第267話 アラハム、ブリジット救出をリューに依頼する

領主の騎士に捕らえられたブリジットは、最低限の治療だけされた上で、地下牢に閉じ込められた。


ちなみに、領主の館に宿泊していたはずのガーメリアであるが、既に街を出て王都に帰ったのであった。魔道士四天王とはこの国の内政を司る官僚のトップのような役職であり、王宮での仕事をあまり長期間放置しておく事もできなかったのである。王都の部下から戻ってくれと懇願の連絡も来ており、仕方なくガーメリアはリューの監視を暗部の人間に任せダヤンの街を出たのであった。


もし、ガーメリアが領主の館にまだ逗留まっていたならば、トツテもここまでの暴挙もできなかったであろう。


バラス男爵 「こんな事をして本当に大丈夫なんだろうな?」


トツテ 「このまま国王に事実を報告されたら親父は爵位を失うんだぞ?」


バラス 「お前がちゃんと警備隊を管理しておかんからこんなことになったんだろうが、お前の責任だ」


トツテ 「何言ってんだよ、警備隊が腐ってたのは俺が指揮官になるよりずっと前からじゃねぇか、俺のせいじゃねぇや」


バラス 「それを制御するためにお前に任せたんじゃないか」


トツテ 「腐ってた組織をそう簡単に立て直せるかっての。親父だって分かってて言ってんだろう? どちらにしても、コンステルを捕らえてしまった以上、もう後には引けないぜ、親父だって爵位を取り上げられたくはないだろ?」


バラス 「ぐぬう、どうする気だ?」


トツテ 「もちろん、コンステルには消えてもらおう。街の外を出歩いていて魔物に襲われて死ぬなんてよくある事さ」


バラス 「逃げた護衛騎士はどうする?」


トツテ 「そっちも居所は既に掴んでいる、奴はまだ街を出ていない」


バラス 「何? お前にしては随分手際がいいな?」


トツテ 「実は、例の冒険者を見張らせてたんだ。そしたら逃げた騎士がその冒険者と接触したと報告があった」


バラス 「既に王都に連絡済みなのではないか?」


トツテ 「その形跡は今のところ無い、ブリジットの通信機は押さえてある。高価な通信用魔道具を護衛騎士一人ひとりに持たせるわけないしね。だいたい、応援を要請したとて王都から援軍が来るまでに何日もかかる。逃げた騎士もブリジットが死んだとは思ってはいないはず、ならば早急に救出したいと考えているはずだ。そのためにあの冒険者の力を借りる気なのだろう」


バラス 「では早急に始末してしまえ、王に報告が行く前にな」


トツテ 「大丈夫さ、強力な手札を手に入れたじゃないか。ブリジットというカードをね。まとめて殺ってしまおう。あの冒険者は手強いと警備隊から報告が上がっているが、なに、侯爵に借りた騎士が居れば……」


トツテは警備隊長を呼び出し、ブリジットを人質にしてリュージ―ンを呼び出し殺す計画を指示した。しかしそれに警備隊長ナルダーは猛反対する。


ナルダー 「危険です! 奴には手を出さないほうがいい! つい昨日も、カルゴスがヤツに殺されたばかりだ! カルゴスは警備隊の中でも実力ナンバーワンだったのですよ。奴とは戦わないほうがいい! 敵対すれば殺されるだけです!」


トツテ 「大丈夫だ、お前たちでは歯が立たなくとも、ここに居るバルヴィンなら勝てる」


トツテが指したほうを見ると騎士が立っていた。ナルダーが見た事がない騎士であったが、どこからか助っ人を借りてきたのだろうとすぐに理解した。


ナルダー 「いや……誰を連れてこようが、奴には勝てない。奴は次元が違い過ぎる、あれは人間では勝てない。俺には分かるんだ……」


バルヴィン 「聞き捨てならんな。是非ともその男と対決させてもらいたいな。そうすれば、俺のほうが強い事が証明できるだろう」


ナルダー 「やるなら勝手にすればいい、俺達は降ろさせてもらう!」


言い捨てて去ろうとしたナルダーだったが、その背中をトツテが短剣で刺していた。


トツテ 「腰抜けはいらないんだよ。(一緒に来ていた副隊長のほうを見て)お前は、違うよな?」


副隊長サレイは隊長が殺されたのを見ても動じる事もなく、「任せて下さい」と言ってのけ、ニヤリと笑った。


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リューの宿に駆け込んできたブリジットの護衛騎士アラハムは、リュー達の朝の始動は遅かった事で、なんとか宿でリューをつかまえる事ができたのだった。


アラハム 「お願いです賢者様、助けて下さい!」


リュー 「? 賢者じゃないが、どうしたんだ?」


アラハム 「ブリジット様が警備隊の不始末と街の風紀の乱れについて領主の息子トツテを問い質したのですが…、その後、騎士達に襲われまして。なんとか私一人だけ脱出できたのですが、ブリジット様が……」


リュー 「殺されたか?」


アラハム 「いえ! きっとブリジット様は生きていると思います! ブリジット様なら……!」


リュー 「領主は…バラス男爵だっけ? 王命を受けてきた騎士に逆らうって事は、領主は王に反逆する気なのか?」


アラハム 「おそらくそうです。恐ろしく強い騎士が居た。ブリジット様の魔法障壁を破るなんて……現王を斃し国を乗っ取ろうとしている侯爵一派がいます、おそらく男爵もその侯爵の支援を受けているのでしょう」


