第266話 ブリジット捕らわれる! 助けられるのは……

翌朝、ダヤンの宿。


リューの部屋で話し声がする。


リュー 「ハイハイ分カリマシタ! …ハイ、申シ訳アリマセンデシタ。ハイハイ、善処イタシマス…」


ヴェラ 「…どうかした?」


自分の部屋から出てきたヴェラが尋ねた。


今回の宿は寝室が二部屋あるスイート取れたので、ヴェラとリューは別々に寝ていた。


一部屋しかない(ベッドがひとつしかない場合)は、ヴェラが猫の姿になってリューにモフられながら寝るのだが。意外とモフ好きなリューは毎日それでもいいくらいなのだが。


ヴェラも、それが嫌というわけではないのだが、たまには一人でゆっくり寝たいという事で、部屋が在る時は別々に寝るのであった。


リュー 「ああ、すまん、起こしてしまったか?」


通信用の魔道具を切ってリューが言った。


ヴェラ 「大丈夫、もう起きるところだったから」


リューが亜空間に収納している小屋を出して泊まるのは快適だが、小屋では世話をしてくれる人はいないので、家事は全部自分でやる必要がある。それを従業員がやってくれる宿はやはり楽だとヴェラは言う。


と言っても食事はリューが収納している料理を出すだけであるし、クリーンの魔法があるこの世界では、やるべき家事はそれほど多くはないのだが。ゴミだってリューの収納魔法で瞬時に片付けられるのだから、リューは特に気にしないのだが……


やはりズボラなリューの性格では徐々に部屋は汚れていくし、クリーンの魔法だけでは片付かない家事もやはりあるので、毎日隅々まで綺麗にベッドメイクされているような部屋も気分が良いのは確かである。


まぁせっかく旅をして知らない街に来ているのだ、もともと小屋は、テントを張る代わりに使っているだけなのだから、できるだけ、旅先の宿を利用したいわけである。



   *  *  *



リューとヴェラが宿で三日目の朝食を摂っていた頃、領主の館では、ブリジットが領主の息子・トツテに詰め寄っていた。


領主のバラス男爵は「その件は息子に任せてある」と言うばかりで埒が明かないので、ブリジットはトツテを掴まえて問い詰めることにしたのである。


トツテ 「朝からなんなんだ、一体?」


ブリジットに押しかけられ、非常に不愉快そうなトツテ。だが、逃げ回ってなかなか捕まらないためブリジットは朝食の時間を狙って襲撃したのであるが。


ブリジット 「この街の警備兵の綱紀粛正についてだ。なんども伝えているはずだが?」


バラス男爵 「その件は息子のトツテに全て任セテオリマス。トツテ、ドウナッテイルノダ?」


トツテ 「(なんだこの女クソ偉そうに)ああ、報告は聞いていますよ。多少やんちゃをした兵が居たようですが。その件に関しては厳しく注意しておくよう指示を出してあります。それで問題ないでしょう?」


ブリジット 「多少? やんちゃ? そんな次元の話ではない。犯罪が恒常的に行われているようだが? 入城時の賄賂要求にセクハラ、抵抗した者は逮捕・暴行、あまつさえ殺人まで行われていたようだが? 注意で済む次元はとうに終わっている!」


トツテ 「ぐむぅ……」


ブリジット 「私は国王よりこの街の行政執行権を代行する権限を与えられて来ている。必要であればバラス家の執行権を停止し代わりに私がこの街の執政を代行する。この街の領主であるバラス家の対応如何では、バラス家の爵位剥奪まで行く可能性があるぞ!」


バラス 「それは困る! トツテ、直ちに問題に対処せよ!」


トツテ 「ぐむぅ……分かりました……」


だが、爵位剥奪を臭わせたのはブリジットの失敗であった。


バラスとトツテの目があう。そして、バラスが執事に目配せをした。



   *  *  *



領主の屋敷の執務室を出たブリジットと護衛騎士二名。だが、階段を降り、玄関前の広間に出たところで数名の騎士が左右から挟むように近づいてきた。


騎士 「待て!」


ブリジット 「……何か?」


騎士 「やりすぎましたな、コンステル卿」


ブリジット 「ほう? ならばどうする?」


騎士 「あなたを拘束させてもらう」


ブリジット 「私は王命によって来ている。私に逆らうという事は王に対する反逆とも取られるのだぞ!?」


騎士 「私は王に仕えているつもりはないのでな。それに……街の外で魔物に襲われて人が消える事など、珍しい事でもない」


ブリジット 「私を消せば問題ないと言うわけか。だが、私も近衛騎士団第二中隊隊長だ。捕らえる事ができるか、やってみるがいい」


取り囲んだ騎士達が剣を抜く。ブリジットの護衛騎士も剣を抜いた。だが、その瞬間、相手の騎士のリーダー格と思われる男から強烈な電撃攻撃が放たれた。


ブリジットの脇に立っていた護衛騎士は雷撃をまともに受けて炭になってしまった。


ブリジット 「サイデル! くっ、サンダーか!」


雷属性の魔法を使える者は珍しい。そして、雷属性の魔法の威力は強烈である。非常にまずい状況と言える。


サイデルが庇ってくれたおかげで雷撃の初弾を受けずに済んだブリジットは慌てて魔法障壁を展開。放たれた二撃目の雷撃を受け止めた。


しかし、完全な障壁を構築するまでには至らず、かろうじて持ちこたえてはいるものの、このままではいずれ破られてしまいそうである。


ブリジット 「アラハム、お前だけでも逃げろ!」


ブリジットは火球を放ち領主の屋敷の正面玄関を弾き飛ばした。


アラハム 「ブリジット様を残して行けません!」


ブリジット 「いいから行け! お前では奴の魔法に対抗できん! 応援を呼んでくるのだ!」


そういうとブリジットはアラハムを蹴り出した。


行かせるものかと領主の騎士達が追おうとするが、ブリジットが玄関に立ちはだかる。


不完全であっても近衛騎士であるブリジットの魔法障壁は堅かった。さすがはドロテア・リンジットの率いる魔法騎士団(魔法王国の近衛騎士団の別名)の一員である。


騎士 「一斉攻撃だ!」


だが一斉に攻撃魔法を打ち込まれ、その猛攻に耐えきれず、ついにブリジットの魔法障壁は砕けてしまった。


ブリジット 「くそ、完全な障壁を展開できていればこの程度の攻撃に負けることはないものを……


アラハム、頼んだぞ…」


魔法攻撃を受け吹き飛ばされたブリジットは意識を失ったが、既に屋敷の敷地内にアラハムの姿はなかった。


     ・

     ・

     ・


アラハム 「ブリジット様、必ずお助け致します、しばしのご辛抱を!」


だがどうする? アラハムは悩んだ。このまま王都に連絡を入れたとしても、王都から応援の近衛兵が派遣されてくるには数日掛かってしまう。そんなに待っていたらブリジット様がどうなるか分からない。


近隣で力になってくれる戦力は居ないか?


その時、アラハムはふと思い出した。ダヤンの街の城門前で、驚異的な力を発揮して警備兵百人以上を簡単に一蹴してしまった【賢者】の事を。


彼を探し出して協力してもらえれば、ブリジット様を助け出せるかも知れない。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


アラハム 「お助けを!」

リュー 「じゃぁ冒険者として依頼を受けてあげるよ」


乞うご期待!



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