第262話 賭け試合開始~圧勝で終了。しかし?!

ゴングが鳴った。


対戦相手の大男、ゴルガがリューに近づいて来る。


ゴルガ 「一発で終わらせてやる」


まずはゴルガのパンチがリューの顔面に向かって飛んで来る。


リューはそれを手の平で受け止める。


あっさりパンチを受け止められ驚くゴルガ。


しかも、リューは巨体のゴルガのパンチを受けてもまったく揺るぐ気配もない。逆に、ゴルガの拳に伝わるその感触は、巨大な岩山でも殴ったような異様な重さであった。


ゴルガの体重は百八十キログラム。


体格的に見れば、ゴルガはリューの三倍ほど大きい(重い)のだ。これだけの体重差があると、仮に受け止めたとしても、体ごと浮いて後ろに飛ばされてしまうのが普通である。


……普通の人間であれば。


だが、竜人の筋肉は人間の筋肉の二~四倍の重さがある。つまり、リューの体重は見た目より二~四倍重いのである。


実は、リューの体重は素の状態で二百キロ以上あるのであった。


巨体のゴルガは、自分より重い相手と殴り合った経験がほとんどない。しかも、見た目と実際の重さのギャップが大きすぎである。ゴルガも見ている人間達も妙な感覚に陥ってしまうのであった。


ゴルガ 「おめぇ…何モンだ?」


そのままゴルガの拳を握りつぶしてやろうかと力を入れたリューだったが、危険を感じたゴルガが拳を引いたので逃げられてしまった。ゴルガも戦い慣れているのだろう、なかなか良い勘である。


だが、センスが良いが故に、ゴルガはたった一発のパンチを受け止められただけで警戒を強めざるを得なくなった。結果、ゴルガの勢いは削がれ、一歩後退って動きが止まってしまったのであった。


ヤン 「どうしたゴルガ! さっさとやってしまえ!」


その声にはっとしたゴルガが慌ててもう一度パンチを繰り出すが、リューはそれを上からはたくように手の平で撃ち落とした。リューとしては軽く払っただけであるが、重い衝撃を腕に感じ、ゴルガの攻撃が再び止まってしまう。


ゴルガがあまり攻めてこないので、今度はリューが前に出ていく。


まったくゴルガを恐れる様子もなく無造作に近づいて行くリュー。ゴルガの射程距離に入る。このままではすぐにリューの攻撃の射程距離に入ってしまう。堪らずゴルガが再びパンチを繰り出すが、一瞬早くリューのジャブがゴルガの顎を打ち抜いていたのであった。


頭を揺らされたゴルガはカクンと膝を着く。


リューのパンチはハンドスピードが速すぎて、パンという乾いた音だけで何が起きたのか誰も見えていないという状態であった。


ヤン 「どうした?! 何があった?!」


ボクシングの試合ではないので、膝をついたからといってカウントを取られるわけではない。ルールとしては、どちらかが戦闘不能に陥るか、降参するまで試合は続く。脳震盪を起こして立てなくなっているゴルガは格好の的である。


が、しかし、リューは再びゴルガが立ち上がるのを待ってやった。


ゴルガ 「くそっ、足が滑っただけだ」


ゴルガが負け惜しみを言う。


リュー 「そうは見えなかったがな?」


あるいは本当に、顎を撃ち抜かれた事に気づいていないのであろうか?


なんとかゴルガが立ち上がり、再び向かい合う二人。だが、次の瞬間にはゴルガは再び膝を着く事にになってしまう。


恐ろしいスピードでゴルガの顎のすぐ横に伸ばされたリューの拳が、ゴルガの顎を引っ掛けながら瞬時に引き戻されたのである。


腕の動きが高速過ぎて、何があったのかゴルガにもギャラリーにもよく見えない。だが、超高速で顎を揺らされたゴルガは再び脳震盪を起こして立っていられない。


ヤン 「ゴルガ! 何をやっとる! 大金がかかっとるんだぞ! 真面目にやらんか!」


だが、連続して脳を激しく揺らされたゴルガは平衡感覚を完全に失っており、マットの上でもがいている。


ゴルガ 「くそがっ!」


世界がグルグル回ってとても立ち上がれる状態ではなかったのだが、それでもゴルガは意地で、よろけて倒れ込みながらもリューに向かってタックルしてきた。


だが、それで勝負が終わってしまった。


タックルしてきたゴルガの顔面にリューの膝が突き刺さっていた。


そのままゴルガは崩れ落ち、土下座するような姿勢で動かなくなったのだった。


リュー 「しまった、咄嗟に膝を出してしまった…。もっとじっくり遊ぶつもりだったんだがな…」


ヤン 「馬鹿な~~~ありえん! 何をしている! 立て! 立つんだゴルガーッ!」


リングサイドに駆け寄ったヤンがまるで片目眼帯の親父オヤジのようにマットをバンバン叩くが、ゴルガが起きる気配はない。


リュー 「俺の勝ちだな」


リングの上から不敵な笑みのリュー。


騒ぐのをやめ動きが止まったヤンが、ゆっくりとリューを睨んだ。 


ヤン 「……認めん……」


リュー 「ん?」


ヤン 「こんなもの! 認めない! この勝負はなしだ! お前は何か卑怯な手を使ったに違い無い! お前の反則負けだーっ!」


リュー 「おいおい、これだけ大勢の人間が証人として居るのに許されると思うのか?」


ヤン 「ふん、どうかな? おいお前ら、どうだ? 俺の判定に異議があるか?!」


だが、ギャラリーからは何の声もあがる事はなかった。


ヤン 「俺が白いモノでも黒と俺が言えばそうなるんだよ、ここに居る奴で俺に逆らう奴はいない。俺はそういうポジションの人間だってわけだ。諦めるんだな」


リュー 「やれやれ、全員グルってわけか。だが、俺が大人しく言うことを聞くと思うのか?」


ヤン 「馬鹿め、お前の首に嵌っているのは魔法を封じる首輪などではない、隷属の首輪だ! それが在る限り、お前も俺には逆らえないってわけだ」


リュー 「試合が終わったら外れるんじゃないのか?!」


ヤン 「嘘だよ~~~馬鹿め~~~! まんまと騙されおって! 言っておくが無理に外そうとせんほうがいいぞ? プロテクトが掛けてある、無理に破壊しようとすると精神に衝撃を与えて廃人になるように作られておるのだ!


さぁ、新しい俺の奴隷よ! リングから降りてきて俺の前で跪け!」


そう言われたリューは、隷属の首輪の効果により、ヤンの命令に従いリングを降りた。


リューの意志とはまったく無関係に身体が勝手に動いていく……



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


ヤン 「わぁっはっはっはっは!」

リュー「あっはっはっはっは!」

ヤン 「?」


乞うご期待!



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