リュー 「へぇ、ガレリア王国も内部は随分と荒れているようだな。随分風紀も乱れているようだしな?」


騎士 「申し訳ない、この国は他国との戦争が長く続き、荒れてしまっているのです。


今回、国内で王と敵対する勢力を牽制する意味も任務に含まれていたのですが、こうまであからさまに強引な手に出てくるとは予想外でして……


ブリジット様はおそらく領主の館に捕らわれていると思います。一刻も早く助け出さなければ!」


警備兵達を一人で蹴散らしたリューの力をその場で見て知っていたアラハム。リューの力を借りればブリジットを助け出し、反乱勢力を討伐できると考えたのであるが……。


リュー 「ああ、そう、大変だね。頑張ってね……」


アラハム 「手を、手を貸しては頂けないのですか?!」


リュー 「いや、逆になんで俺が手を貸す義理がある? ましてや王家と貴族の争いとなると、俺がどちらか一方に肩入れする理由がないんだが」


アラハム 「正義のために! このまま国が乱れれば、民が苦しみます。罪のない民が……」


リュー 「話がだんだん大きくなってるけど、この国の民の事を考える立場じゃないよ、俺は? この国の人間ですらないのだから。


だいたい、戦争ばかり繰り返している王に嫌気が差して、平和を望む貴族たちが王家を倒そうとしているのなら、そっちのほうが正しい事なんじゃないのか?」


アラハム 「誤解です、現王は戦争を望んではいません、現王が即位されてから戦争は一度も行っておりません。戦争を繰り返していたのは先代の王なのです」


リュー 「へえ。だがそう言われても、俺には関係ない事だしなぁ」


アラハム 「私一人ではブリジット様を助け出す事はできません、王宮に連絡して応援を派遣してもらうにしても、何日もかかかってしまうでしょう。その間、ブリジット様がどうなるか……殺されてしまうかも知れません! それでもいいというのですか?! どうか、どうか~っ!」


土下座を始めるアラハム。一応アラハムも騎士の爵位を持っている貴族である、それが平民に土下座するというのはなかなかない事であった。


リュー 「ブリジットは俺との約束を果たせなかったわけだしなぁ」


アラハム 「約束?」


リュー 「この街の不正を暴き、犯罪者には罰を下すと」


アラハム 「それを成すためにも、是非、お力をお貸し下さい、賢者殿の助力があれば、きっと約束を果たす事もできましょう!」


リュー 「うーん、まあ、じゃぁ、報酬を貰おうか、冒険者として依頼を受けてあげるよ」


アラハム 「本当ですか、では早速、救出作戦を立てましょう」


リュー 「その前に、報酬額を決めようか、冒険者に依頼を出すんだから当然だろう?」


アラハム 「それは、私の一存では決められませんが、王宮に言って、できる限りのお礼はさせて頂きますので」


リュー 「いくら?」


アラハム 「へ? ですからできる限り…金額は私の一存では……」


リュー 「それじゃぁ、後で金貨1枚しか出せないって言われても文句言えないだろう? 額をちゃんと決めておこう、そうだな、金貨1万枚でどうだ」


アラハム 「いっ、いちまんまい~?」


ヴェラ 「いちじゅうひゃくせんまん……日本円だと一億円くらいかしら?」


リュー 「というのは、命の安いこの世界ではボッタクリ過ぎかな、じゃぁ金貨千枚でいいや」


アラハム 「せ、千枚……でも十分高額ですが……」


リュー 「ブリジットの命の値段と考えれば安いもんだろう?」


アラハム 「むぅ……分かりました、金貨千枚、お支払いいたしましょう。もし王宮で認めてもらえなくとも、私の屋敷を売り払ってでもお支払い致します」


リュー 「よし、じゃぁ行こうか」


アラハム 「え? …どこへ?」


リュー 「どこって、領主の館だろ?」

 

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     ・


領主の館に向かったリューとヴェラと騎士アラハム。


アラハム 「どうやって救出するのですか? 何か良いアイデアでも…?」


リュー 「正面突破だな」


アラハム 「はい?」


リュー 「正面から押し入って、領主の館を制圧し、ブリジットを救出する。何か問題があるか?」


アラハム 「領主の館には領主子飼いの騎士が居ます、特にあの、ブリジット様が苦戦していた騎士達は……


…いや、賢者殿なら大丈夫なのか?」


リュー 「俺一人でも領主の館を壊滅させる事は可能だろう。賢者じゃないけどな、領主の館を壊滅させる賢者ってのもおらんだろ」


しかし、領主の屋敷に着いたものの、再び門番に門前払いを食うリュー達。


そんなものは力づくで押し通るつもりだったのだが、その時、屋敷の中から執事が出てきて言った。


執事 「リュージーン様、トツテ様から手紙を預かっております」


渡された手紙には、ブリジットを街の外の森で処刑する。助けたければ護衛騎士と一緒に来い。と書かれていた。


リュー 「対応が早いな」


ヴェラ 「口封じにさっさと殺してしまうため……?」


アラハム 「くそっ! ブリジット様、今助けに参ります……」



― ― ― ― ― ― ―

 

次回予告

 

ヴェラ刺される

 

乞うご期待!



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