第265話 どうしてこうなった?

リュー 「……たくさんの人間が傷ついたな。……誰のせいだ?」


ヤン 「え、それは、おま、いや、リュージーン、さんの……」


リュー 「はあ? ちがうだろー? お前のせーだろー?」


ヤン 「ひっ」


リュー 「お前が卑怯な真似などせず、素直に負けを認めて金を払っていれば……


それ以前に、お前が欲をかいて俺に絡んでこなければ、こんな事にはならなかった。


つまり全部お前の責任だよなあ?」


ヤン 「は、はい、ソウデスネ…」


リュー 「なのに、お前は謝っただけで終わりで、みんな納得するのかぁ? 金だって、賭けは俺の勝ちなんだから、もともと俺の金だろう?」


ヤン 「え、いや……それは、その、どうしたら……」


リュー 「死んで詫びるか?」


ブンと音を立てて再び光剣がヤンに向けられた。


ヤン 「ひいっ!」


リュー 「なんてな」


だが、リューは剣を納めた。


リュー 「いいか、よく聞け。これに懲りたら、二度と俺に関わろうとするな。俺と俺の関係者には一切手出し無用だ。


それを子分共や裏の社会によ~く言い聞かせておけ。そのために生かしておいてやる。


もしまたちょっかい出して来た場合は、問答無用で殺す。


裏の社会の人間全部だ、皆殺しにする。


いや、簡単に楽にはしてやらない、殺して下さいって言うまで拷問した後、手足をもいで城門にでも吊るしてやろう」


ヤン 「ひぃいいぃぃ、二度と逆らいません! 逆らいませんから、どうかお許しを~」


リュー 「ふん、それとな……いい事を思いついた」


ヤン 「?」


リュー 「俺は治癒魔法も練習中なんだが、そこでちょっと試してみたい治療法があるんだ。それで斬り落としたお前の部下達の手足を治してやろう。繋いで欲しい奴は手足を持ってくるがいい」


それを聞いた部下達が、慌てて自分の手足を掴んで這いずってくる。早くしないと治らなくなってしまうかも知れないと焦っているのだ。切り離された部位が腐ってしまえば治癒魔法でも接合することはできなくなってしまうのである。


―――実際にはそんな短時間で腐ったりはしないし、多少腐り始めていてもこの世界の治癒魔法なら治せるのだが、男達はそんな事は知らないのであった。


リューは光の仮面を装着した。


光属性の魔法は治癒魔法が一番有名であるが、この仮面を使えばリューにも治癒魔法が使えるのである。魔法は使うほど、リュー自身が魔法の使い方を覚えていく事になるので、どんどん積極的に魔法を使っていく必要がある。せっかくの機会なので使ってみる事にしたのだ。


リューは斬られた手足の切断面を合せるフリをしたが…


リュー 「こうなっている(焼灼されてケロイド状態)と手足もくっつかないなからな……もう一度斬るぞ?」


男達 「へ?」


そう言うとリューは、次元斬を使い、火傷状態の切断面をもう一度適当な位置で切断する。一気に血が溢れ始めるので即座に断面を合わせて治癒魔法ヒールを発動する。


※治癒魔法としては最も初級のヒールであるが、リューの膨大な魔力によって駆動されたヒールは斬られた手足も再び接合する事ができる。


ただし……治った手足は、リューが焼灼された切断面を切り取ってしまった分、短くなってしまっていた。


次元斬ならば火傷部分だけ薄く切除する事もできたのだが、あえてザックリ大きめに切り落としたのである。全員、斬り落とされた手足は接合できたものの、長さが十~二十センチほど短くなってしまったのであった。


時間を巻き戻す方法ではなく、治癒魔法を使ったのはそれが狙いであった。わざと意地の悪い治療法を選択したのだ。


足が短くなってしまった者は歩きにくそうだ。腕が短くなってしまった者は、武器を扱うにしてもリーチが短くなってしまう。地味に嫌なお仕置きである。


だが、欠損したままよりはずっとマシである。手足を欠損してしまうと、この世界では生きていくのも大変なのだから。最初は戸惑うだろうが、慣れれば普通に生活できるだろうし、訓練すればまた元通り冒険者としての活動もできるようになるだろう。


リュー 「これから真面目に生きるなら、これで許してやる。まぁ、もっと手足を切り詰めて欲しいって奴は、もう一度掛かってきてもいいぞ、相手してやる。どうする?」


そう言われ、冒険者達は全員青ざめた顔でフルフルと首を振ったのであった。


(ちなみに、人間の手足の輪切りが落ちていても気持ち悪いので、転移で全部遠くのダンジョンの中に放り込んでおいた。)


ヤン 「あ、あの、私の治療も……」


リュー 「お前は切断されたワケじゃないんだから自分でなんとかしろよ」


ヤン 「そんなぁ……お願いします、ちゃんと言い付けけ通りに致しますので! お願いします!」


リュー 「だが、お前の足の中には短剣の刃が残ってしまっているからな、そのまま治療すると中に刃が残ってしまうぞ?」


そうなのである、だからヤンは、体内に残った刃を取り除くまでポーションを使う事ができなかったのだ。体の中に刃を残してしまうのも、なかなか酷い嫌がらせである。しかも残った刃は骨に刺さったままなので激しく痛み続けるのだ。


ヤン 「痛いんです……お願いします……」


リュー 「そうだ、お前の足も他の連中のように一度切ってからけ直してやろう、そしたら刃もとれるしな」


ヤン 「ひぃっ! やっぱいいですぅ~自分で治しますぅ~!」


ヤンは慌てて痛む足を引きずりながら逃げていった。だが、おかげでヤンだけは足を短く切り詰めずに済んだわけであるが。


ヴェラ 「アイツも手足を切り詰めてやればよかったのに」


リュー 「まぁいいさ、奴には多少利用価値がありそうだしな。裏社会をいちいち壊滅させるのも面倒だしな。まぁ次何かあったら容赦しないが」


※ヤンはその後、なんとか治療院に駆け込む事ができた。刃を取り出す処置で痛い思いをしたが、その後は値段の高い高品質なポーションでなんとか元通り治す事ができたのであった。貯金を全部失い、高い治療費を払う事にはなってしまった。高い授業料であったが、それも自業自得である。


リュー 「さて、配当は?」


リュー・ヴェラ・ヤンの他にもう一人、リューに賭けていたのは、リューが門の外で泊めてやった商人のイルミンであった。


ヤンに賭けた者達は全員とばっちりを恐れて逃げ去ってしまったが、イルミンだけはその場に踏みとどまっていたのだ。イルミンはリューともヤンとも敵対しているわけでもないので逃げる必要もない。


イルミンはリューの戦闘力については直接見た事はなかったのだが、リューの力を商人の直感で感じ取り、リューが勝利する事を信じてこの場に残ったのだ。


イルミン 「毎度あり、儲けさせてもらいましたで。さすがリューさんでんなぁ、信じて大正解」


結局、ベットされた総額は金貨四百三十枚。リュー・ヴェラ・イルミンの出した額は全員同じ金貨百枚なので、総額を三等分すると約百四十三枚、一人あたり四十三枚の儲けと言うことになる。


正直、商売人の取引金額としては大きくはないが、短時間の儲けとしてはまぁまぁであろう。リューの側に居れば金になるというイルミンの商人としての勘は大当たりであったわけである。


イルミン (リューさんの動向は要注目でんな)


強引な手を使うつもりもないが、イルミンの商人の勘が、リューと仲良くしておけと囁くのであった。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


ブリジットの圧に領主、凶行に走る


乞うご期待!



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