイングしてしまった無防備な体勢のカルゴスは、無傷のリューが脇に立っているのを一瞬遅れて認識し、慌てて腕を引き戻そうとするが、もはや間に合わない。リューの光剣がカルゴスの両腕を斬り落としていた。
カルゴス 「う、うぉぉ腕がぁぁぁぁ!」
さらにもう一度、光の剣が美しい軌跡を描き、カルゴスの両足が切断された。
四肢を失って仰向けに地面に転がったカルゴスに剣を突きつけるリュー。
カルゴス 「ぐっ、殺せぇ!」
その言葉を受けて、リューはカルゴスの心臓に光の棒を突き立ててやった。四肢を失って生きていくのは、この世界では貴族でもない限り無理だろうから、殺してやるのも武士の情けであろう。
警備兵 「逃げろっ、撤退だ」
他の警備兵達は全員あっという間に逃げ去って行った。
その場に立っているのはリューとヴェラ、そしてもう一人、リューに賭けた商人だけであった。(他の者達は全員手足を斬り飛ばされて地面に転がっている。)
ふたたびヤンに向かって歩いていくリュー。ヤンも自分の短剣が足に刺さったまま、尻もちをついた状態で動けなくなっていた。
自分に向かってくるリューを見たヤンが慌てて叫んだ。
ヤン 「わ、悪かった! 卑怯な真似をしたこと謝る! 勝負はお前の勝ちだ素直に認める! 金は全額お前のモノだ、持っていけ!」
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次回予告
決着と
乞うご期待!
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