第269話 殲滅

リューの掛け声で森の広場を埋め尽くすように現れたのは、鎧を身にまとった骸骨の兵士達……


以前不死王に貰ったアンデッド軍団レギオンである。


トツテ 「魔物?!」


バルヴィン 「スケルトンだと?!」


既に警備兵達も騎士達も、突然姿を現したスケルトン兵達によって首に剣を突きつけられている状態であった。


その時、リューの近くに現れた金色のスケルトンが喋り始めた。


金スケルトン 「お初にお目に掛かります、私、リュージーン様の部下、アンデッド軍団レギオンのリーダー、ランスロットと申します」


トツテ・バルヴィン 「喋った?!」


ランスロットは思いのほかイケボであった。


そう、この金色のスケルトンは喋るのである。


レギオンのリーダー・ゴールドスケルトンナイトのランスロットは、せっかくリューの部下になったのにまったく自分達を使ってくれない事に度々不満を訴えていたのである。


ほとんどの問題において、リューは一人で対処できてしまうので、彼らの出番がなかなかないのは仕方がないのだが。


不死王にも愚痴っていたらしく、先日とうとう不死王からもたまには使ってやってくれと言われてしまったのだ。


仕方なく、リューは今回レギオンを使ってみる事にしたのだ。


もともと、リュー一人では守りきれない事があるだろうと不死王がくれたのがレギオンである。今回、ヴェラが刺されてしまった事もあり、リューもやっと使ってみる気になったのであった。


ランスロット 「せっかくお目にかかれた所、残念ですが、主の命を狙った不届者達は、全員、死んでモライマス……」


突然ランスロットから恐ろしい殺気が放たれ、全員息を飲んだ。


リュー 「まだ殺すな。あれだけ警告したのに懲りなかったのだ、簡単に殺さず、そうだな、まず手足から斬り落としてやれ」


バルヴィン 「キサマ……死霊使いネクロマンサーだったのか」


リュー 「違うけど……まぁどうでもいいだろ? これから全員死ぬんだから」


バルヴィン 「舐めるなよ、|雑魚モンスターをいくら集めたとて我々の敵ではないわ!」


スケルトンは死霊系ダンジョンによく出る魔物であるが、駆け出しの初心者ならいざ知らず、中級以上の冒険者であれば苦戦するような相手ではない。腕の覚えのある騎士達である、多少数が多かろうと敵ではないと判断したのだろう。


バルヴィンが手を前に出し魔法攻撃を発動しようとする。バルヴィンの部下の騎士達も同様に魔法を使おうとした。強力な攻撃魔法で一気に片付けてしまうつもりである。


……だが、魔法は発動しなかった。


バルヴィン 「な……なんだ? なぜ魔法が発動しない?」


リュー 「俺は魔法を無効化する能力ちからを持ってる。この場に居る者は今、全員魔法が使えない状態だ。つまり…物理で勝負するしかないな」


バルヴィン 「なんだと~有りえん、そんな魔法聞いたこともない」


リュー 「ランスロット、もういいだろ、やっちゃって」


バルヴィン 「舐めるな、例え魔法が使えなくとも、我らも騎士、剣技だけでも十分戦えぇるぐぅわぁぁぁぁ」


大口を叩いた割にはあっさりとスケルトン達に敗れて手足を切り飛ばされ地面に散らばるバルヴィン達であった……。(簡単に殺さないように、手足を狙うように指示してあった。)


ランスロット 「我々をただのスケルトンだと思われては困りますな。不死王様にスケルトンにして頂いて数千年、鍛え上げたそのレベルは、並のスケルトンとは違うのだよ」


次に、金色に輝くスケルトンの顔が警備隊のほうを向いた。


それを見た警備隊の隊長が声を発した。


隊長 「待ってくれ! 俺達は命令されて仕方なく従ってただけなんだ!」


リュー 「前に一度警告したはずだ、二度目はないと。どうしても嫌だったら警備隊を辞めるとか命令拒否するとか選択肢だってあったはずじゃないか?」


隊長 「み、みんな家族が居るんだ! 家族を養うために仕事を失うわけにはいかなかったんだよ!」


リュー 「ほう、それじゃぁ仕方ないか……なんてな、嘘つきめ」


隊長 「嘘じゃない、本当なんだ」


リュー 「知っているぞ? 本当に家族がいる者はここに来る前に全員辞めている。ここに居る者のほとんどは独身で家族など居ない」


実は、あのリュージ―ンを呼び出して殺すという計画を聞かされて、警備兵のうち三割近くが命令を拒否して退職したのだ。本当に守らなければならない家族が居る、自分が死ぬわけには行かない者達は、仕事を手放す選択をしたのだ。


