第261話 リュー、賭け試合に出る

睨みつけるヤン。

 

まったく動じる様子もなくクールに見つめ返すリュー。

 

ヤン 「……」

 

リュー 「……」

 

ヤン 「……な、なかなか、すごい自信だな」

 

ヤンが殺気を放つのをやめて言った。

 

ヤン 「お前の冒険者ランクはFだと聞いたが、そうは見えんな、本当は違うのか?」

 

リュー 「ああ間違いない、Fだ」

 

リューは自分の冒険者カードを取り出して見せてやった。

 

リュー 「冒険者ランクは、必ずしも本人の実力を示しているわけじゃない。様々な理由で実力があってもランクが低いままの者も居る。ランクだけを鵜呑みにしていると足元を掬われるぞ?」

 

ヤン 「……」

 

ヤンは昨日、リューが泊めてやった商人のイルミンが、リュージーンの小屋に泊めてもらった話をしているのを聞いたのだ。

 

その後警備隊と揉めて戦闘になり、リュージーンが勝ったという話も聞いた。なんでもリュージーンは【賢者】ではないかという噂まで出ているという。それほど凄腕の冒険者ウィザードならば、仲間に引き入れたいと、ない知恵を絞ったのだ。

 

だが、そのリュージーンは冒険者ランクはFだという話だった。仮に賢者の称号を持つほどの魔法巧者であっても、いや魔法巧者だからこそ、魔法を使わない素手での格闘は得意ではないだろうとヤンは踏んだ。

 

しかも、実際に本人を見てみれば、細腕の若造である。魔力はともかく、腕力は強くなさそうである。これなら、殴り合いなら勝てるだろう。


上手く煽って乗せて、借金を負わせて返済の代わりに自分の手下にしてしまおうと考えたのだ。

 

稚拙過ぎる企みであった。事実、その策は上手く行かず、リューが乗ってこなかった。どうしたものかと思案していると、ヴェラが口を挟んできた。

 

ヴェラ 「じゃあこうしたら? あなた…ヤンさんでしたっけ? 賞金を出してよ、金貨百枚。私も同じだけ出すわ。それくらいあなたなら持ってるでしょう? 勝ったほうが取る……、いや、どうせだからギャラリーにも参加してもらって賭けにしましょう。勝った方に賭けた者が、掛け金の比率で賞金を山分けってわけ。それなら、リューが勝ったらこちら・・・も儲かるし」

 

ヴェラ(リューにウィンクしながら) 「いいわよね?」

 

リュー 「…ドウシヨウカナァ……殴りあいとか自信はないけど、ヴェラがそう言うナラマァイイカァ。

 

じゃぁ俺も賭けに乗ろう、俺からも金貨百枚出す、もちろん自分に賭ける」

 

ヴェラ 「どう? 勝てば最高で金貨二百枚プラスアルファの儲けよ?」

 

ヤン 「…… …… …… 

 

…いいだろう」

 

金貨百枚はヤンにとっても安くはない金である。というか、最近やっと、貯金の額が金貨百枚の大台を越えたと喜んでいたところなのだ。それを全額はたけばなんとか出せる。


……だが負ければ苦労して貯めた貯金を失う事になる。どうしたものか? と思案していたところ、ヴェラがバーのお盆トレーを借り、腰のマジックポーチから金貨百枚を出してトレーに載せて見せたのだ。もう一枚のトレーにリューも金貨百枚を載せる。

 

人間、欲に目が眩むと判断力が鈍る。目の前に積まれた金貨二百枚を前に、ヤンは思わず勝負に乗ってしまったのだった。

 

ヴェラ 「あなたも現金をトレーに積んでね。(後で無いと言われても困るから)」

 

ヤン 「おい、このカードで金貨を降ろして来い」

 

ヤンは部下に命じて自分のギルドカードを渡し、金を用意させた。

 

目の前に積まれた金貨三百枚。それを見て冒険者達も賭けにどんどん乗ってくる。

 

賭けの内容はシンプルである。賭金総額を、勝った方に賭けた者がとる。分配は、賭けた金額比率で配分される。

 

既にヴェラとリューはリューの勝利に賭けている。ヤンは当然自分に賭けている。

 

この状態で、もう一人がヤンに金貨一枚賭けると、総額は三百と一枚となる。それでヤンが勝てば、百対一の割合で、総額がヤンと金貨一枚賭けたもうひとりに分配される事になる。(金貨一枚賭けた者は、三枚弱になって返ってくる事になるわけである。)

 

賭けに乗る者が多いほどその儲けは多くなる。だが、どちらが勝つか……

 

リュー達はバーの裏庭に設置された特設リングに案内された。すると、リングには既に身長2mを超えるガチムチマッチョな大男が立っていた。その体躯は人間とは思えない、まるでオーガである。

 

ヤン 「アイツが対戦相手だ」

 

リュー 「!? お前がやるんじゃなかったのか?」

 

ヤン 「そんな事一言も言ってない」

 

ヴェラ 「卑怯よ!」

 

ヤン 「言っとくが、賭けはもう始まっている、今更降りるのは許されねぇぞ? 別にお前も代役を立ててもいい、何ならそっちのお嬢さんが代わりにやるか?」

 

リュー 「ウワァ、卑怯ダゾォ、これじゃぁ俺に勝ち目なんかナイジャナイカ! だが勝負は時の運だ、やってみなければ分からない、死ヌ気デ頑張ッテミルヨ!」

 

ヴェラ (もうちょっとマシな演技しなさいよ)

 

リュー (俺、演技なんかやった事ないし)

 

だが、三文芝居に冒険者達は簡単に乗ってきた。

 

男達 「おいおい、ゴルガ(対戦相手の大男)が相手じゃ勝負になんねぇだろ」 「よし乗った、もちろんゴルガに賭けるぜ!」 「俺も!」 「俺もだ!」

 

酒場の職員やギルド職員、さらに話を聞きつけた商人なども賭けに乗り、掛け金が上乗せされていく。

 

賭けに参加する者は、ひとクチ金貨一枚(1G)で、三十人三十口の参加となった。さらに、最後に一人の商人が金貨百枚(百口)賭けた。

 

結局、リューの勝利に賭けたのはリューとヴェラともう一人、百口分賭けた商人の三人だけであった。


総額で金貨四百三十枚(四百三十くち


ヤンに賭けられたクチ数が百三十なので、


四百三十 ÷ 百三十 = 約3.3


つまり、ヤンが勝てば3.3倍 × 賭けた口数となる。

ヤンに金貨一枚賭けた者は、ヤンが勝てば金貨3.3枚となって返ってくるわけである。(あくまでヤンが勝てば、である。)


ちなみにリューが勝った場合は1.4倍。リューに賭けたのは三人、それぞれ金貨百枚ずつ賭けているので、リューが勝てば金貨百四十枚返ってくる事になる。

 

掛けが締め切られたところで、リングに上がったヤンが改めてルールを説明する。

 

ヤン 「ルール説明だ。相手を殺すのは禁止。怪我は自前で治す事。武器と魔法の使用は禁止、補助魔法の身体強化も禁止だ。それを守ってもらうためにこの首輪を着けてもらう」

 

ヤンが出してきたのは魔力を抑える首輪であった。効力は試合開始から終了までで自動的に外れるようになっていると言う。


それを素直に装着するリューと対戦相手。 


首輪を嵌めた瞬間、ヤンの口角が少し上がったがリューもヴェラも気づかなかった。

 

ヤン 「試合開始だ!」

 

 

― ― ― ― ― ― ―

 

次回予告

 

賭け試合、結果は……

(火を見るより明らかですね)

 

乞うご期待!

 

 

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