第270話 おしゃべりなガイコツ

森の広場から街に戻る道中。


ヴェラは森まで走らされて疲れたので猫の姿になってリューの肩の上に居すわっているのだが。落ちないように、リューの服に爪を掛けている。当然リューの身体に爪が立てられる事になるのだが、次元障壁を体表に沿って纏っているためまったく問題ない。


(リューの次元障壁のコントロールは一段と精妙・自動化されており、皮膚に沿ってほぼ無意識で纏わせておけるようになっていた。)


森の中の広場は大量の警備兵と騎士の死体が散乱している状態であったが―――リューはそんなものは放置して帰るつもりだったのだが―――街からそれほど遠い森というわけではないので、死体を放置しておくと魔物を呼び寄せたりアンデッド化する可能性もあると言うことで、処分したほうが良いとブリジットが言う。


だが、それを聞いたランスロットが自分たちに任せろと言うので全部スケルトン軍団レギオンに任せてしまう事にした。


どうするのか、リューがこそっとランスロットに尋ねてみたところ、死体は全部アンデッド化してスケルトン軍団に繰り入れるらしい。


ただ、レギオンに所属できるのは長い年月を経て高レベルに成長したスケルトンだけなのだそうで、“生まれたて” のスケルトンは全員不死王のダンジョンに送られ、数百年か数千年か、レギオン予備軍として鍛えられる事になるらしいが。


死体の中にはまだ半死半生の状態のトツテも居た。獣に喰われて死ぬのを待つ事が “お仕置き” であったのだが、どうやら気を失ってしまったようなので、後の処理はスケルトンに任せる事にした。殺してアンデッド化するのか? どうするのかはリューは聞かなかった。


ブリジット 「しかし、街の警備隊は全滅ですか……街の運営に支障が出そうですね。王都から応援を送ってもらうにしてもかなり時間が掛かるでしょうから、その間、街の住民に負担が生じるかも知れませんね」


リュー 「全滅ではない、城門の番に何人か残してあるようだ。それと、事前に警備隊を辞職した人間が三割ほどいるようだから、その者達を再雇用したらどうだ?」


ブリジット 「その人数では、これまで通り治安を維持するには少し心もとないですね」


アラハム 「領主の騎士団が居るはずです、今日出てきていた騎士達はおそらく反王派の侯爵の手の者だと思われますので」


リュー 「だが、そもそも、その騎士達は素直にブリジットこちらの指示に従うのか? 領主子飼いの騎士なんだろう? 領主の返答次第では、そいつらも全員殺してしまう事になるかも知れんしな」


そう、まだこれで終わりではない。リュー達は領主の元にこの件の始末けりをつけさせに向かっているところなのである。


ブリジットを奪還した時点で冒険者として請けたリューの仕事は完了である。


その後の警備隊と騎士達の殲滅はリューの個人的な行動となる。リューを殺そうとしたのは何度目か、リューも堪忍袋の緒が切れたというところであった。


特に、ヴェラを刺したのは完全に失敗であった、リューの逆鱗に触れてしまったのである。ヴェラが姉であるという事ももちろんあるが、やはり、リューの中で、ミムルの街の家族=シスター・アンと子供たちを殺された事は、ずっと心のしこりとしてどこかに残っていたのだ。


リュー個人は誰にも負けない、それこそ世界を一人で滅ぼす事さえその気になれば可能なのだろうが、リューの大切にしている人間に危害が及ぶとなると、それを防ぐのは難しくなってくる。それがずっとリューの心に引っ掛かって残っていた。それが仲間を作らず孤独に生きていこうとする理由でもあった。


不死王がレギオンをリューにくれたのもその限界を指摘しての事であったし、ランスロットに何度も苦情を言われていたのもあったのだが……


どこか、リューは自分一人だけで解決しようと意固地になっている部分があったのだ。


だが、今回ヴェラが傷ついた事で、リューもレギオンを使ってみる気になったのであった。


とりあえず、ヴェラの護衛にスケルトンを何体か常時着けておくようランスロットに指示した。スケルトンは普段は亜空間内に居るので姿が見えないし触れる事もできないのだが、常時傍に控えていて守ってくれるらしい。ランスロットの部下の中でも精鋭を着けておいてくれるそうなので安心である。


それはともかくとして、リューは領主に、仲間を傷つけようとした事の報いは受けさせるつもりである。ブリジットも、領主が王に対して反逆の意志を示すならば討伐する必要があるので、利害は一致し、領主の館に向かっているわけであるが……


リュー 「ところで、オマエはずっとそのままついてくるのか?」


街に向かって歩いているのは、リュー、リューの肩の上にいるヴェラ、近衛騎士中隊長ブリジット、近衛騎士アラハム。そして、もう一人。金色のスケルトン、ランスロットであった。


(※ヴェラはまだ猫のままであった。森まで走って疲れてしまったので、猫化してリューの上に乗っかって楽しているのである。)


実は、森での “事” が終わった後、姿を消すと思っていたスケルトンのリーダーが、姿を現したままリュー達と一緒にずっと歩いているのである。


ランスロット 「はい、この機会を逃すまいと思いまして」


リュー 「?」


ランスロット 「しかし、やっと我々を使って下さいまして、私めは大変嬉しゅうございます」


リュー 「……初めて見た時は “金色骸骨” かと思ったんだが、それよりも、スターバトルのイリアルだな」


ヴェラ 「アタシも似てると思ったにゃ」


「金色骸骨」は日本の古いアニメ、「スターバトル」は地球で大流行したSF映画である。イリアル(ILIR)はスターバトルに登場する全身金色の人型通訳ロボット(星間言語通訳ロボット=Interstellar Language Interpreter Robot)であった。


「金色骸骨」は金色の骸骨の仮面を被っているだけで中身はマッチョボディの無口なヒーロー、イリアルは細身でやたらおしゃべりなロボットである。妙にイケボで丁寧な口調だがよく喋るランスロットはイリアルに雰囲気がよく似ているのだ。


ただ、映画の通訳ロボットは通訳以外何の能力もないが、ランスロットはおそらく世界最強レベルの強者(ただしリューを除く)である点は大きく異なっているが…。


ブリジット 「賢者さ、いえリュージーン様は死霊術まで使えたのですね……さすがです。ちょっと恐ろしいですけれど」


リュー 「様も要らない。ちょっとコネがあってな」


ブリジット 「コネ???? ああ死霊術を教えてくれる師匠が居たと言う事ですか?」


リュー 「俺は死霊術は使えない。いや、今なら使えるかも知れないが(※)」


※リューは自分が死霊術ネクロマンスを使うなど考えた事もなかったのだが、不死王に貰った闇属性の仮面を着ければ、おそらく闇属性の魔法は使えるはずである。


リュー 「スケルトン達は、ある人に貰ったんだよ」


ブリジット 「????」


リュー 「んー、まぁ何でもいいや」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


ランスロット 「とりあえず、領主を〆に行きましょう」


乞うご期待!




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