ここに来ている警備兵はそのほとんどが家族が居ない者か、家族を養う義務の無い者達であった。この者達は、どうせ責任は命令した者にあるのだから、自分達は上手く切り抜けられると甘い考えで、待遇の良い警備兵の仕事を手放すのを拒否したのだった。


隊長 「な……ぜそれを」


もちろん、リューの神眼が隊長の心を読んだのである。


リュー 「嘘つきは苦しんで死ね」


その言葉とともに、警備兵達は全員スケルトンに手足を斬られて血の海に沈んで行く。森の中の広場は突然血の池地獄と化してしまった。


全員致命傷ではないが、しかしすぐに出血多量で死ぬだろう。回復魔法を使える者は止血して命を永らえるかも知れないが、手足の欠損を再接合できるような回復魔法を使える者は居ない。(そのような能力があれば警備兵などやっていないはずである。)


仮に治療して出血で死なずとも、魔獣の闊歩する森の中で手足を失って生きてはいられないだろうから、早めに意識を失ったほうが楽に死ねるだろう。


その中で、トツテ一人だけはいまだ無傷で立っていた。そのトツテにリューが近づいていく。


リュー 「お前がトツテか?」


トツテ 「ひっ…!」


リュー 「ブリジットに隷属の魔法を掛けたのはお前か?」


トツテ 「…ぉ、俺じゃない」


リュー 「誰だ?」


トツテ 「こ、侯爵に借りた魔法使いだ」


リュー 「あー、実行犯じゃなくて。隷属の魔法を使うよう命じたのはお前か? そして、俺を殺すよう命じた?」


トツテ 「……」


リューが光剣を抜き一閃すると、トツテの腕が切り飛ばされた。


トツテ 「ぐ……お、俺だ、俺が、命じました」


さらに三度、リューの剣が閃き、トツテの四肢が切断された。


リューはそのまま手足を失ったトツテを放置して帰る事にした。


光剣で切断されると瞬時に傷口が焼灼されるため出血で死ぬ事はない。


血の海となった森の中の広場。他の者は全員、出血多量で既に意識を失っており、ほどなくして死を迎えるだろう。だがトツテはすぐには死ぬ事はできない。血の海の中で斬られた手足の痛みに悶え続けるのだ。とはいえ、それも長くはないだろうが。


やがて血の臭いに誘われて獣や魔物が寄ってくるだろう。その魔物達に食い殺されて死ぬ事になるが、それも自業自得、リューを怒らせてしまった者の末路である。


特に隷属の魔法を使ってリューの近しい人を傷つけるという、リューの逆鱗に触れるような事をしてしまったのだから……


     ・

     ・

     ・


そこにようやく、ヴェラとブリジット、アラハムがやってきた。


兵士達の手足がバラバラになった死体とおびただしい血の海、そしてその中に佇む骸骨の兵士達を見て、三人は閉口した。


ブリジット 「……全員、殺したのですか?」


リュー 「言ったろ、二度目はないと」


ブリジット 「ああ……ソウデスネ、仕方がないですね……私も部下を一人失いましたし。国に対する反逆罪です、全員処刑で問題ない…ですね…」


アラハム 「あの、その、魔物は……賢者様の、仲間? なのですか?」


リュー 「ああ、俺の……従魔だ。それと賢者じゃない、リューでいい」


アラハム 「従魔? スケルトンが?」


リュー 「別に、従魔を連れている冒険者など、珍しくもないだろう?」


ブリジット 「さすがに、アンデッド系モンスターを獣魔にしている者というのは聞いた事はないですけどね……」


ランスロット 「ランスロットと申します、以降お見知りおきを」


金色のスケルトンが恭しく頭を下げた。


ブリジット・アラハム 「しゃべったー!!」



― ― ― ― ― ― ―

 

次回予告

 

おしゃべりガイコツ

 

乞うご期待!

 

 

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