第271話 骸骨「とりあえず、領主を〆に行きましょう」

城門に辿り着いた一行。


だが、門番の警備兵達は剣を抜いてリュー達に向ける。その顔には恐怖の表情が浮かんでいた。


殺された警備兵達の仇討ちか? 向かってくるなら仕方がない、殺してしまおうか……


とリューは一瞬思ったが、よく見たら警備兵達の目線はリューではなく、斜め後ろに立っている金色のスケルトンに向けられている事に気がついた。


接近して来るスケルトンに警備兵はどんどん後退っていく。今にも持ち場を放棄して逃げ出してしまいそうである。


ブリジット 「待て、危険はない、コレ・・は “従魔” だ」


警備兵A 「じ、ゅ…う魔???」


リュー 「従魔を連れている冒険者なんて珍しくもないだろう?」


警備兵B 「アンデッドの従魔など聞いた事もないわ! しかもその色、その禍々しい雰囲気! スケルトンの上級種か変異種か? どう見ても危険な奴だろう?!」


警備兵A 「お、お前はテイマー、いや、死霊術師ネクロマンサーなのか?」


リュー 「いや、そうではないんだが…」


ブリジット 「この方は賢者だ、凡人の常識など超えておられるのだ」


警備兵A 「賢者…? …ほ、本当に大丈夫なのか?」


リュー 「賢者ではないが大丈夫だ。なぁ?」


ランスロット(イケボ) 「初めまして、ランスロットと申します。ああ、そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ、あなた方に危害を加えるつもりはありません」


警備兵ズ 「……しゃべったー!」





結局、スケルトンを従魔にしてはいけないという規則はないので、通常の従魔と同じ扱いにするしかなく、従魔の印をランスロットの首から下げる事で入場を許される事になったのだが……


禍々しい雰囲気を隠そうともしないスケルトンが街を堂々と歩いていると、通行人が引きまくる。ランスロットが発する不穏な空気感は抑えるようにリューは言ったのだが、それでも外見だけでも十分恐怖の対象なのはどうにもできない。


一瞬体を強張らせるも、従魔の印を見てなんとか踏みとどまる者もいるが、悲鳴をあげて逃げていく者のほうが多いようだ。街の中にアンデッドが出たと警備隊に連絡をしに行った者も居たようだが、警備隊は今や壊滅状態で機能していないので意味がない。


リュー 「で、お前はこれからずっと帰らずにくっついて来るつもりなのか?」


ランスロット 「はい、私達が如何に優秀であるか、主に理解して頂けるよう、誠心誠意働かせて頂く所存です」


リュー 「んー、俺はまぁいいんだけど……世間の動揺が激しいようだ。服でも着せて誤魔化すか」


スケルトンナイト種なので骸骨の上には鎧を着て帯剣しているのであるが、鎧はそれほど大きなものではないので中身が丸見えである。すっぽり服を着せてしまえば誤魔化せるようになるだろう。


ヴェラ 「カツラに仮面もつければパッと見、分からなくなるにゃ」


リュー 「全身鎧でもいいかも知れないな、フルフェイスの兜付きで。服屋か防具屋に行って適当に見繕ってみるか」


ランスロット 「主よ、今はまず、領主を “〆る” のが先でございましょう」


リュー 「まぁ、そうだな」


街の住民の悲鳴は絶えないが、警備兵も居ないし、放っておいても問題ないだろうと、このまま領主の館に向かうリュー達であった。



   **  ***  **



領主の館に着いた一行、しかし、スケルトンを見た門番の反応も城門の警備兵と大差なく、悲鳴を聞いてすぐに騎士達がやってきた。


領主の騎士 「これは、コンステル卿?」


騎士はランスロットの従魔の印をジロリと見た。


騎士 「妙な顔ぶれでのご来訪ですが、何か御用でしょうか?」


ブリジット 「領主に会わせてもらおう」


騎士 「あいにく、領主様からしばらく誰も入れるなと命じられておりまして。コンステル卿と言えども通すわけにはいかないのです、申し訳有りませんが」


ブリジット 「誰も入れない理由はなんだ? 一体バラス男爵は何をしているのだ? 私は王命により来ているのだぞ? 王命に逆らうという事か?」


騎士 「それは、我々にはなんとも……我々は命令に従うだけでございますので」


ブリジット 「コンステルが来たと領主に伝えて確認してくるがよかろう!」


騎士 「いえ、既に確認した結果の指示でございまして」


ブリジット 「ほう、私を門前払いしろと言ったか」


騎士 「まことに申し訳有りませんが……」


リュー 「もういいよ、面倒だ、直接会いに行こう」


騎士 「どういう意味でしょうかな?」


騎士がリューをジロリと睨む。


騎士 「無理に通ろうとは思わないほうがよいと思うが?」


騎士は貴族であるブリジットには敬意を表していたが、いかにも平民の冒険者という風体のリューに対しては、あからさまな威圧を発してきた。とはいえ、リューはどこ吹く風とまったく意に介していないのであったが。一応、騎士としては目一杯の威圧であったのだが……。


リュー 「そんな必要はないよ」


その瞬間、リュー達の足元に魔法陣が浮かぶ。


一瞬の目眩のような感覚とともに景色が一瞬にして変わった事に驚くブリジット。


ブリジット 「おお、これは……転移? さすが、賢者様、規格外でございますね……」


転移したブリジットの目の前には、突然現われたリュー達を見て驚愕の表情をしている領主のバラス男爵が居た。



   *  *  *  *



少し前、領主は一人の魔法使いウィザードから報告を受けていた。


その魔法使いはブリジットに隷属の魔法を掛けた闇属性のウィザードである。


そのウィザードはどうやらリュー達の森での戦いを―――戦いと言えるようなものではなかったが―――何らかの方法で観察していたようで、その顛末をバラスに報告していた。


そこでバラスは息子がおそらく殺され、ブリジットが救出された事を聞かされた。自分の長子の死にショックを受けるかと思いきや、バラスはそうかと言っただけで特に動揺した様子は見せず、むしろブリジットが生き延びてしまった事に困惑の表情を浮かべていた。


報告したウィザードも、家族・親族も政争の道具、そんな貴族を何人も見てきたので、そんなものかと思うだけであったが。


その時、執務室の床に魔法陣が浮かび、リュー達が転移してきたのだった。



   *  *  *  *



バラス男爵 「なっ?! お前たち、どこから入ってきた?! ひっ、スケルトン?!」


後退るバラス。(いつのまにかウィザードは姿を消していた。)


ランスロット 「お初にお目に掛かります、バラス男爵ですね? 私ランスロットと申します、以降お見知りおきを」


バラス 「ひぃぃっ!」


一歩前に出てきた金色のスケルトンの禍々しい迫力に気押され、怯えて尻もちを付いたバラス。


リュー 「トツテは死んだぞ、俺が殺した」


ランスロット 「正確には殺したのはスケルトンの兵士ですが。ご子息を亡くされた男爵サマにはご愁傷サマデスガ。ご子息の魂は我々が責任を持って鍛え直させて頂きますのでご安心下さい」


バラス 「何を言ってるのかよく分からんが…そうか、奴は死んだか」


ブリジット 「あまりショックは受けていないようだな」



― ― ― ― ― ― ―

 

次回予告

 

リュー 「有罪ギルティ

 

乞うご期待!

 

 

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