第268話 ヴェラ刺される

リュー 「面倒な連中だなぁ。付き合いきれなくなってきた。ちょっと手抜きさせてもらおうか。ヴェラ、少しの間集中する、周囲の警戒を頼む」


ヴェラ 「りょー」


次元障壁で周囲を囲っているので問題はおそらくないのだが、せっかくヴェラが居るのだから一応頼んでおく。


そして、リューしばし虚空を見つめて動かなくなる。


神眼を発動し、街の外、ブリジットの居場所を捕捉する。リューが手を翳すと、数メートル前の地面に魔法陣が浮かび、その上にブリジットが現れた。


アラハム 「おお、ブリジット様!」


転移でブリジットだけを移動させてしまったのである。今頃森の中では人質が居なくなって騒ぎがおきているだろう。


ヴェラ 「大丈夫?」


近くに居たヴェラが短剣を抜き、ブリジットを縛るロープを切った。


アラハムが駆け寄ってくる。ブリジットがアラハムを見て笑顔になる。


だがその時、ブリジットが隠し持っていたナイフを抜き、ヴェラの腹部に突き刺したのだった。


ヴェラ 「……え?」


アラハム 「ブリジット様?」


ヴェラを刺したブリジットは笑顔のまま振り返ると、今度はリューに向かってナイフを突き出した。


だが、ブリジットのナイフがリューに届く前に、ブリジットの首が胴体から切り離される。リューが次元断裂で頸を斬り落としたのである。


リューは慌てる事なく即座にヴェラの身体の時間を巻き戻して傷を治す。


その横でアラハムがブリジットに駆け寄り叫んでいた。


アラハム 「ブリジット様! 何故!? どうしてこんな……はっ? まさか!!」


アラハムは頸を失ったブリジットの胸のあたりにチラリと見えた入れ墨のような模様を発見したのだ。


アラハム 「これは! リュー殿! 賢者様、どうかブリジット様を生き返らせて下さい! ブリジット様は隷属の魔法で操られていたのです」


それを聞いたリューはとりあえず、ブリジットの時間も巻き戻し生き返らせた。生き返らせるのにはタイムリミットがあるが、直後だったので問題ない。敵だったとしてもまた殺す事もいつでもできる。


頸が元に戻り、息を吹き替えしたブリジットであるが、落ちていたナイフを拾おうとした。それを慌ててアラハムが羽交い締めにする。


見れば、身体は暴れているが、ブリジットは涙を流していた。


いつぞやリューも体験したが、隷属の魔法に掛かると、自分の心とは無関係に命令に従って身体が動く。自分の心はそのまま残っているので、意に反した行動を命じられると非常に辛い思いをする事になるのだ。


隷属の魔法というのは、極めて非人道的な魔法であるが、人権意識の非常に低いこの世界ではあまり問題とされる事はないようであった。


リュー 「首輪は着けていないが? 首輪を使わない隷属の魔法があるのか?」


アラハム 「これを見て下さい、首輪の代わりに、このような紋章を身体に刻印する方法があるのです」


アラハムがブリジットの服の首のあたりを引っ張ると、鎖骨の下辺りに入れ墨のような紋様が入っているのがリューにも見えた。


リュー 「俺達を殺せと命じられていたのか。まさか奪還されるところまで計算していたのか?」


ヴェラ 「こちらが手強いのを計算して、二重三重に罠を張っておいたというところかも知れないわね」


刺された腹部を擦りながらヴェラが言った。治癒魔法ではなく時間を巻き戻しているので、傷なども一切残ってはいないのだが。


アラハム 「隷属の術を掛けた者を探し出して術を解かせる必要があります。それまでブリジット様を拘束して閉じ込めておくしかないでしょう」


リュー 「その必要はない、俺がやってみよう」


リューがブリジットの紋章に手を翳す。すると、紋章は薄れて消えて行った。リューが隷属の魔力を分解してしまったのである。


アラハム 「隷属の魔法まで使えるのですか……さすがは賢者様だ!」


リュー 「賢者じゃないつーの」


ブリジット 「う……ああ! 申し訳有りません、賢者様! 不覚にも敵の手に落ち、隷属させられてしまい……」


隷属の魔力から解放されたブリジットが跳ね上がり、ジャンピング土下座を始める。


リュー 「ああ、話は後だ。奴らを先に始末しよう。奴らはヴェラと俺を殺そうとした。もう手加減する必要はないな。全員殺す」


膨大な殺気を放ちながら不敵に笑うリューに、ブリジットもコクコクと頷くしかできなかった。


リュー 「では行ってくる」


リューの足元に魔法陣が浮かび、リューの姿が薄れ、消えていった。ブリジットが連れて行かれた森の中に転移したのだろう。


ブリジット 「…………は、私達も行きましょう!」


アラハム 「は、はい!」


慌ててブリジット達も街の外の森へと走るのであった。



   *  *  *  *



森の中ほどに開けた場所があった。そこに領主の騎士達、そして街の警備兵達の大部分が集められていた。


最初、広場の中央にトツテと騎士達、そして縛られたブリジットが立たされており、警備兵達は森の中に隠れていた。


だが、突然、ブリジットの足元に魔法陣が浮かび、ブリジットの姿が薄れて消えてしまったのである。


突然人質が姿を消してしまい、慌てる騎士達とトツテ。


トツテ 「馬鹿な、おいどうしたんだ?! ブリジットが消えてしまったぞ! どこへ行ったんだ?!」


騎士バルヴィン 「まさか……転移魔法だと?」


トツテ 「何言ってるんだ、そんな魔法は子供向けのお伽噺にしか出てこないぞ?」


バルヴィン 「だが、人質は消えた。転移魔法かどうかは分からんが、消えたのは事実だ……。


…相手は噂通り、なかなかの実力のようだな。楽しませてくれそうだ」


だが、人質が居なくなってしまっては、作戦は失敗であろう。ブリジットを奪い返したのがリューだとしたら、リューが態々この場所に現れるはずがないのだから。


どうすべきか、撤退すべきかとトツテと騎士達が話し合う。


森に隠れていた警備兵達もなんとなく異変を感じ広場に出てきていた。


そこに、魔法陣が浮かび、リューが転移で現れた。


リュー 「帰るのか? せっかく来てやったのに」


トツテ 「誰だ! …そうか、お前がリュージーンか。一人で来たのか? ブリジットの護衛の騎士はどうした?」


リュー 「俺は怒っているんだ。お前とくだらん問答をするつもりはない。お前たちは俺を殺そうとしたのだろう? ならば、もう手加減は無用だな、全員殺してやる」


トツテ 「たった一人でどうするというのだ? ここには街の警備兵のほとんどを集めてある。騎士団も居る。お前に勝ち目などないぞ?」


リュー 「この程度の人数、俺一人でも瞬殺できるが……


…そうだな、いい加減、煩くてかなわんから、使ってやるか」

 

トツテ・バルヴィン 「?」


リュー 「出てこい、ランスロット!」


リューがランスロットと呼んだ相手は、宿で朝、リューが話していた相手である。



― ― ― ― ― ― ―

 

次回予告

 

警備兵・騎士団ついに殲滅される

 

乞うご期待!

 

 

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